CIO Alert
米国・イラン対立激化局面における投資戦略
米国とイランの対立は、週末に更に激化した。ホルムズ海峡が長期にわたって封鎖される可能性が高まる中で、投資家には今一度、ポートフォリオを見直し、市場リスクをヘッジすることを勧める。
2026.03.23
米国とイランの対立は、週末に更に激化した。トランプ米大統領は、イランが米東部時間23日午後7時44分(日本時間24日午前8時44分)までに脅威のない形でホルムズ海峡を完全に開放しなければ、「(イランの)さまざまな発電所を壊滅させる」と警告した。これに対してイラン革命防衛隊は、発電所が破壊された場合、再建されるまでホルムズ海峡の通航は再開しないと述べた。
投資家はジレンマに直面している。エネルギー供給の制約が長期化するほど、エネルギー価格は上昇し、経済や市場への影響は大きくなる。一方で、株式市場は材料を先行して織り込む傾向があるため、紛争終結やエネルギー供給正常化の兆しが見られれば、急速な反発が予想される。
こうした危機に対処するため、CIOでは投資家に対して、投資を継続し、上昇相場に備えることを勧めてきた。地政学要因に基づいた取引は、失敗につながる場合が多いためである。一方で、危機が長引くのに伴い、ヘッジの追加、分散の強化、景気に敏感なエクスポージャーの削減を通じて、徐々にポートフォリオのリスクを低減する重要性も述べてきた(詳細は3月9日付CIO Alert「イラン情勢、軍事衝突長期化シナリオの考察」を参照)。2月には米国の情報技術(IT)セクターおよびコミュニケーション・サービスセクターの投資判断をNeutral(中立)に引き下げ、3月には欧州の銀行セクターもNeutralへ引き下げた。また、短期的な米ドル高を想定したポジショニングも、ヘッジの手段になり得ると述べてきた。
緊張が足元で更に激化したことで、ホルムズ海峡が長期にわたって封鎖される可能性が高まっている。原油、ガス、石油製品の在庫が世界各地で減少しつつあることを踏まえ、投資家には今一度、ポートフォリオの見直しを勧める。
株式における戦略的(長期)ポジションは維持するのが望ましいと考える。ただし、余剰なエクスポージャーを削減し、今後魅力的な投資機会が見込める高クオリティの短期債への配分を増やすことを勧める。また、地政学的緊張の更なる激化へのヘッジとして、金(gold)および幅広いコモディティへのエクスポージャー追加も有効だと考える。更に、元本保全を重視した運用戦略を用いて、株式への直接投資の一部をヘッジすることも検討できる。
市場リスクをヘッジする投資戦略
株式の超過保有分を、欧州を中心とした高クオリティの短期債に置き換えることを勧める。債券市場は現時点で、欧州中央銀行(ECB)は年内に3回、イングランド銀行(BOE)は2回の利上げを実施し、米連邦準備理事会(FRB)は利下げを実施しないと織り込んでいる。しかしCIOでは、エネルギー価格の上昇による短期的なインフレ押し上げ効果に市場の注目が集中しており、中期的に経済成長に対して悪影響が及び、利下げを促す可能性が十分に織り込まれていないと考える。よって、利上げ期待を利用して高クオリティの短期債に投資することで、利回りを確定する好機がもたらされるとみている。
株式への戦略的エクスポージャーは維持するのが望ましいが、リスクへの過剰なエクスポージャーを減らして高クオリティな短期債への配分を増やすことは、地政学的リスクを低減しつつ、魅力的な利回りを確保する有効な手段だとみており、紛争が収束した場合、または市場が経済成長の急減速を織り込み始めた場合の債券利回り低下に備えることができると考える。
世界の主要株式市場のうち、ドイツ、インド、日本、ユーロ圏に関しては、エネルギー輸入への依存度および製造業の比重の高さから、危機が継続した場合の短期的なリスクを注視する必要がある。
また、原油や金など、コモディティへの追加投資を行うことも有効だ。紛争が収束した場合、原油価格は下落すると考えるが、ホルムズ海峡が封鎖された状況が続けば、原油価格は更に大きく上昇することが想定されるため、原油をポートフォリオに組み入れることで、株式や債券に対する魅力的な分散効果を享受することができる。
一方、金は、今回の軍事衝突開始以降、金利上昇期待や米ドル高が投資家心理を押し下げ、冴えないパフォーマンスとなっている。しかし、エネルギー価格の高止まりによる経済成長への悪影響に市場の焦点が移り始めれば、金価格は大幅に上昇する可能性がある。
株式への直接投資の一部について、ある程度の上昇余地を確保しつつ元本を保全する運用手法に置き換えることも検討できる。
現在の環境では、規律と機動力の双方が求められる。米国とイランの対立激化により、エネルギー供給における混乱の長期化やボラティリティ上昇のリスクが高まっているが、過去にも、地政学的緊張が緩和すれば市場は速やかに巻き戻されてきた。CIOの基本的な戦略は変わらない。すなわち、戦略的(長期)には投資を継続しつつ、分散投資や市場リスクのヘッジ、景気に敏感なエクスポージャーの超過分の削減を通じて、アクティブにリスクを管理することである。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。
