CIO Alert
相場反発局面における分散とヘッジ
トランプ米大統領の主張のトーンの変化を受け、23日の株式・債券相場は上昇した。現在の市場反発は、エネルギー価格に対して特に感応度の高い資産へのエクスポージャーを見直す好機を提供していると考える。
2026.03.24
何が起きたか
トランプ米大統領は23日、協議が進展していることを理由に、週末示唆していたイランのエネルギーインフラに対する軍事行動を5日間延期すると発表した。これを受け、米株式・債券市場は上昇し、原油価格は下落した。市場では、トランプ大統領による主張のトーンの変化を、紛争の緊張緩和に向けた一歩と受け止めた。
トランプ大統領はSNSへの投稿で、過去2日間に米国とイランの間で非常に良好で生産的な協議が行われたと述べた。さらにその後、記者団に、米国はイランの要人と協議しており、主要な点で合意に達したとも語った。一方、イラン国営メディアは、協議が行われた事実を否定している。
23日、S&P500種株価指数は1.1%上昇し、ブレント原油価格は10.6%下落して1バレル当たり100米ドルとなった。金価格は日中の大幅下落から持ち直したものの、前日比で3.6%安の1オンス当たり4,411米ドルとなった。米10年国債利回りは、同日に4.44%前後まで上昇した後、4.35%に低下した。2年国債利回りも一時4%超に上昇したが、3.85%へ低下した。欧州のユーロ・ストックス600指数は、序盤は軟調だったが、その後持ち直し、0.6%高で取引を終えた。
こうした動きは、市場がいかに急速に事態の変化に反応し得るかを示している。トランプ大統領が週末、イランが米東部時間23日午後7時44分(日本時間24日午前8時44分)までに脅威のない形でホルムズ海峡を完全に開放しなければ、「(イランの)さまざまな発電所を壊滅させる」と警告したことを受け、週明けのより早い時間帯に取引されていたアジアの株式市場は急落し、韓国の総合株価指数(KOSPI)は6.5%下落、日経平均株価と香港ハンセン指数の両指数は3.5%安で取引を終えていた。
どう捉えるか
23日の市場の急激な変動からも、地政学を材料にした短期的な取引ではなく、戦略的(長期)な株式保有の維持が重要であることがわかる。市場は先を織り込む性質があり、状況が「改善する」必要はなく、「悪化度合いの緩和」だけでも、反発することは十分にある。
同時に、直近の緊張激化、報復、そして一時的な沈静化という一連の流れは、今後の先行きは不安定で、僅かな状況の変化に左右されやすいことを示している。協議が決裂すれば、23日の市場反発は急速に巻き戻されることが予想される。再び瀬戸際外交が展開される公算は大きく、追加的な攻撃やエネルギー供給の混乱が起きる可能性は高い。将来的にインフラが破壊されるリスクも否定できない。なお、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は23日、数千人規模の米海兵隊が27日に中東地域へ到着する予定だと報じている。
また、仮に協議が成功したとしても、エネルギー供給が円滑に回復すると安易に想定すべきではない。脅威が排除されたと船主が確信するまでには時間を要するだろう。停止されていた石油生産を再開するにも時間がかかることが想定される。一方で、複数の国・地域では石油製品の在庫水準が低下しており、在庫が補充されるまでの間、需要抑制のために更に高い価格水準が必要となる可能性もある。よって、少なくとも短期的にはエネルギー価格は高い状況が続き、経済成長の重石になるとともに、断続的な価格の変動が予想される。
CIOでは引き続き、原油価格が高い状態が続くほど、段階的なポートフォリオのリスク低減を推奨しており、現在の市場反発は、エネルギー価格に対して特に感応度の高い資産へのエクスポージャーを見直す好機を提供していると考える。
投資戦略
反発局面を利用し、株式の過度なリスクを構造的成長・ディフェンシブ分野へ分散することを勧める。CIOでは株式全般に対する投資判断を引き続きAttractive(魅力度が高い)としており、株式への戦略的(長期)なエクスポージャーの維持を推奨する。一方で、欧州全般、ユーロ圏およびインドの株式の投資判断をAttractiveからNeutral(中立)に引き下げ、スイス株式と欧州のヘルスケアセクターはAttractiveに引き上げる。
欧州株式は景気感応度が高く、原油・天然ガス価格の上昇に敏感である。エネルギーコストが高止まりすれば、製造業の回復が妨げられる可能性がある。インフレ率の上昇や地政学的な不透明感も欧州の消費者心理の重石となり得る。また、CIOでは欧州中央銀行(ECB)の利上げを想定していないが、政策の方向性を巡る不透明感も相場の下押し要因となる。
インド経済も原油価格への感応度が高い。原油の88%を輸入に依存しており、エネルギーの輸入元はロシアや米国などに分散されているものの、約40%はホルムズ海峡経由で輸入している。原油だけでなく、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)についても中東への依存度が高い。エネルギー価格の上昇は、経常赤字の拡大や財政負担の増加をもたらし、経済成長の鈍化につながる可能性がある。
CIOでは、長期的な成長が期待でき、エネルギー供給混乱の影響が限定的なディフェンシブ市場のリスクが相対的に低いとみている。よって、スイス株式および欧州ヘルスケアセクターの投資判断をAttractiveに引き上げる。いずれも通常のボラティリティは比較的低いが、軍事衝突開始以降は10%超下落しており、バリュエーションの魅力度が相対的に高いと考える。昨年は関税や米国の薬価政策を巡る不透明感が重石となっていたが、こうした圧力は概ね後退しており、米ドル安による企業利益への逆風も収束しつつある。配当利回りはスイス株式が3.2%、欧州ヘルスケアセクターが2.7%と魅力的であり、リターンの安定性を支えるだろう。また、保有株式の一部を、元本保全を重視した運用戦略へ置き換えることで、ポートフォリオの耐性を高めることも検討できる。
短期の高クオリティ債を勧める。債券価格は23日に反発したが、市場はECBが年内に約3回、イングランド銀行(BOE)が2回の利上げを実施し、米連邦準備理事会(FRB)は利下げを実施しないと引き続き織り込んでいる。しかし現時点での債券市場は、エネルギー価格の上昇による短期的なインフレ押し上げ効果に過度に注目しており、経済成長の中期的な下振れによる利下げリスクや、緊張緩和の可能性は十分に織り込まれていないと考える。
こうした局面は、利上げ期待を利用して短期の高クオリティ債に投資し、魅力的な利回りを確定する好機とみている。また、市場が経済成長の急減速を織り込み始めた場合や、紛争が収束して短期的な利上げ観測が後退した場合の利回り低下にも備えることができると考える。CIOでは23日に、2-5年債を中心に、米国債の投資判断をAttractiveに引き上げた。
原油や金など、コモディティへの追加投資も有効だ。原油価格は23日に急落したことから、ポートフォリオに原油を組み入れ、株式や債券からの分散を図るには魅力的なエントリーポイントになったと考える。協議が決裂し、ホルムズ海峡の封鎖が続く場合や、エネルギー供給の混乱が想定以上に長引く場合には、原油価格は再び上昇するだろう。原油に投資する手段としては、ファンドや先物などが検討できる。
一方、金価格は今回の軍事衝突開始以降、金利上昇期待が投資家心理を押し下げたことで、大きく下落している。米ドル高や、サプライチェーンの問題による中東での購入減少も金価格への下押し圧力となり、一部の機関投資家や国家による利益確定売りを招いている。しかし中期的には、地政学面で不確実性の高い状況が続くなかで金利上昇への期待が後退すれば、金価格は大幅に上昇すると見込む。よって、CIOでは引き続き、金が長期的なポートフォリオのヘッジ手段として有効と考える。金を選好する投資家には、ポートフォリオを分散し、マクロ経済要因によるショックから中期的に保護する手段として、金への配分を資産全体の最大5%程度とすることを勧める。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。
