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米国・イラン衝突:FAQ - 9つの質問

米国とイスラエルがイランに対して実施した軍事攻撃は、報復の連鎖を引き起こしたことで中東全域において緊張が高まり、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしている。一部でLNG生産停止や製油所への攻撃により供給リスクは高まっているが、全体として基本シナリオは引き続き有効と考える。

主な動向

米国とイスラエルがイランに対して実施した軍事攻撃は、報復の連鎖を引き起こしたことで中東全域において緊張が高まり、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしている。3月2日の主な動きは以下の通りである。

・世界有数の液化天然ガス(LNG)輸出国であるカタールは、ラスラファンおよびメサイードの重要施設がイランの無人機(ドローン)攻撃の標的となったことを受け、LNGの生産を停止した。通常、世界のLNG輸出量の約20%が、主にカタールからホルムズ海峡を経由して輸送されているが、現在は同海峡でのタンカー航行がほぼ停止している。これを受け、欧州の天然ガス価格は39%超上昇し、英国およびオランダの先物価格は一時それぞれ59%、54%上昇した後、41%と35%高で取引を終了した。米国のLNG輸出企業の株価も急騰した。

・ブレント原油先物は一時13.6%上昇し、1バレル当たり82米ドルを上回った後、上げ幅を縮小した。ホルムズ海峡経由の輸送の安全性に対する懸念に加え、サウジアラビアのラス・タヌラ製油所が、ドローン攻撃を受け操業停止したことで供給不安が高まった。加えて、イラクのクルド人自治区やイスラエルの石油・ガス関連施設でも予防措置としての操業停止が報告され、世界のエネルギー供給は一段と逼迫している。

・投資家が安全資産を求めたことで、金価格は一時2.7%上昇し、1オンス当たり5,400米ドルに達した。エネルギー価格の高騰が長期化する可能性を受け、米連邦準備理事会(FRB)による早期の追加利下げ期待は後退した。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが行われる確率が2%となっており、前週の6%から低下した。米ドルと米国債利回りも上昇した。

・株式市場は方向感に欠ける展開となった。S&P500種株価指数は横ばい、ナスダック総合株価指数は0.4%上昇した一方、欧州のユーロ・ストックス600指数は1.6%下落し、MSCIアジア指数(除く日本)も2日序盤に0.8%下落した。エネルギー株および防衛関連株がアウトパフォームした一方、旅行関連銘柄は下落した。

シナリオと投資見解

CIOでは、今後の展開について、基本シナリオと悲観シナリオの2つを想定している。

・基本シナリオでは、世界のエネルギー供給における混乱は短期間にとどまるとみている。輸送の混乱が一時的なものにとどまり、重要な石油インフラの大部分が維持され、軍事行動を継続する必要性が後退していることが明確になれば、現在の原油価格の急騰は少なくとも部分的に巻き戻されると考える。このシナリオでは、市場の変動が今後数週間にわたって高まる可能性があるが、その後は世界経済の良好なファンダメンタルズに焦点が戻り始める見通しである。近年発生した地政学的ショックが市場に与えた影響も、多くの場合同様の傾向だった。

・悲観シナリオでは、中東地域のエネルギー生産および供給の混乱が長引き、エネルギー価格の高止まりによる影響が世界経済および金融市場に拡大する可能性がある。1973年の第4次中東戦争後や2022年のロシア・ウクライナ戦争開始後には、このような深刻な影響が見られた。

3月1日付CIO Alert「米国・イスラエルのイラン攻撃で地政学リスク高まる」で述べた通り、CIOでは以下の5つのポイントを注視する。

1.ホルムズ海峡経由のエネルギー輸送は継続するか?

2.エネルギー生産にどのような影響が及ぶのか?

3.米国とイスラエルの早期の「勝利宣言」となる可能性は?

4.原油価格上昇はインフレと経済成長にどう影響するか?

5.エネルギー価格上昇に中央銀行はどう反応するか?

カタールのLNG生産停止およびサウジアラビアの製油所への攻撃により供給リスクは高まっているが、全体として基本シナリオは引き続き有効と考える。CIOでは、幅広い株式指数への投資を継続するとともに、株式内および様々な資産クラスでの分散を図ることで、ポートフォリオの耐性を高めることを勧める。

FAQ – 9つの質問

1.軍事衝突はどの程度続き、どこまで拡大するのか?

基本シナリオでは、今回の軍事衝突は4週間未満で収束するとみている。背景としては、イランの軍事力の急速な低下や、米国の防衛用の迎撃ミサイルの備蓄が比較的限られていることに加え、米国内の政治的要因が挙げられる。トランプ政権は中間選挙を控え、エネルギー価格の高止まりが長期化することを望まないだろう。

衝突はすでに複数の国に波及しているが、ロシアおよび中国を巻き込む形で拡大するリスクは低く、確率は10%未満とみている。ロシアは依然としてウクライナに軍事力を集中させており、新たな軍事目標を追求する余力は限られる。一方、中国は経済的コストを回避するために、直接的または間接的にも関与することは考えにくい。ここ数カ月、中国ではイラン産原油の輸入が減少傾向にあり、過去にも中東での紛争に積極的に関与したことはない。

2.原油価格は今後どう推移するか?

ブレント原油価格は2日の取引序盤に急上昇し、1バレル当たり82米ドルを上回った後、本稿執筆時点では79米ドル弱まで戻し、1日での上昇幅は7.8%となった。だが、原油価格がこの水準で均衡するとは考えていない。

海運各社が予防措置として、ホルムズ海峡の航行を控える動きを続けた場合、イラクなど一部の国で貯蔵容量が足りなくなり、生産が停止される可能性がある。中東地域のエネルギーインフラが更なる攻撃を受け、生産能力が大幅に損なわれた場合には、供給が途絶し、原油価格が1バレル当たり90米ドルを上回ることも想定される。長期的には、世界全体で備蓄されている石油の放出により、供給の混乱は解消に向かうとみているが、市場は当初の需給不均衡を織り込みにいくとみられ、混乱の深刻度に対する認識や期間によって、価格の上昇幅は大きくなる可能性がある。

一方で、基本シナリオ通り、軍事衝突が比較的速やかに収束し、原油輸送が正常に戻れば、ブレント原油価格はイラン攻撃前の予想値である60-70米ドルのレンジに戻ると考える。

3.原油価格の上昇は世界経済にどう影響するか?

原油価格の上昇が世界経済に及ぼす影響は、上昇の期間と幅によって変わる。原油価格が数カ月以上にわたって高止まりすれば、経済成長やインフレ率に大きな影響をもたらすと考えられるが、基本シナリオではそのような状況は想定していない。

持続的な原油価格ショックが起きた場合には、経済成長よりもインフレに対するリスクの方が大きいと予想する。経済成長に下押し圧力がかかったとしても、エネルギー分野への投資拡大によって部分的に相殺されると考えられるためである。

4.金価格はどこまで上昇するのか?

金価格は2日に2.7%上昇し、1オンス当たり5,419米ドルに達した。上昇分は一部巻き戻されたが、過去2週間では6%超の上昇となっている。過去に中東で紛争が起きた際、金の地政学リスクプレミアムは5-10%上昇した。ただし、金に対して強気の見方をする理由はそれだけではなく、中央銀行による活発な金購入、高水準の政府債務に対する懸念、法定通貨からの分散の動き、経済政策の不確実性なども、ポートフォリオにおけるヘッジ手段としての金の価値を高める要因となっている。

中東情勢は引き続き予測困難であり、和平交渉が再開すれば金価格は一時的に下落する可能性もあるが、マクロ環境を踏まえ、金価格は年内に1オンス当たり6,200米ドルに達すると予想する。原油価格の高止まりで世界の経済成長見通しが悪化した場合や、インフレと同時に景気が停滞するスタグフレーションが発生した場合には、金価格は更に押し上げられる可能性がある。

5.変動するスイス・フランの見通しは?

安全資産への需要が高まる中、スイス・フランは2日に一時、対ユーロで2015年1月以来の高値まで上昇した。しかしスイス国立銀行(SNB)が、国際情勢を考慮して為替介入意欲を強めていると表明したことを受け、同日中に上昇分をすべて吐き出した。

CIOでは、SNBが特定のユーロ/スイス・フラン水準を目標に介入を行うとはみておらず、政策金利を再びマイナス圏に引き下げるとも考えていない。軍事衝突の影響により、短期的にはスイス・フランに対する買いが続く可能性があるものの、安全資産需要が徐々に後退するにつれて、ユーロ/スイス・フランは上昇し、米ドル/スイス・フランは概ね横ばいで推移すると予想する。

6.米ドル高と米国債利回り上昇の動きをどう理解すべきか?

米ドル指数は2日、約1%上昇した。この動きは、米ドルの伝統的な安全資産としての役割、米国が原油輸出国であることによる原油価格上昇の影響、そして米国債利回りの全般的な上昇の結果と考える。

短期的に安全資産への資金流入と原油価格の上昇が米ドルを支える可能性があるが、中期的にはこの動きは反転するとみている。基本シナリオでは、世界のエネルギー供給の混乱は短期間にとどまると考えている。また、FRBが政策スタンスを急いで変更するとは考えておらず、原油価格ショックを一過性と捉える判断は、過去の関税を巡る議論と同様になるとみている。中央銀行関係者は、単発的な物価水準の上昇に過度に反応しない姿勢をこれまで示してきた。よって、CIOでは現時点でも、FRBが年内に25ベーシスポイント(bp)の利下げを2回実施するとの見方を維持する。

ユーロは対米ドルで年後半にかけて値を戻すとみており、年末時点のユーロ/米ドル予想は1.20としている。一方、米国10年国債利回りは今後数カ月間は変動が続く可能性があるものの、最近のレンジを大きく上抜ける展開は想定していない。

7.今回の危機によるテクノロジーセクターへの影響とは?また、足元のボラティリティは投資機会となるか?

地政学リスクを理由にテクノロジー株が大きく調整する可能性は低いとみている。一方で、AI関連銘柄を取り巻く事業環境がより複雑化しつつある点にも留意している。イネーブリング層、インテリジェンス層、アプリケーション層といったAIのバリューチェーン全体への分散およびアクティブなアプローチを推奨し、特にAI関連の個別銘柄や競争が激化している分野への集中投資については見直しを勧める。また、個別のソフトウェア企業への過度な集中や、AIによる代替リスクの影響を受けやすい企業にも注意を払う必要がある。

エネルギー価格の上昇は、AIのエネルギー消費の大きさを踏まえると、AI関連セクターの一部にとって逆風となる可能性があるが、エネルギー効率向上への注目の高まりは、投資テーマ「電力と電源」の一部セクターにとっては追い風となる可能性もある。テクノロジーセクターへのエクスポージャーが過大な投資家は、リスク・リターン(リスクに見合ったリターン)面でより魅力的と考える米国の資本財、銀行、ヘルスケア、公益事業、一般消費財セクターへの分散の検討を勧める。

8.防衛関連株への投資に適切なタイミングか?

米国の防衛関連株は、米国・イスラエルとイラン間の軍事衝突リスクが高まる中、過去2週間で6%以上上昇している。今回の軍事衝突は、より積極的な軍事介入へと向かう広範な流れを示唆するものと受け止められ、世界各国政府が防衛支出、とりわけ防衛能力の近代化への投資を拡大する動きを後押しすると考える。米国では2027年に向けて防衛予算を50%増額する案が検討されており、欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は2035年までに防衛支出を国内総生産(GDP)比5%まで引き上げることを目指している。アジア太平洋地域でも軍事支出は拡大しており、中国は2025年に防衛予算を約7%増額している。投資は、先端兵器、弾薬、サイバーセキュリティ、更にはドローンやAI搭載システムといった次世代技術に向かっている。

防衛セクターは数十年にわたる再軍備サイクルの恩恵を受ける可能性があるものの、規制変更、予算制約、新たな脅威への対応といったリスクも存在する。よって、米国の防衛大手よりも、ミサイルや弾薬分野に裾野を持つサプライヤーや、技術革新主導のサブセクターを選好する。欧州の資本財セクターにおいても、防衛即応態勢の回復には時間を要するものの、防衛支出拡大に対する政治的姿勢の変化を背景に、一部の防衛関連株にポジティブな見方をしている。

より戦略的なエクスポージャー構築を目指す投資家は、個別銘柄のボラティリティが高まっている局面を活用したインカム創出を検討することも考えられる。

9.複数のリスクが重なる局面でどう対応すべきか?

足元の市場では、地政学リスク、AIを巡る競争への懸念、クレジット市場への不安など、通常よりも幅広い要因が同時にボラティリティを高めている。こうした環境下では、恐怖や不確実性に基づく拙速な投資判断を避けることが重要である。重大な地政学的ニュースに対して、2日の米国株式市場は過剰反応することなく、比較的冷静な動きにとどまった。

投資家にとって最良の防御策は分散であると考える。個別リスクの影響を緩和すると同時に、株式市場で幅広く分散投資することで、2026年末までに更に約10%の上昇が予想される投資機会を捉えることができる。

地域、セクター、個別企業のいずれかに偏りがある投資家には、分散を進めることで、リターン獲得とリスク管理の両立を図る好機と考える。米国では、資本財、銀行、ヘルスケア、公益事業、一般消費財を選好している。欧州では、構造的成長が期待でき、不確実な地政学環境下でもポートフォリオの保護に寄与してきた、防衛関連を含む各セクターのリーダー銘柄を選好する。アジア太平洋地域では、中国、インド、オーストラリア、日本が、次の上昇局面を牽引する地域になるとみている。

更に、市場ヘッジやオルタナティブ投資などの活用によって、ポートフォリオの耐性を高めることができる。例えば、コモディティ価格の持続的な上昇に留意する投資家は、分散およびポートフォリオ防御の手段として幅広いコモディティへの投資を検討することができる。また、高クオリティ債や、ヘッジファンドなどオルタナティブ資産への十分な配分は、ポートフォリオの変動を低減し、ショックの影響を抑える上で有効である。このような環境下では、市場環境の転換局面を乗り越え、ボラティリティによる価格の歪みを活用できる一部のヘッジファンド戦略が、ポートフォリオ安定化においてより重要な役割を果たすと考える。もっとも、投資家は流動性の制約を含むオルタナティブ投資特有のリスクについて、自身の許容度を十分に評価する必要がある。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“CIO Alert: US-Iran conflict: Key questions for investors”(2026年3月2日付)を翻訳・編集した日本語版として2026年3月3日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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