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米国・イスラエルのイラン攻撃で地政学リスク高まる

米国とイスラエルは2月28日、イラン全土にわたる共同空爆を開始した。これにより、イラン最高指導者ハメネイ師が死亡したことが確認されている。トランプ米大統領はイランの体制転換を求め、攻撃を必要な限り、中断することなく継続するとソーシャルメディア上で警告した。

何が起きたか?

米国とイスラエルは2月28日、イラン全土にわたる共同空爆を開始した。これにより、イラン最高指導者ハメネイ師が死亡したことが確認されている。トランプ米大統領はイランの体制転換を求め、攻撃を必要な限り、中断することなく継続するとソーシャルメディア上で警告した。ただし3月1日にはホワイトハウス高官が、トランプ大統領は最終的にイランの暫定指導部と協議する用意があると述べている。

ハメネイ師だけでなく、イラン革命防衛隊トップの司令官など、多数のイラン軍高官が殺害されたと報じられている。イランのペゼシュキアン大統領は、この作戦を「犯罪的攻撃」と非難し、革命防衛隊は今までで「最も壊滅的」な報復を行うと表明した。ハメネイ師の後継者は現時点で発表されておらず、3人で構成される暫定評議会が、指導者の継承プロセスを監督することとなっている。

イスラエルとイランはその後も攻撃の応酬を続けている。イスラエル各地ではミサイル攻撃を受け空襲警報が鳴り、イランの首都テヘランでも爆撃が報告されており、双方とも死傷者を出したと発表している。中東全域および同地域の米国関連軍事施設に対して、ミサイルやドローンによる攻撃が報告され、防空システムが作動した。

今回の攻撃により、中東湾岸地域の空域にも混乱が生じた。ドバイやドーハの主要空港は運航を停止し、エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空は大半の便が現時点で欠航となっている。ロイター通信によると、イラン革命防衛隊が石油タンカーに無線連絡し、ホルムズ海峡の通航は認められないと警告した。エネルギー市場は週末のため休場だった一方、1日に取引が行われた中東地域の株式市場は2-5%下落した。

今後の見通し

米国とイランの対立が戦争状態へとエスカレートしたことは、想定外ではなかった。ブレント原油価格は攻撃前の2月27日に7カ月ぶりの高値を付け、金価格も1オンス当たり5,277米ドルまで上昇して、直近付けた終値としての史上最高値にあと数%まで迫った。

CIOでは基本シナリオとして、世界のエネルギー供給における混乱は短期間にとどまるとみている。短期的に原油価格が上昇することがあっても、供給の途絶が一時的であること、重要な石油インフラが破壊されていないこと、そして軍事行動を継続する必要性が後退していることが明確になれば、上昇分は少なくとも一部巻き戻されると考える。このシナリオでは、市場の変動が今後数週間にわたって高まる可能性があるが、その後は世界経済の良好なファンダメンタルズに焦点が戻り始める見通しである。近年発生した地政学的ショックが市場に与えた影響も、多くの場合同様の傾向だった。

ただし悲観シナリオでは、エネルギー供給の混乱が続き、世界経済・市場への影響が拡大する可能性を想定しており、今回の攻撃開始でそのリスクが高まったことは確かである。1973年の第4次中東戦争後や、2022年のロシア・ウクライナ戦争開始後には、このような深刻な影響が見られた。

今後数週間から数カ月の間、注視が必要なポイントは以下になる。

1.ホルムズ海峡経由のエネルギー輸送は継続するか?

ホルムズ海峡は世界で最も重要な石油輸送ルートであり、世界の石油需要の5分の1超、海上輸送量の約3分の1に相当する量の石油が通過する。1日に約2,100万バレルが、イラン、イラク、クウェート、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)から世界の市場へと輸送されている。海運各社が同ルートの航行を控える動きが既に見られ、今後、輸送の混乱が拡大するか、またどの程度続くか注視する。イランは1980年代に、ホルムズ海峡に機雷を設置して航路を妨害した。基本シナリオでは、イランの軍事力低下、中東地域における米軍の強力なプレゼンス、そしてイラン側でも輸出が必要であることを踏まえ、イランが長期にわたってエネルギー輸送を途絶えさせることは困難だと考える。

2.エネルギー生産にどのような影響が及ぶのか?

現時点では、イラク北部の供給混乱を除き、中東地域全体で原油生産は継続している。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国から成るOPECプラスは3月1日、4月の原油生産量を日量206,000バレル引き上げることで合意した。ただし、イランの報復措置により、他の中東諸国の原油生産・供給能力が損なわれないか注視する。イラン国内で権力の空白が生じた場合、イランのエネルギー生産が中長期的にリスクにさらされる可能性もある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、イランの石油生産量(原油および天然ガス液)は、1月時点で日量約480万バレルであり、世界全体の約4.5%に相当する。

3.米国とイスラエルの早期の「勝利宣言」となる可能性は?

原油の供給混乱が継続しないという基本シナリオは、これまでの米国とイスラエルの軍事作戦が相対的に成功していることや、イランの軍事力が迅速に低下する可能性に一部基づいている。また、トランプ政権は11月の米中間選挙を控え、原油価格が継続的に上昇することによる国内政治リスクの高まりを強く意識すると考えられる。一方で、イランの体制は依然として存続しており、交渉上の影響力を得るために、紛争を長期化させ、エネルギー供給を混乱させる可能性がある。そのため、より持続的かつ破壊的な紛争に発展するリスクは依然として残る。

4.原油価格上昇はインフレと経済成長にどう影響するか?

世界経済の原油価格変動に対する感応度は、経済成長におけるエネルギー依存度の低下により、長期的には低下してきた。それでも、エネルギー価格の継続的な上昇は経済の重荷となる。米ダラス連銀の分析によれば、ガソリン価格が10%上昇すると、初月の個人消費支出(PCE)価格指数は0.2%ポイント押し上げられ、累積では0.3-0.4%ポイントの影響が生じるが、その効果は数カ月後には急速に薄れる。また、食品とエネルギーを除いたコア指数への影響は殆どないとされる。ホルムズ海峡が一時的に閉鎖され、原油価格が更に上昇したとしても、米国のインフレへの影響は比較的限定的とみられる。ただし、主要産油国である米国よりも、輸入依存度の高い欧州やアジアへの影響が大きいだろう。

国内総生産(GDP)成長の観点では、原油価格上昇は消費者および企業に対し、税負担増に類似した形でコスト増をもたらす。原油市場は価格上昇に伴って供給が増える自己調整的な性格を有するため、一時的な価格急騰が成長に長期的な影響を及ぼすとは考えていない。ただし、高価格が継続した場合、石油輸入国にはベーシスポイント(bp)単位の悪影響が出るものの、数年後には薄れると予想する。

また、イランの石油生産の多くは中国向けであり、中国の海上石油輸入の約13%を占めている。したがって、大規模な供給混乱は中国経済にとって逆風となり得る。ただし、中国は混乱に備えて準備を進めてきたとみられる。米国など他国も、短期的な供給ショックを緩和するために戦略備蓄を放出する可能性がある。

5.エネルギー価格上昇に中央銀行はどう反応するか?

投資家にとっての潜在的な懸念は、原油価格主導のインフレ率上昇が主要中央銀行の利上げにつながることである。しかし、ここ数年の中央銀行幹部の発言を見る限り、関税引き上げなど一過性の物価上昇に過剰反応しない姿勢が示されている。それでも、2022-2023年の経験を踏まえ、中央銀行はインフレ期待の上昇リスクに対する警戒を強めると考えられる。

投資戦略

歴史的に見ると、地政学的ショックが市場に与える影響は、経済ショックに転化しない限り、短命に終わることが多い。紛争の最中に急いでリスク資産を売却するのは、過去において高い収益をもたらす戦略ではなかった。基本シナリオが示すように、今回の紛争が継続的に世界経済を混乱させることはないと考えるならば、長期的視点を維持し、幅広い株式指数への投資を継続し、変動局面を活用してより分散されたポートフォリオを構築することを勧める。

上昇相場の裾野拡大に備える

軍事的緊張への初期反応として、株式市場はリスク回避的な動きを見せる可能性がある。しかし、米国の堅調な経済成長、力強い企業利益、世界的に高水準の財政支出を背景に、株式市場全体の見通しは引き続き良好であり、2026年末までに現在の水準から更に10%の上昇余地があると見ている。米国株式に加え、欧州、日本、中国、新興国株式にも上昇余地があると考えており、グローバル株式は魅力的である。個別テクノロジー株や米国テクノロジー株、あるいは特定地域への偏りがある投資家は、分散を進める好機と考える。欧州では、防衛関連株を含む各セクターのリーダー企業を選好する。これらは構造的成長が期待でき、不確実な地政学環境下でポートフォリオの保護にも寄与してきた。アジア太平洋地域では、中国、インド、オーストラリア、日本が次の上昇局面を牽引するとみている。

コモディティを選好する

米国・イスラエルによるイラン攻撃前から、ブレント原油価格は年初としては2022年以来の大幅上昇を記録していた。CIOでは2026年に、特に金属を中心とした広範なコモディティに上昇余地があるとみている。中東情勢の急展開により、コモディティ市場内の変動性が強まっており、アクティブ運用戦略の魅力が高まっている。また、総資産の中で最大5%程度の金への配分は、分散効果を高め、地政学リスクに対する緩衝材になると考える。

市場リスクをヘッジする

今回のイラン攻撃は、資産を戦略的に分散することの重要性を改めて示している。高クオリティ債や、ヘッジファンドなどオルタナティブ資産への適切な配分は、ポートフォリオの変動性を低減し、ショックの影響の抑制につながる。投資家は、オルタナティブ投資に伴うリスク管理能力と許容度を慎重に評価した上で、投資をする必要がある。

為替市場では、今回の攻撃を受け、短期的にはスイス・フランなど安全通貨と見なされる通貨が強含み、景気循環に敏感な通貨が弱含む可能性が高い。ただし、基本シナリオでは、こうした動きは一時的なものにとどまると考える。投資家は為替の歪みを活用し、必要に応じて通貨配分をリバランスすることを検討できる。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“CIO Alert: US-Iran escalation adds to geopolitical risks”(2026年3月1日付)を翻訳・編集した日本語版として2026年3月2日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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