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グリーンランド情勢と日本の財政懸念で市場急落

グリーンランドを巡る国際情勢の緊張の高まりおよび日本の財政政策への懸念を背景に、株式と債券は20日、世界的に下落した。CIOでは、グリーンランド情勢がリスク資産全体に対する強気見通しを変える理由にはならないと考える。

何が起きたか?

デンマーク自治領のグリーンランドを巡る国際情勢の緊張の高まりおよび日本の財政政策への懸念を背景に、株式と債券は20日、世界的に下落した。

トランプ米大統領は17日、米国がグリーンランドを購入できるまで、欧州8カ国に追加の関税を課すと表明した。欧州連合(EU)は、関税賦課や米国企業による欧州市場へのアクセス制限などの報復措置を検討しているとされている。世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)での演説を21日に控え、トランプ大統領はグリーンランドの掌握を目指す方針について、「後戻りすることはない」とSNS上で述べた。

長期化する不透明感や米国とEU間の貿易摩擦再燃への懸念が株式市場の重石となった。米国のS&P500種株価指数は2.1%下落し、欧州のユーロ・ストックス600指数は0.7%下落して取引を終えた。ただし、両指数は過去1年間でそれぞれ約15%、約19%上昇していたことを考慮する必要がある。

米ドルも大きく下落した。米ドル指数は0.8%下落したが、相場の変動が高まる局面では通常米ドルが上昇しやすいという過去の傾向とは対照的な動きだ。投資家は他の安全資産に資金を移動させ、金(gold)は3.7%上昇して過去最高値を更新し、スイス・フランも対米ドルで0.9%上昇した。

一方、日本では19日、高市早苗首相が衆議院を解散する意向を正式に表明し、27日に総選挙の公示、2月8日に投開票を実施することとなった。高市首相は記者会見で、食品に対する消費税の減税や、国家安全保障の強化、幅広い分野への投資を拡大させる考えを示した。

この報道を受け、日本国債は財政懸念から下落し、10年国債利回りは8ベーシスポイント(bp)上昇して2.35%となった(8日に付けた直近安値は2.08%)。日本国債の利回りが国内投資家にとって魅力的になることで、国内への資金還流(リパトリエーション)が進むのではという懸念が高まる中、国債に対するセンチメントが世界的に悪化した。米10年国債利回りも7bp上昇して4.29%となった(前週に付けた安値は4.14%)。

今後の見通し

米国によるイランの核施設攻撃やベネズエラ攻撃など、地政学イベントが金融市場に与える影響は、事態が短期間で収束するものであれば比較的小さい傾向があった。よってCIOでは、米国とグリーンランド、デンマーク、EUの間で膠着状態が長期化するか、関税措置に対する報復が激化し、双方が経済的・政治的圧力をかけ合う事態となるリスクを注視している。こうした状況になれば、特に欧州のリスク資産に対し、非常に大きな悪影響が及ぶと考える。

比較的穏健な解決策としては、トランプ政権がグリーンランドを取得せず、十分な軍事・資源面でのアクセス権を確保することが考えられる。昨年の関税交渉でも、トランプ政権には交渉に応じ、関税水準を当初の水準から引き下げる用意があることが示された。相場が短期的に更に大きく変動する可能性には注意が必要だが、CIOの基本シナリオでは、グリーンランドを巡る緊張がリスク資産全体に対する強気見通しを変える理由にはならないと考える。足元の地政学的な不透明感を踏まえ、株式のエクスポージャーを複数の地域、セクター、構造的成長テーマに分散することを勧める。米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動されたトランプ関税を違法と判断した場合、新たな関税を発動する際に制約が生じる可能性がある。

一方、日米の長期国債価格の最近の下落は、財政政策が疑問視された際に生じる売り圧力によるものである。だが、長期債利回りの上昇が続く場合、国債発行額の調整および中央銀行の介入によって利回りが抑制されると考える。変動が高まった後にこのような措置が取られれば、債券市場にはプラスに働くとみられるが、為替の変動が大きくなる可能性がある。CIOでは2026年6月時点における米国および日本の10年国債利回りをそれぞれ3.75%、2.00%と予想しており、いずれも現状より低い水準である。

投資戦略

株式への追加投資を行う

2026年の世界的な経済成長は株式市場にとって好ましい環境を提供するとみている。実質国内総生産(GDP)成長率は株式市場の最も重要なマクロ要因の1つであり、世界の主要4経済圏はいずれも財政拡張路線にある。堅調な経済成長は企業利益にも好影響をもたらす。CIOではS&P500種株価指数の1株当たり利益(EPS)が今年12%増加すると予想しており、2025年の予想値11%と比べても高い。世界各地でも利益成長の加速が見られる。

米国とEU間の貿易戦争はリスクであるが、欧州諸国の防衛費増額の必要性が高まっている。域内での軍事装備調達への注力強化は、欧州防衛関連株の支援材料となるだろう。

インカム戦略で分散投資する

CIOでは引き続き、高クオリティ債(特に高格付国債および投資適格社債)が2026年において利回りの源泉および分散効果の観点から重要な役割を果たすと考える。米連邦準備理事会(FRB)が利下げをする中で、中期(4-7年)の高クオリティ債は、利回りと価格上昇により1桁台半ばのリターンをもたらすと予想する。現在の財政懸念および国際情勢を背景とした利回りの変動は、債券への配分が不足している投資家にとってエクスポージャーを増やす好機と捉えられる。

コモディティを選好する

金は引き続き地政学的緊張の高まりに対する有効なヘッジ手段である。よって、他の貴金属よりも金を推奨する。

金は産業需要のサイクルによる影響が小さく、中央銀行による外貨準備の分散先としての需要も継続している。2026年は全般的にコモディティがポートフォリオでより重要な役割を果たすとみている。工業用金属および貴金属のリターンは需給バランスの不均衡、構造的需要、地政学的リスク、通貨価値下落懸念などによって左右される。

市場リスクをヘッジする

分散されたポートフォリオと金へのエクスポージャーの維持に加え、株式への直接投資の一部を元本保全や下落リスク抑制を重視した運用手法に置き換えることも検討できる。こうした手法は、相場の下落局面での損失を限定しつつ、上昇時には一定のリターン獲得も目指せる。また、ポートフォリオ全体の変動や市場ショックへの耐性を高めることができる。直接的なヘッジに加え、オルタナティブ投資による分散も、株式と債券が同時に動く局面で相関の低いリターン源となり得る。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“CIO Alert - Markets fall amid Greenland tensions”(2026年1月20日付)を翻訳・編集した日本語版として2026年1月21日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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