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グリーンランド購入巡るトランプ関税、欧米緊張高まる
トランプ米大統領は、米国がグリーンランドを購入できるまで、欧州8カ国に追加の関税を課すとSNSに投稿した。CIOではリスク資産全体に対する強気な見通しを維持するが、短期的な相場の変動に備え、資産クラスや地域を分散した堅固なポートフォリオを構築することを勧める。
2026.01.20
何が起きたか?
トランプ米大統領は17日、米国がデンマーク自治領のグリーンランドを購入できるまで、欧州8カ国に追加の関税を課すとSNSに投稿した。トランプ大統領は、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、オランダ、フィンランド、英国からの輸入品が、2月1日から10%の追加関税の対象になるとし、6月1日には税率を25%に引き上げて、グリーンランド購入が合意に至るまで継続すると述べた。デンマークおよびグリーンランドの首相は、グリーンランドは売り物ではないとの姿勢を示している。追加関税の対象となった欧州8カ国は18日に共同声明を発表し、関税による脅しは欧米の関係を傷つけ、危険な負の連鎖を引き起こすリスクがあると指摘した。欧州連合(EU)は報復措置を検討しており、フランスのマクロン大統領は、米国企業によるEU市場へのアクセスを制限できる「反威圧措置(ACI)」の発動を提起する方針だと報じられている。
今後の見通し
米国がグリーンランドに関心を持つのは、国家安全保障の戦略上重要な位置と、レアアースなどの鉱物資源が理由である。現在の緊張状態は、2025年11月の国家安全保障戦略で示された、西半球を米国の勢力圏と主張する文脈からも捉えるべきである。これを踏まえ、現状の緊張が解消されるシナリオとして以下の3つが考えられる。
1. 米国がグリーンランドを取得せず、十分な軍事および資源面でのアクセス権を確保する
米国は1951年の防衛協定に基づき、グリーンランドでの軍事プレゼンス拡大の権利を既に有しており、グリーンランド側も米国の商業活動拡大に前向きな姿勢を示している。デンマークや北大西洋条約機構(NATO)もグリーンランドのインフラや防衛能力強化への支出増加に意欲的だ。ただし、トランプ大統領は「国は所有権を持たねばならず、所有権を守るのであって、リース契約を守るのではない」と発言しており、グリーンランドとデンマークが主権について譲歩しなければ、米国の要求を満たさない可能性がある。
2. 米国が非軍事的手段でグリーンランドの主権を獲得するか、それに準じた影響力を持つ
このシナリオでは、条約の締結によって米国が一部の領土を完全に掌握することが認められる場合や、グリーンランドがデンマークから独立した後、米国との関係が緊密化する場合を想定している。ただし、この過程には数年を要するだろう。
3. 米国が軍事プレゼンスを高め、グリーンランドの掌握を宣言する
デンマークやEUの軍事力は、米国がグリーンランドを軍事的に掌握することを阻止するには不十分である。米国がこうした行動に出た場合、NATO内の亀裂が深まり、連邦議会など米国内からの反発も予想される。
投資戦略
今回の緊張の高まりは、短期的に相場の大きな変動を招く可能性がある。しかし、米国によるイランの核施設への攻撃や、ベネズエラ攻撃といった地政学イベントが示す通り、金融市場全体としては、単発的な動きにはあまり大きく反応しない傾向がある。よって、米国によるグリーンランド併合が双方の合意のもとで行われた場合、金融市場への影響は限定的と考える。
米国とグリーンランド、デンマーク、EUの間で膠着状態が長期化するか、関税措置に対する報復が激化し、双方が経済的・政治的圧力をかけ合う状況となれば、特に欧州のリスク資産に非常に大きな悪影響が及ぶと考える。ただし、米国が軍事的選択肢を示唆することは、譲歩を引き出すことを目的とした交渉戦術の一部である可能性もある。米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動されたトランプ関税を違法と判断した場合、新たな関税を発動する際に制約が生じるだろう。
CIOの基本シナリオでは、グリーンランドを巡る緊張がリスク資産全体に対する強気見通しを変える理由にはならないと考える。ただし、短期的な相場の変動には注意が必要だ。影響を緩和するため、複数の資産クラスや地域に分散したポートフォリオを維持し、更なる情勢悪化リスクに備え、より堅固なポートフォリオを構築するための選択肢を2つ提示する。
1つ目には、金(gold)が挙げられる。金は一般的に、地政学リスクの上昇局面で信頼性の高いヘッジ手段となる。また、他の貴金属よりも産業需要のサイクルによる影響が小さく、中央銀行による外貨準備の分散先としての需要も継続している。
2つ目は、CIOの投資テーマ「欧州のリーダー企業」の一部を構成する欧州防衛株である。NATO加盟国間の亀裂が深まれば、欧州各国は防衛費の増額や、軍事装備品の調達期間の短縮を迫られ、域内調達に重点を置くことになるだろう。これは欧州防衛株への追い風になるとみている。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメント
アジア太平洋地域チーフ・インベストメント・オフィス責任者
Min-Lan Tan
さらに詳しく
2002年にシンガポールにてストラテジストとしてUBSに入社。アジア金融専門誌「アジアマネー」のアナリスト・ランキングで、2003年から2012年まで10年連続で在シンガポール・アナリスト1位。2012年9月よりUBSインベストメント・バンクのマクロ・ストラテジー・リサーチのグローバル・ヘッドを務める。2013年8月、UBSウェルス・マネジメントCIOのアジア太平洋地域ヘッドに就任。UBS以前はメリルリンチに7年勤務し、シンガポール・アジア地域の株式ストラテジスト、東南アジア地域のエコノミスト等を歴任。それ以前には、シンガポール金融通貨庁(MAS)でシニアエコノミストを務める。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。
