日本株式

短期はボラティリティ急上昇も年末に向けて回復を予想

日本株式先物は10日、公明党が自民党との26年間にわたる連立を解消し、高市早苗氏の首相就任の不確実性が高まったことを背景に急落した。しかし、短期的な不確実性が後退すれば株価は反発すると予想する。

  • 日本株式先物は10日、急落した(日経平均株価先物:-6.8%、東証株価指数(TOPIX)先物:-3.0%)。公明党が自民党との26年間にわたる連立を解消し、高市早苗氏の首相就任の不確実性が高まったことが背景だ。米中対立の激化も市場の不確実性を高めている。
  • 政治的にも市場的にも不確実性が大きく高まっており、今後数週間は日本株の重石となるだろう。とはいえ、高市氏が首相に就任するという我々の見解は変わらず、短期的な不確実性が後退すれば株価は反発すると予想する。
  • 高市氏が自民党総裁選で勝利した後の日本株は力強く上昇していたため変動も大きい。TOPIXは直近1週間で2.2%、年初来では14%上昇しており、S&P500種株価指数をアウトパフォームした。TOPIXの下値の目安は3,050程度と考えている。今後数週間は、国内政治動向や米中当局者の政策進展を注視することを勧める。

何が起きたか

10月10日、公明党は自民党との26年間にわたる連立関係を解消した。これにより、比較第1党(過半数には達しないが、国会の議席数を最も多く持つ政党)である自民党の総裁となった高市早苗氏が国会で首相に指名されるかどうかについて、不確実性が大きく高まった。

首相指名は当初15日に予定されていたが、20日以降に延期された。また米中貿易戦争の再燃や米国製の重要なソフトウェアの輸出規制の強化の可能性も浮上し、不透明感が一段と強まった。その結果日本株先物は急落し、12日時点で日経平均株価先物は-6.8%、東証株価指数(TOPIX)先物は-3.0%となった。

我々の見解

こうした不確実性の急激な高まりは、今後数週間にわたり株式市場の重石となるだろう。しかし我々は引き続き、高市氏が首相に就任すると考えている。現時点の状況は流動的であるが、野党は各党の政策不一致が多く、一丸となることが困難だと思われる。株価は、短期的な不透明感の解消後に持ち直すと考えている。

少数与党の首相でも株式市場にネガティブなわけではない

我々の基本シナリオに即し高市総裁が誕生したとしても、自民党は議席数的には弱い少数与党として政権をスタートさせることになるが、この状況は株式市場にとってネガティブではないと考える。

高市氏は、野党と歩調を合わせて物価高対策としての年収の壁引き上げやガソリン暫定税率の廃止等の政策を進めるだろう。一方で、極端に右派的・保守的な政策は打ち出しにくい。結果、中道派および世論の支持を獲得するためにも、より経済対策を中心とした政策を優先して進めることとなるだろう。

一方で、高市氏がトランプ米政権と建設的な関係を構築し、国際的な存在感を向上させることができれば、株式市場にとってはサポート要因となる。10月27から29日には、トランプ米大統領の来日が予定されている。

高市氏の政策は、短期的には物価高対策としてのガソリン暫定税率の廃止や所得税基礎控除の拡大、中小企業支援などの経済対策に注力するだろう。中長期的には、国家の危機管理と成長投資が中核となるとみている。特に、「責任ある積極財政」のもと、インフラ投資、生産性向上、最先端技術への積極的な投資を行うと考えられる。高市氏は経済安全保障担当大臣を務めた経験があり、日本の競争力向上に注力すると思われる。

これまでの自民党総裁で、日本の未来へのビジョンや成長戦略を明確に示した人物はいなかった。高市氏の自民党総裁選勝利を受け、日本株が大きく上昇した背景は、こうした日本の構造的な変化に対する期待を反映したものであると考える。

短期リスク

もちろん、短期投資家の間には、アベノミクス型の積極的金融緩和政策の再来を期待した投資家もいたであろう。こうした投資家は日本株のポジションを急速に縮小させる可能性がある。さらに、高市氏が首相指名で内閣総理大臣に指名されない可能性や、米中間の緊張の激化もリスクである。日本株の先物が急落しているのは、こうした懸念を反映したものである。

短期的にはボラティリティ急上昇も、年末にかけて株価回復を予想

10月4日の自民党総裁選での高市氏勝利以降の1週間で、日経平均は5.1%、TOPIXは2.2%上昇した。年初来では、それぞれ19%、14%上昇しており、S&P500種株価指数の10%を上回った。しかし、先物市場の急落により、この上昇は急速に終息した。

これだけ急速な調整が起こると、センチメントの改善には時間を要するかもしれない。ただ、我々は高市氏が総理に指名される可能性が高いと考えていること、米中対立もこれまでの貿易交渉同様に妥協点を見出すと考えていることから、年末に向けて株価は再び上昇軌道に回帰すると考えている。

短期的なTOPIXの下値の目安は、9月上旬に自民党の幹事長などが辞任を表明し、石破茂首相退任の可能性が高まった時期と同水準の3,050と考えている。この水準におけるTOPIXの株価収益率(PER)は15.1倍と、過去5年間平均の14.5倍を上回るが、S&P500種株価指数のPERの22.3倍と比較すると、32%割安だ。これは、自民党総裁選前の水準から変化していない。

目先の注目イベント

  • 10月20日以降:首相指名
  • 10月27-29日:トランプ米大統領来日と首脳会談
  • 10月31日-11月1日:アジア太平洋地域(APAC)サミット期間での米中首脳会談実施の可能性、日本は中国・韓国との会談
  • 10月中旬-:米国企業の決算発表開始
  • 10月下旬-:日本企業の決算発表開始

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Elevated volatility likely on political news in coming weeks, but recovery expected by year-end”(2025年10月13日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年10月14日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
小林 千紗

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト

小林 千紗

さらに詳しく

チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。


2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。

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