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米中貿易摩擦の再燃が市場の重石に

S&P500種株価指数は10日に2.7%下落した。米中貿易摩擦が再燃し、市場にリスク回避のムードが広がったためだ。S&P500種株価指数は年初来で15%上昇していたが、トランプ米大統領が中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる方針を示したことで、その上昇局面は中断する形となった。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は10日に2.7%下落した。米中貿易摩擦が再燃し、市場にリスク回避のムードが広がったためだ。S&P500種株価指数は年初来で15%上昇していたが、トランプ米大統領が中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げる方針を示したことで、その上昇局面は中断する形となった。

10日の取引終了後、トランプ大統領は追加の関税措置の内容を発表した。11月1日より中国からの輸入品に100%の追加関税を課すほか、「重要ソフトウェア」に対する輸出規制を実施するというものだ。これは中国がレアアース(希土類)に関する輸出規制拡大を決定したことへの対抗措置であり、中国の習近平国家主席との間で予定されていた首脳会談を取りやめる可能性も示唆した。

また、中国側は10月14日から、米国所有・運航の船舶、および米国籍船舶に港湾使用料を課すと発表した。米国が今年導入した、中国関連船舶に対する入港料への対抗措置である。さらに中国の独禁当局は米半導体大手によるイスラエル半導体企業買収に関し、独占禁止法違反の疑いで調査を開始したと発表し、報復の範囲を貿易・物流以外にも広げる中国政府の姿勢が示された。

債券市場は安全資産を求める動きから上昇し、年限にかかわらず利回りが低下した。米10年国債利回りは8ベーシスポイント(bp)、米2年国債利回りは6bpの低下となった。金(gold)価格は1%上昇、米ドル指数は0.6%下落し、グローバル市場の不透明感の高まりを反映している。

どう考えるか?

トランプ大統領が4月に発表した「解放の日」の相互関税による米中貿易戦争の脅威は、これまでに大きく後退していた。しかし、両国の関係の根底には戦略的な対立があるため、再燃の可能性は常に存在した。今回の米中対立により、相場の大きな変動が予想される。トランプ・習両首脳の交渉では、摩擦の激化と一時的な休戦のサイクルが繰り返されており、足元の展開からは新たな対立局面の始まりが示唆される。短期的な市場の動向は、米中摩擦の行方に大きく左右されるだろう。

中国は世界のレアアース供給の約70%を占めており、交渉上有利な立場にある。化学品や大豆に関して合意が成立すれば、両国の緊張緩和の糸口となる可能性があり、市場は好感するだろう。一方、テクノロジー分野の摩擦が激化するか、地政学・防衛分野にまで対立が及んだ場合には、事態の打開はいっそう困難となる可能性がある。

習主席とトランプ大統領は、10月31日から韓国で開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で会談予定であり、今回の対立において重要な節目となるだろう。我々は全面的な貿易戦争に発展する可能性はまだ低いとみており、両国とも妥協点を探り、深刻な貿易戦争の回避を目指しているものと考える。会談が実施され、解決の糸口が見いだされるまでは、数週間にわたって様々な分野で緊張が高まると予想される。

投資インプリケーション

米国と中国のテクノロジー株を中心に株式市場は力強い上昇を続けてきたが、今後数日から数週間は調整局面となる可能性がある。「重要ソフトウェア」の定義や、その対象外となる分野、通商拡大法232条による半導体関税の詳細などが注目点となる。当面は、AIバリューチェーンのイネーブリング、インテリジェンス、アプリケーションの各層にバランスよく投資する方針を維持する。中期的には、米国と中国のテクノロジー株に対し引き続き強気であり、大きな調整があれば投資の好機となる可能性がある。

株式全体としては、強気相場は継続するとみており、株式の保有比率が低い投資家にとって、押し目を利用して長期投資のポジションを増やす機会と考える。米国企業の利益成長は、消費の底堅さと、AIの開発・導入に向けた設備投資の堅調さに支えられている。S&P500種株価指数の1株当たり利益(EPS)は2025年に8%、2026年に7.5%の成長を見込む。

一方、米連邦準備理事会(FRB)は利下げサイクルを再開しており、FRB幹部の発言からも今後の追加利下げの可能性が高まっている。我々は利下げ回数を年内に2回、2026年1-3月期(第1四半期)に1回と予想する。

投資戦略

1)株式を押し目買いする

株式の押し目買いによる戦略的な長期のポジション積み上げを引き続き推奨する。不確実性が高い状況ではあるものの、今回の調整もその好機となり得る。金利の低下、企業の力強い利益成長、AIの追い風が、今後1年間のグローバル株式の上昇を支える主な要因となるだろう。

戦術的(中短期)には、米国のテクノロジー、ヘルスケア、公益事業、金融セクターを選好する。欧州ではスイスの高クオリティ配当株、欧州の高クオリティ株、資本財セクターに注目する。その他の地域では、中国のテクノロジーセクター、シンガポール、インド、ブラジルを推奨する。

2)変革的イノベーションに投資する(TRIO)AI、ロンジェビティ(健康長寿)、電力と電源

AIは市場パフォーマンスの主な牽引役である。目先の関税による不透明感が解消されれば、今後もAIへの投資が続くことで、さらなる成長が期待される。AIバリューチェーンのイネーブリング、インテリジェンス、アプリケーションの各層にバランスよく投資することを勧める。米中の貿易摩擦の再燃が今後の相場変動の要因となるため、政策担当者の発表やテクノロジー企業の四半期決算に注目する必要がある。AI関連株はChatGPT登場以降、グローバル株式の上昇を牽引してきたが、AI、電力と電源(AI普及も電力はボトルネックであり、投資機会)、ロンジェビティ(ヘルスケアはAIの恩恵を受け、バリュエーションも魅力的)の3分野にバランスよく投資することを推奨する。

3)金(gold)へ投資する

金の上昇は安全資産としての魅力が健在であることを示している。金はポートフォリオの分散手段や政治・経済リスクへのヘッジとして有効である。米ドル安、中央銀行の需要、実質金利低下が金への追い風となるだろう。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“CIO Alert - Renewed US-China trade tensions weigh on markets”(2025年10月12日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年10月13日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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