日本経済
高市新総裁誕生:成長に向け経済政策刷新へ
10月4日、高市早苗氏が大方の予想に反して自民党総裁に選出された。10月中旬にも首相に指名される見通しであり、日本初の女性首相となる。
2025.10.07
高市氏、10月中旬にも初の女性首相就任へ
10月4日、高市早苗氏が大方の予想に反して自民党総裁に選出された。事前調査で支持を集めていたのは小泉進次郎氏だが、ステルスマーケティングなど選挙規則違反の可能性がある選挙戦術が、小泉氏の人気低下につながったものとみられる。高市氏は10月中旬にも首相に指名される見通しであり、日本初の女性首相となる。
高市氏は財政に対する拡張的な姿勢で知られ、減税を公約に掲げており、就任後間もなく景気支援策を発表する見込みだ。金融政策に関しては緩和的なスタンスをとっている。

市場の反応
短期的には、拡張的な財政政策と緩和的な金融政策への期待から、日本株は下支えされると考える。一方、財政懸念の高まりにより、日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)がスティープ(傾斜)化する可能性がある。円は少なくとも短期的には下落するとみており、日銀の金融政策正常化に対する期待の後退と財政懸念の高まりから、ドル円は150円近辺またはそれ以上に達する可能性がある。
減税と景気支援策が成長を促す見通し
高市氏は物価高対策として、ガソリン税暫定税率の廃止や所得税基礎控除の拡大を掲げている。設備投資の加速を主な目的とした大規模な景気支援策を計画しており、消費と投資双方の促進につながる見通しである。
成長戦略においては、国家安全保障および経済安全保障関連の分野や成長分野における設備投資拡大が重点となるだろう。半導体、人工知能(AI)、次世代電池、コンテンツ産業に対する補助金の導入が期待される。また、資産運用立国の推進、中小企業の生産性向上による賃上げ促進、公共インフラへの投資による国土強靭化も目指す方針である。
中長期的には、国防費の大幅増額や、給付付き税額控除の導入を主張する可能性がある。

政治的不安定が継続するリスク
新総裁が決定したことで、政治的不確実性はやや緩和したものの、自民党は依然として国会で少数与党の立場にあり、不安定な状況は継続する見通しだ。日本維新の会や国民民主党との連立交渉により、政策には変更が生じる可能性がある。維新の会は教育無償化や大阪副首都構想を焦点にすると予想され、国民民主党は消費税減税を主張するとみられる。
連立交渉が不調に終われば、10月下旬開始予定の臨時国会で内閣不信任決議案が提出され、年内に衆議院の解散総選挙が実施される可能性がある。
不信任案が提出されないとしても、臨時国会が2025年12月に終了した後、または予算や法案を審議する通常国会が2026年6月に終了した後に、少数与党脱却を目的とした解散総選挙が行われる可能性がある。
資産クラスへの影響
債券:
高市氏の緩和的な姿勢と経済状況に対する慎重な見方から、日銀の利上げは後ずれするリスクがあるが、我々は段階的に利上げが実施されるという見通しを維持する。高市氏は金融政策正常化に対する姿勢をまだ明確にしていないが、政策金利は2025年12月または2026年1月に0.75%、その6カ月後に1%に引き上げられ、ターミナルレート(政策金利の最終地点)は1-1.25%になると予想する。
日本の10年国債利回りは、利上げ期待から既に適正水準を上回っているが、財政懸念の高まりに伴い、年末までに一時的に1.8%まで上昇する可能性がある。その後、財政懸念が落ち着くことによる下押しと利上げ再開への期待による上昇圧力が均衡する中、2026年を通じて1.7-1.8%のレンジで推移すると予想する。
株式:
株式市場への影響はポジティブとみている。高市氏の他の主要候補に比べて拡張的な財政政策とハト派寄りな金融政策スタンスへの期待が株価を牽引すると考える。短期的には、インフレによる負担の緩和を目的とした減税が消費を下支えし、国内設備投資を促す景気支援策が、将来的な日本の生産性向上を後押しするだろう。
中期的には、国家安全保障(防衛、サイバーセキュリティなど)および経済安全保障(特に半導体、AIなど先進技術)分野への補助金を重視する成長戦略が、関連セクターに恩恵をもたらすとみている。高市氏は以前、日銀の利上げに反対していたが、選挙戦中にスタンスを軟化させている。現行の段階的な利上げサイクルが維持されると仮定すれば、金融セクターが大きな悪影響を受けることは考えにくいだろう。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト
石井 一正
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2024年9月より、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントにて、ストラテジストとして国内外のマクロ経済・政治情勢の分析を担当。
UBS入社以前は、内閣府にて経済財政白書の執筆等のマクロ経済の調査分析、「骨太の方針」をはじめとする政府方針の策定に従事。2011年ミシガン大学経済学修士課程修了。

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ストラテジスト
小林 千紗
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チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。
2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス 日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト
青木 大樹
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2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。
また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。