日本経済
総裁選2025:バランスか、改革か、成長か
自民党総裁選は10月4日に投開票が実施され、勝者が次期総理大臣となるだろう。主な候補は、比較的若く改革志向の小泉進次郎農水相、政策通でバランスの取れた姿勢を持つ林芳正官房長官である。
2025.09.17
- 自民党総裁選は10月4日に投開票が実施され、勝者が次期総理大臣となるだろう。主な候補は、比較的若く改革志向の小泉進次郎農水相、政策通でバランスの取れた姿勢を持つ林芳正官房長官である。高市早苗前経済安保相は成長重視の政策を掲げるが、当選の可能性は低いと考える。
- 小泉氏が勝利した場合、変化への期待から株式が上昇する可能性がある。一方、林氏が勝った場合は、相場への影響は比較的小さいと考える。高市氏が総裁に選ばれた場合は、株価は上昇するものの、財政への懸念から日本国債と円には下押し圧力がかかる可能性がある。
- 自民党総裁選後、衆議院の解散総選挙が行われる可能性が高い。11月中旬から下旬までは政治的に不透明な状態が続く可能性があるが、高市氏が新総裁にならない限り、12月の利上げは実施されるとみている。
林氏と小泉氏が有力候補
9月7日、石破茂首相が自民党総裁を辞任すると発表し、次期自民党総裁を選定するプロセスが始まった。後任者は衆議院議員による投票を通じて日本の次期首相に任命されるだろう。
自民党総裁選は10月4日に予定されている。複数の候補者が立候補の意向を示しているが、小泉進次郎農水相と林芳正官房長官の2人が有力候補と考えられ、続いて高市早苗前経済安保相となる。元外務大臣の茂木敏充前幹事長や小林鷹之元経済安保相など他の候補者も立候補を表明しているが、勝利の可能性は低いとみられている。
政策に関しては、小泉氏は規制改革、子育て支援などの社会保障改革に重点を置くだろう。林氏はよりバランスの取れたアプローチを取り、現政権の政策路線を維持すると予想する。両候補とも財政規律と中央銀行の独立性を重視している。対照的に、高市氏は拡張的な財政政策と、より緩和的な金融政策を好むことでよく知られている。
総裁選の1次投票は、党員と国会議員の票数をそれぞれ295票ずつとする「フルスペック方式」で行われる。したがって、地方の党員票が大きな役割を果たすことになる。世論調査でリードしている小泉氏と高市氏はこの点で有利であり、林氏は知名度が低いため不利となるだろう。
しかし、国会議員票を見ると、高市氏の支持基盤である旧安倍派は前回の総裁選以降、2回の国政選挙を経て半減しており、高市氏にとって課題となっている。一方、林氏は旧岸田派の支持を受け続けており、豊富な閣僚経験、英語力、外交経験、バランスを重視する政治姿勢から、国会議員の支持を多く集める可能性が高い。
こうした状況を踏まえると、1次投票では小泉氏と高市氏が有利となり、その場合は決選投票で小泉氏が勝つだろう。しかし、もし林氏が1次投票で高市氏を上回れば、党内での基盤の強さにより、決選投票で小泉氏に勝利する可能性が高いと考えている。したがって、勝者は小泉氏か林氏のいずれかになると考えており、高市氏が1次投票と決戦投票の両方を突破する可能性は低いとみている。

政治的不透明感は11月中旬から下旬まで続く可能性が高いが、12月利上げの見通しは変わらない
自民党総裁選は9月22日に告示され、投開票は10月4日に行われる。投開票後、数日以内に特別国会で新首相が任命される見込みだ。
新首相が任命された後、衆議院の解散・総選挙が行われる可能性が高いと考えている。組閣後、内閣支持率が上昇すれば、首相が議席を回復させるために衆議院を解散する可能性も否定できない。逆に支持率が上がらなければ、選挙で選ばれていない総理として、野党が結束して内閣不信任決議を可決させる可能性が高い。その場合、10月中下旬に衆議院が解散し、11月中下旬に総選挙が実施される可能性がある。野党が議席獲得のために大規模な減税を主張する可能性もあり、政治的不透明感は高止まりするだろう。
しかし、政治の季節が終わり、12月に入れば経済対策や来年度の税制改正案、予算案が固まってくる中で、市場は落ち着きを取り戻すと考えている。加えて、その頃には関税が企業業績や経済に与える影響もより明確になるだろう。そのため、2026年第2四半期以降の景気回復を見込み、日本銀行が2025年12月に利上げを行うという予想は変更しない。

市場へのインプリケーション
日本株式:小泉氏または高市氏なら他候補よりポジティブ
44歳で改革志向である小泉氏、または成長重視の財政政策とハト派的金融政策を掲げる高市氏が当選した場合、株式市場はポジティブに反応すると考える。林氏は現政権の政策を維持するとみられ、株式市場への影響は中立的となる可能性が高い。
誰が勝利しても、自民党は少数与党に留まる見込みだ。自民党が拡張的政策を支持する野党と連立を組めば、政府の政策は現石破政権よりも拡張的な方向にシフトするだろう。
金利:高市氏なら上昇、他候補なら中立
小泉氏と林氏は財政出動を行う可能性があるが、財政健全化を重視するため、債券市場は恒久的な財政悪化を織り込まず、日本国債の利回りは安定するだろう。高市氏が勝利した場合、財政拡張的な政策姿勢から、一時的に利回りが上昇する可能性がある。しかし、彼女が過去に自民党の政策責任者としてとりまとめた成長と財政のバランスが取れた経済財政政策や、参院選前に消費減税を訴えるも食料の減税に限定したものとしたことを踏まえると、財政懸念は時間とともに払拭されると考える。したがって、日本の10年国債利回りは2025年末に1.5%、2026年には1.7%程度に落ち着く見通しだ。
為替:高市氏の場合は円安、他候補なら中立
小泉氏または林氏が選出される場合、円は大きく変動しないだろう。両者とも日銀の独立性を重視しており、日銀は計画通り段階的な利上げを継続すると考えられる。高市氏が首相になれば、新総理のハト派的姿勢を踏まえ、日銀は利上げに慎重になり、財政懸念も重なって円は弱含む可能性が高い。日銀が明確な行動を取るまでは、米国の金利動向がドル円を左右するだろう。



UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト
石井 一正
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2024年9月より、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントにて、ストラテジストとして国内外のマクロ経済・政治情勢の分析を担当。
UBS入社以前は、内閣府にて経済財政白書の執筆等のマクロ経済の調査分析、「骨太の方針」をはじめとする政府方針の策定に従事。2011年ミシガン大学経済学修士課程修了。

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チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト
小林 千紗
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チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。
2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス 日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト
青木 大樹
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2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。
また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。