デジタル資産

米国の暗号資産、法整備加速

米国は「世界の暗号資産の中心地」になるために、暗号資産を規制する法案の成立を推し進めている。トランプ大統領はGENIUS法に署名し、超党派の支持を集めているCLARITY法案も年内に承認される見通しである。

  • 米国は「世界の暗号資産の中心地」になるために、暗号資産を規制する法案の成立を推し進めている。トランプ大統領はGENIUS法に署名し、超党派の支持を集めているCLARITY法案も年内に承認される見通しである。
  • 規制の枠組みが明確になることで、暗号資産の一種である米ドル建てステーブルコインの米国内外における幅広い利用が促進されるだろう。デジタル資産の潤滑油的存在として安全性と流動性が高まれば、伝統的金融資産のトークン化など、デジタル資産を推進する他の取り組みの追い風になると考える。
  • ステーブルコインの普及は、必ずしも暗号資産の持続的な価格上昇を意味するわけではなく、価格は法案発表前からすでに大きく上昇していたことに留意されたい。
  • ステーブルコインの重要性が高まるにつれ、裏付け資産にできる米短期国債への需要が高まると予想する。しかし、需要の増加が米国債利回りに影響を及ぼすかどうかは不透明である。

米国では7月に、連邦議会が審議を進めていた3つのデジタル資産関連法案の1つ「GENIUS(ジーニアス)法案」が成立し、暗号資産関連の法整備が大きく前進した。本稿では、一連の法案の内容と、デジタル資産および投資家へのインプリケーションについて詳しく述べる。

3つのデジタル資産関連法案

1) GENIUS

2025年7月18日にトランプ大統領が署名し、成立したGENIUS法は、米ドルに連動するステーブルコインの発行とその規制について定めた法律だ。ステーブルコインとは、基準となる資産やレート(主に米ドル)に連動し、安定した価値で推移するよう設計された暗号資産で、銀行や決済サービス事業者など伝統的金融機関と競合し得る様々な用途の重要な基盤とも考えられる。

GENIUS法では、米国内でのステーブルコインの発行者を、規制当局の承認を受けた金融機関に限定し、米ドルや米短期国債、レポ取引、その他規制当局が承認した低リスク資産など、適切な準備資産による全額裏付けを義務付ける。発行者は準備資産の構成の報告と定期監査を求められ、銀行秘密法(Bank Secrecy Act)に準拠し、マネーロンダリングおよびテロ資金供与の対策措置や、消費者保護の強化も義務となる。

ステーブルコインに関する規制の導入が始まった国はまだ少ない(米国、EU、英国、香港など)。我々は、米財務省や銀行監督当局が法律の実施に向けて速やかに動くことで、ステーブルコインの普及を促進すると考える。

2) CLARITY法案

CLARITY法案は、デジタル資産とその関連技術を定義する枠組みと、デジタル資産取引所および仲介業者に対する規制体制を定めるものであり、デジタル資産の一部を証券ではなく商品として扱い、米商品先物取引委員会(CFTC)の権限を拡大する。下院では294対134の賛成多数で可決され、超党派の支持が集まっており、米国政府も支持を表明しているため、法律として成立する可能性が高いとみられる。

3) CBDC監視国家法案

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは、中央銀行が発行する、デジタル化された法定通貨を指す。反CBDC監視国家法案は、米連邦準備理事会(FRB)が一般消費者の利用向けにCBDCを発行することを阻止するのが目的である。CBDCはステーブルコインに対して実質的な競合となり、普及の妨げとなる可能性があるためだ。ただし、同法案には民主党議員の大半が反対しており、成立に必要な支持が得られる見込みは低い。

投資家へのインプリケーション

新たな規制が迅速に承認されたことは、トランプ政権に暗号資産関連の法整備を速やかに推し進める意欲があり、それが実現可能であることを示している。我々は、GENIUS法とCLARITY法の成立が、ステーブルコインおよび暗号資産全般が幅広く活用される資産として普及するための重要な一歩になると考える。

特にステーブルコインは、伝統的金融市場とデジタル資産の橋渡し役を担い、法定通貨とデジタル資産の交換手段となる。市場の安全性が確保され、正しく機能すれば、ステーブルコインの流動性は向上し、魅力が高まって、トークン化された伝統的金融資産を含むデジタル資産のエコシステムの拡大につながるだろう。同時に、エコシステムの成長に伴い、潤滑油的存在としてのステーブルコインの需要も増加すると考える。

新興国でも、国内銀行の脆弱さ、高い取引コスト、高いインフレ率を理由に、国内銀行システムへのエクスポージャーを最小化する動きとして、個人間のステーブルコインへの需要が高まる可能性がある。ステーブルコインの普及拡大により、米ドル建てのステーブルコインで資産を保有する動き(米ドル化)が強まるだろう。

一方、ステーブルコインの発行者は、準備資産による金利収入を確保することが、コインの発行枚数を可能な限り増やす動機となるが、ステーブルコインは利息が付かないうえ、インフレで価値が減少するため、先進国の個人が法定通貨をステーブルコインに換金する動機にはなりづらい可能性がある。

したがって、ステーブルコインの普及は進み、需要は拡大する見通しだが、一部で予測されたように、米ドル連動型ステーブルコイン市場が2年以内に2,500億米ドルから1兆-2兆米ドルへ急拡大することは考えにくいとみている。

ベッセント財務長官は今年6月、ステーブルコインのエコシステムの発展によって、ステーブルコインの裏付けとなる米国債の民間需要が拡大するとの見方を示した(2025年6月18日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)。確かに、ステーブルコインの準備資産となる米短期国債への需要は、他の条件が同じであれば、ステーブルコインが重要性を増すとともに拡大するだろう。ただし、需要の増加の規模や、(伝統的)銀行システムからの短期国債に対する需要がどの程度減るのかは不透明だ。

米国内では、米ドルに連動するステーブルコインの普及により、一時的にボラティリティ(市場の変動率)が高まる局面が予想される。ステーブルコインや暗号資産全体の急落は、準備資産の強制売りを招き、米短期国債の価格が大きく下落する要因となりうる。金融市場、金融政策の伝播(市場への波及効果)、ひいては米国経済に影響が及ぶだろう。オペレーションリスクや詐欺に加え、ステーブルコインと米ドルとの連動が一時的に失われる原因となる流動性リスクや発行者のデフォルト(債務不履行)にも注意が必要である。

また、ステーブルコイン市場が拡大し、資産のトークン化が進んでも、暗号資産全体の価格が同じように上がるとは限らないことも重要な点である。特に、企業独自のブロックチェーン利用が増えると、従来の分散型チェーンのトークン価格への影響は限定的になることが予想される。

GENIUS法は国際的な反応も招く可能性がある。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、ステーブルコインが金融政策の伝播や自律性に悪影響を及ぼすのではという懸念を表明し、中国当局も、国際通貨として人民元の地位を高める取り組みの効果が損なわれることを懸念している。他国も、暗号資産の領域で世界的な覇権を握ろうとする米国の姿勢に反応を示す可能性が高い。

免責事項:当社はデジタル資産に関する投資推奨を行っておらず、本稿は情報提供のみを目的としたものです。デジタル資産への投資では高ボラティリティ、低流動性、規制の不透明性、不具合や詐欺などのリスクに直面する可能性があるため、資産価値が大幅に減少する、あるいは全損するリスクを負うおそれがあります。したがって、投資にあたってはリスク許容度が重要な検討事項となります。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“Digital Assets 101: US regulation lays foundation for proclaimed “golden age””(2025年8月20日付)を翻訳・編集した日本語抄訳版として2025年9月8日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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