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パウエルFRB議長、ジャクソンホールで利下げ示唆
22日の米国株式市場は反発し、S&P500種株価指数は1.5%、ナスダック総合指数は1.9%上昇した。年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」におけるパウエルFRB議長の発言が好感された形だ。
2025.08.25
何が起きたか?
22日の米国株式市場は反発し、S&P500種株価指数は1.5%、ナスダック総合指数は1.9%上昇した。年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」におけるパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言が好感された形だ。パウエル議長は、現在の金融政策が景気抑制的であり、労働市場の下振れリスクが高まっていることから、利下げが正当化される可能性を示唆した。
パウエル議長は、消費者物価に関税の影響が表れていることにも触れたうえで、労働市場については、労働需要が鈍化する一方、移民取り締まりで供給も鈍化することにより「特異な均衡」状態にあると述べた。今回の発言を受け、早ければ9月にも利下げが実施されるとの期待が高まった。
債券価格も上昇し、米国2年債利回りは10ベーシスポイント(bp)低下して3.69%、10年債利回りは8bp低下して4.25%となった。米ドルも弱含み、米ドル指数は0.9%下落した。
パウエル議長の講演は、FRBが分断に直面し、政治的圧力がさらに高まる中で行われた。トランプ大統領は数カ月にわたって利下げを求め、インフレは抑制されていると主張しており、ここ1週間ではFRB当局者への批判を強めている。20日には根拠がないとされる住宅ローン不正疑惑を受け、FRBのクック理事に辞任を要求した。バイデン前大統領からの指名で就任したクック理事は不正行為を否定し、捜査に全面協力する意向を示している。
トランプ大統領が利下げに前向きな人材の登用に向けた動きを加速させる中、この辞任要求により、FRBの独立性に対する懸念が再燃している。上院共和党は、辞任したクグラー理事の後任に指名した米大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長が、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までに承認されるよう急いでいる。
FRBが経済的・政治的な難局に直面するなか、市場ではさらなる政策転換の兆しが見られるかどうかに注目が集まっており、FRBの今後の動向が焦点となっている。パウエル議長が労働市場の下振れリスクに言及したことが注目され、フェデラル・ファンド金利先物が織り込む9月利下げの確率は、発言前の72%から93%に上昇している。
どう考えるか?
FRBは、徐々に上昇するインフレ率、労働需要の鈍化、経済成長の減速という複雑な状況に直面しており、複数の要因が金融緩和の根拠になるだろう。
関税が物価を押し上げるなか、インフレ率は緩やかに上昇すると見込まれる。7月の消費者物価指数(CPI)は伸びが加速し、卸売物価指数(PPI)も前月比で3年ぶりの大幅上昇となった。ただし、住居費の上昇率の鈍化や個人消費の慎重姿勢、景気の軟化が一部のインフレ圧力を相殺するとみている。
レイオフ(一時解雇)が増加し始めれば雇用が急速に悪化する可能性をパウエル議長が指摘したように、労働市場の弱さは追加利下げを行う根拠となるだろう。失業率は低水準で推移しているが、最近のデータは労働需要の鈍化を示唆しており、先日公表されたFOMC議事要旨は、失業率が年末までにFRBの推定する自然失業率を上回り、2027年まで自然失業率よりも高い水準で推移するという予測を示している。労働市場の冷え込みにより、FRBの政策判断においては、インフレ懸念の継続よりも雇用の下振れリスクが大きな要因になると我々は考える。
米国の経済成長が鈍化する可能性も、FRBが考慮する重要な要因だ。今年上期の実質国内総生産(GDP)成長率は1.2%と、潜在成長率や前年の成長率を大きく下回り、今後も軟調が予想される。我々は、関税の影響により、米国のGDP成長率が最終的に約1ポイント押し下げられると見積もる。
クック理事への辞任要求などの政治的圧力を受け、FRBの独立性に対する懸念が高まっている。法的には、理事を解任できるのは正当な理由(立証された不正行為など)がある場合のみであり、方針の不一致は解任の理由にはならない。パウエル議長については来年5月までの任期を全うするとみているが、クック理事が解任を免れるかどうかは不透明だ。FRBが経済的・政治的難局に直面する中、独立性への脅威がその政策運営を一層困難にしている。
ソフトランディング型の利下げは歴史的に株式にプラスであり、FRBの金融政策が引き締めから中立へと転換することで、景気循環株の業績成長は一様ではないものの、強気相場が継続すると予想する。景気循環株の中でも高ベータ・低クオリティ銘柄(小型株など)はまだ上昇余地があるが、選別的な投資が必要だ。米金融株(特に銀行)はバリュエーションと企業業績・財務状況の両方で魅力的だ。S&P500種株価指数は年末に6,600、2026年6月に6,800まで上昇余地があるとみている。
パウエル議長は9月のFOMCで緩和を支持すると予想するが、8月雇用統計やインフレが予想以上に強ければ据え置きの可能性もある。現状では、9月から2026年1月までに0.25%の利下げを4回行うと見込む。
投資戦略
余剰なキャッシュを活用する:余剰なキャッシュは投資に回す好機とみている。FRBは9月から利下げを再開する見込みであり、欧州も概ね低金利だ。ポートフォリオ収益源の代替先として、高格付債や投資適格債が魅力的だ。中期債を推奨する一方、長期債は財政政策やFRBの独立性、インフレ指標といったリスク要因の影響を受ける可能性がある。
株式を押し目買いする:グローバル株式は堅調で、最近は最高値を更新している。FRBによる金融緩和と設備投資の勢いを背景に、今後6-12カ月はさらなる上昇余地があるだろう。株式の保有比率が低い投資家は、AI、電力と電源、ロンジェビティ(健康長寿)の投資テーマに加え、米国テクノロジー、ヘルスケア、公益、金融セクターへの段階的な投資や押し目買いを勧める。欧州ではスイスの高クオリティ配当株、欧州の高クオリティ株、資本財セクター、投資テーマ「欧州投資の6つの方法」に投資妙味がある。その他、中国のテクノロジーセクター、シンガポール、インド、ブラジルも推奨する。
政治リスクを乗り越える:金(gold)は効果的なポートフォリオの分散手段であり、政治リスクに対する有効なヘッジ手段であると考える。米経済指標の弱さ、利下げ見通し、インフレ懸念、FRBの独立性懸念、継続する地政学リスクが金価格を支える。我々は金価格の2026年6月末の予想を1オンス当たり3,700米ドルに引き上げた。政治・経済リスクが高まれば、これを上回る可能性もある。一部のオルタナティブ投資戦略も政治リスク分散には有効だ。
通貨の分散を図る:米ドルは短期的に反発したが、その後、米国経済指標の軟化により最近の上昇分を失った。今後は、米国経済成長の鈍化、FRBの利下げ、継続的な双子の赤字が、年内の米ドルの重しになると予想する。米国の高金利環境下では米ドルの為替ヘッジコストが高いことからも、投資家は負債の返済や支出計画を考慮して通貨配分を見直し、過度な米ドル保有分を他通貨へ分散させることを勧める。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。