日本経済

日銀:政策金利を据え置き、物価見通しを上方修正

日銀は7月の会合で政策金利を据え置いたが、予想を上回るインフレや、貿易政策をめぐる不透明感の減少を理由に、消費者物価指数およびGDP成長率の見通しを上方修正した。

  • 日銀は7月の金融政策決定会合で政策金利を据え置いたが、予想を上回るインフレや、貿易政策をめぐる不透明感の減少を理由に、消費者物価指数およびGDP成長率の見通しを上方修正した。日銀はデータ重視の慎重な姿勢を維持している。
  • 政策金利は、日銀が7-9月期の企業業績およびGDPを精査して関税の影響を評価し、2026年の春闘で賃金上昇が持続することへの確信を強めた後、2025年12月および2026年6月に引き上げられる可能性が高いと考える。
  • 債券は、2025年末までに日本の10年国債利回りが1.5%前後で安定し、2026年には1.7%まで上昇すると予想する。日本株式については、不透明感が残るため、投資判断をNeutral(中立)で維持するが、高クオリティな景気敏感株の一部や、日銀の利上げ前倒しに対する期待が高まった場合の銀行株に投資機会があると考える。

金融政策決定会合の概要

日銀は7月の金融政策決定会合で政策金利を据え置き、消費者物価指数(CPI)の見通しを上方修正した。これは市場の予想通りである。

展望レポートでは、4-6月期のインフレが予想を上回ったことを反映し、CPIの見通しを引き上げた。ただし、食料品価格が2025年後半から2026年にかけて軟化する見通しであることから、インフレは徐々に和らぐとの見方を維持しており、これは我々の見解とも一致する。また、2025年度の実質国内総生産(GDP)成長率の見通しも、貿易政策の不透明感が減少しつつあることを理由に、0.1ポイント上方修正した。

会合後の記者会見で植田和男総裁は、市場を動揺させないようバランスの取れたトーンを維持した。日米の関税交渉合意については、見通しを明確にする前向きな進展と評価しつつ、日銀は引き続きデータ重視であり、関税の影響を評価するためにさらなる情報が必要であると強調した。そのため我々は、10月の利上げを時期尚早と考えており、日銀が当面は慎重な姿勢を続けるとみている。

次回利上げに関する示唆はなかったことから、会合および会見に合わせて日本の10年国債利回りは1.56%から1.55%へ低下、ドル円は149.0円から149.6円へ小幅に上昇した。

次の利上げは202512月と20266月を予想

我々は、日銀が2025年12月および2026年6月に利上げを実施し、政策金利が1.0%に達するとの予想を維持する。CPIの見通しの上方修正と、貿易政策をめぐる不透明感の減少が、利上げ再開の根拠となる。

食料品主導のインフレは今後和らぐ見通しであり、日銀は12月までに7-9月期の企業業績とGDPを評価することができる。実際、コメ価格はすでにピークを打ち、他の食料品価格の上昇にも鈍化傾向が見られる。春季労使交渉(春闘)で賃金上昇が続くことに対し、日銀がさらに強い確信を必要とするのであれば、次回利上げは2026年1月まで後ずれする可能性もある。

主なリスクとしては、政治的不確実性や関税の影響が挙げられる。与党が参院選で過半数を失ったことにより、石破茂首相の進退が不透明となっている。こうした状況が続けば、民間投資が抑制される可能性がある。また、関税による企業利益の悪化は賃上げを躊躇させ、2026年の景気回復が弱まるリスクもある。

資産クラス別のインプリケーション

債券

日本の10年国債利回りは、米国の金利低下や国内の財政懸念の後退に伴い、2025年末までに1.5%前後で安定すると予想する。2026年には、日銀が6月に追加利上げを実施することで、1.7%まで上昇するだろう。30年国債利回りは2025年末にかけて3%を下回った水準で推移すると予想する。

株式

短期的には、米国経済に対する関税の影響や米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しをめぐって不透明感が残っているため、我々は日本株式の投資判断をNeutral(中立)で維持する。ただし、日米の関税合意を受け、日本株に対する市場のセンチメントは回復しつつあり、一部銘柄で投資機会が生まれている。

我々は関税合意と、4-6月期の決算シーズンが、銘柄物色の転換点になると考える。出遅れており、かつ高クオリティな、自動車、機械、ヘルスケアといったセクターの景気敏感株は、中期的なリスク・リターンが魅力的なことから、エクスポージャーを増やすことを勧める。ただし、合意後の株価上昇ペースを踏まえれば、短期的な株価調整もありうると考える。加えて、日銀の利上げが早まるとの期待が高まれば、銀行株にも再び注目が集まるだろう。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese economy - BoJ: On hold, raises inflation outlook”(2025年7月31日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年8月1日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
石井 一正

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト

石井 一正

さらに詳しく

2024年9月より、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントにて、ストラテジストとして国内外のマクロ経済・政治情勢の分析を担当。

UBS入社以前は、内閣府にて経済財政白書の執筆等のマクロ経済の調査分析、「骨太の方針」をはじめとする政府方針の策定に従事。2011年ミシガン大学経済学修士課程修了。

小林 千紗

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト

小林 千紗

さらに詳しく

チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。


2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。

青木 大樹

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス 日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト

青木 大樹

さらに詳しく

2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。
また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×