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米国がイラン核施設攻撃

トランプ大統領は21日夜、米国によるイランの核施設3カ所(フォルドゥ、ナタンズ、イスファハン)への空爆を発表した。米国のB2爆撃機が搭載していたすべての爆弾が、主要拠点であるフォルドゥのウラン濃縮施設に投下されたと明らかにした。

トランプ大統領は21日夜、米国によるイランの核施設3カ所(フォルドゥ、ナタンズ、イスファハン)への空爆を発表した。米国のB2爆撃機が搭載していたすべての爆弾が、主要拠点であるフォルドゥのウラン濃縮施設に投下されたことを明らかにした。また、トランプ大統領は自身のソーシャルメディアに「フォルドゥは消滅した」と投稿し、イランは戦争を終わらせることに同意すべきだと強調した。国際原子力機関(IAEA)、イラン原子力庁、およびサウジアラビアの原子力・放射線規制委員会は、空爆の数時間後の時点で、放射線レベルは上昇していないと発表した。

米CBSニュースによると、米国の外交筋はイラン政府に対し、今回の空爆は1回限りであり、政権転覆を意図したものではないと伝えたとされる。しかしトランプ大統領は、イランが報復した場合に米国が関与を強める可能性を示唆し、イランが平和に向けて動かなければ「我々が過去8日間に見たよりもはるかに大きな悲劇」に直面するだろうと述べた。

イランのアラグチ外相は、米国の空爆は重大な結果につながると警告し、「主権、国益、国民を守るためにあらゆる選択肢を用意している」と述べた。イラク政府は声明を発表し、米国が核施設を標的にしたことを非難したうえで、直ちに緊張を緩和し、外交ルートを開いて事態を収束させることを求めた。サウジアラビアもさらなる緊張の激化を回避する必要性を強調し、政治的解決を呼びかけた。イランは最初の反応として、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明する可能性がある。

今後の見通し

米国によるイランへの空爆は、中東情勢の急速な悪化を意味する。今後数日間で注目すべき点は2つある。第1に、ホルムズ海峡を通る原油輸送を含め、中東からのエネルギー輸送が途絶することになるか。第2に、他の主要国が介入するかである。中東の緊張は、主に原油を通じて世界経済や金融市場に広がり、極めて短期的には、投資家が紛争の激化と原油供給の混乱のリスクを織り込む中で、原油価格が上昇する可能性が高い。

イランによる米国基地、米国の同盟国、中東地域のエネルギーインフラへの報復攻撃は明らかなリスクだ。イランがどの程度反撃できるのかは不明だが、攻撃先がイランの国境に近い場合は、ドローン(無人機)が使われることが予想され、ホルムズ海峡を通る海上交通を脅かす可能性は残っている。リスクシナリオでは、イランの攻撃が中東地域の重要なインフラに損害を与える、あるいは破壊することが想定される。2019年にサウジアラビアのアブカイク石油施設がドローン攻撃された際には、同国の原油生産の約半分がー時的に停止した。とはいえ、イランの軍事能力はこれまでの空爆ですでに損なわれており、イランの陸軍および海軍は、イスラエルと米国の軍事力に長期間抵抗することはできないだろう。イランの反撃によりエネルギー供給が混乱した場合、供給の回復が中東地域の主な焦点になると考えられる。過去に、大規模な供給混乱が長期間続いた際、OPECプラスは市場のバランスを保つために原油の増産をしており、経済協力開発機構(OECD)諸国もー時的な供給不足を補うために戦略的石油備蓄を活用する可能性がある。

第2の重要な点は、米国の関与が他国を紛争に巻き込むかどうかである。特にロシアは、ウクライナ戦争をめぐる米国との交渉で、自国を有利にする手段として、原油市場の長期的な混乱を引き起こす可能性が懸念される。しかし、我々の基本シナリオでは、ロシアが紛争に関与することはないと考える。今年初めにイランとの「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したロシアは、イランに対するイスラエルの攻撃を非難している。しかし、ロシアのプーチン大統領は紛争の仲介を申し出たものの、軍事支援は同パートナーシップの対象外であることを明確に示している。また、ロシアの軍事能力には、ウクライナ戦争で既に殆ど余裕がなく、ロシアがイスラエルや米国の敵対国として見られることは、米国による対ロシア制裁強化や、ウクライナへの支援強化につながる可能性がある。

投資戦略

段階的に株式に投資する: 我々の基本シナリオでは、紛争の激化が原油供給の長期的な混乱を引き起こし、世界経済の成長を低下させ、各国中央銀行の政策運営を困難にさせることはないと予想している。したがって、短期の株価下落局面は、株式の投資割合が低い投資家にとってポジションを構築する機会とも捉えられる。

通貨の分散を図る: 地政学的な不確実性が高まる中で、投資家が安全資産を求めることから、米ドルは非常に短期的に上昇する可能性がある。しかし、経済成長の鈍化、金利低下、緩和的な財政政策、政治的不確実性を背景に、中期的には米ドル安傾向に戻ると予想することから、余剰な米ドルの一部を他通貨へ分散することを勧める。

政治リスクを乗り越える: 金価格は上昇が予想され、地政学的リスクの高まりに対するポートフォリオの重要なヘッジ手段と考える。基本シナリオでは金価格の年末予想を1オンス当たり3,500米ドルとしているが、リスクオフのシナリオでは同3,800米ドルまで上昇する可能性がある。米ドル安となり、実質金利が低下した場合も、金価格を下支えするだろう。

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本稿は、UBS Switzerland AGが作成した“US joins attack on Iran’s nuclear capabilities” (2025年6月22日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年6月23日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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