CIO Alert
貿易交渉への楽観論が広がり株価反発
トランプ米大統領は25日、EUからの輸入品に50%の関税を発動する期限を延長することを表明した。それを受け、27日の市場ではリスクオンの姿勢が強まり、S&P500種株価指数は2%上昇した。
2025.05.28
何が起きたか?
メモリアルデーの祝日明けとなった27日の市場では、米国と欧州連合(EU)の関税交渉前進の兆候が好感され、再びリスクオンの姿勢が強まった。トランプ米大統領は25日、EUからの輸入品に50%の関税を発動する期限を6月1日から7月9日に延長し、ディール(取引)成立のために更に時間を割くことを表明した。これに対しEUは26日、貿易協議を加速させる考えを示した。トランプ大統領は、協議が前向きに進んでいると述べている。
S&P500種株価指数は前営業日比2%プラスの5,922まで上昇し、先週1週間の2.6%の下落を一部取り戻した。関税以外の材料としては、米消費者信頼感の回復が投資家のセンチメントを押し上げたことが挙げられる。米調査会社コンファレンス・ボードが発表した5月の米消費者信頼感指数は、約4年ぶりの大幅上昇となった。あらゆる年齢層や所得層、支持政党を通じて回復が見られ、貿易摩擦が個人消費に及ぼす悪影響が長期化するとの懸念が後退した。
さらに、債券市場は先週、政府債務の拡大に対する懸念を受け、世界的に下押し圧力を受けていたが、落ち着きを取り戻しつつある。米30年国債利回りは先週、日中に5.15%まで上昇し、2023年10月以来の高水準を記録したが、5%を下回る水準に戻した。日本で財務省が最近の市場の混乱を受け、超長期債の発行減額を検討していると報じられたことも、債券市場のセンチメント向上につながった。
どう考えるか?
米国が中国やEUをはじめとする主要貿易相手国と協議を続ける中、トランプ大統領が貿易交渉で強気の発言をする傾向を踏まえると、市場では今後もボラティリティ(相場の変動)の高まる局面が予想される。我々は合意が容易に成立するとはみておらず、S&P500種株価指数が2月に記録した史上最高値の更新までわずか4%という水準にあることから、年内の上昇余地は比較的小さいと考える。
とは言え、足元の動向は、最終的には対立を乗り越え、現実に即した対応がとられるという我々の基本シナリオと一致する。これまでにトランプ政権は、市場の混乱の兆しに反応して、強硬な関税政策を緩和する姿勢を見せてきた。我々は、米国の実効関税率が年末までに約15%で落ち着くと予想する。貿易をめぐる緊張が今後も緩和に向かうことを前提とすれば、株式市場は2026年にかけてさらに上昇し、S&P500種株価指数は現在の5,922から、来年6月には6,400近辺まで上昇するとみている。我々は、経済成長が減速したとしても、米国経済の底堅さによって引き続き市場が下支えされると考えており、消費者信頼感の回復はそれを裏付けている。
先週下落した高クオリティ債に対しても、ポジティブな見方を維持する。確かに、政府債務の増加に対する懸念は妥当だといえる。2017年のトランプ減税の恒久化などを盛り込み、22日に下院で可決した「1つの大きく美しい法案(One, Big, Beautiful Bill)」は、成立すれば今後10年間で数兆米ドルの政府債務増加につながるとみられる。一方、日本では石破茂首相から19日、消費税減税の財源として国債発行に頼ることへの警鐘として、国の財政状況を懸念する発言があり、欧州では防衛費の増加と景気の減速が財政の重石になると見込まれる。
しかし、日本が超長期債の発行減額を検討しているとの報道は、債券市場に過度の変動が見られれば、政策当局者が必要に応じて対応するという我々の見方と一致する。トランプ政権も、国債利回りが急速に上昇すれば政策を修正する姿勢をすでに見せており、4月に市場を動揺させた相互関税を一時停止したのはその一環だとみられる。米連邦準備理事会(FRB)も債券市場の機能低下に対応する意向を示している。我々の基本シナリオでは、FRBによる年後半の利下げ再開を受けて米10年国債利回りが低下し、年末までに4%へ戻ると予想する。
投資方法
トランプ政権のディールを用いた政治のスタイルは、引き続き相場の変動を引き起こすだろう。こうした環境においても、投資家は引き続き長期的な投資計画に沿った運用を行い、ボラティリティに投資機会を見出すことが重要だ。我々は、株式市場は2026年にかけてさらに上昇し、債券市場では利回りの上昇で、高いインカム収入を獲得する好機とみている。よって、以下の投資方法を勧める。
段階的に株式に投資する:我々は最近、米国株式に対する投資判断をAttractive(魅力度が高い)からNeutral(中立)に引き下げた。貿易と米国の財政の不確実性は、引き続き短期的な相場変動要因となるだろう。しかし長期的には、構造的な利益成長、FRBの利下げ、より安定した政治環境を背景に、株価はさらなる上昇余地がある。投資家には、今後数カ月のボラティリティの高まりや株価の下落局面を利用して現在の株式への配分を見直し、今後の相場上昇に備え段階的な投資を行うことを勧める。
持続的なインカムを追求する:高格付債と投資適格債が魅力的なリスク・リターン(リスクに見合ったリターン)を提供すると考える。概ね主要な市場の高クオリティ債の利回りは魅力的で、世界的な利下げサイクルの継続は投資資金の流入を後押しするだろう。足元の高い利回りを確保したい投資家にとって、国債はキャッシュに代わるクオリティの高い投資先の1つとみている。投資適格債もポートフォリオのリスク管理の観点から魅力的だ。
通貨の分散を図る:27日に米ドル指数は上昇したものの、通貨の分散が進み、米国の財政赤字拡大への懸念が高まる中、米ドルがこのまま長期にわたり上昇を続けるとはみていない。我々は最近、米ドルの投資判断をNeutral(中立)からUnattractive(魅力度が低い)に引き下げた。よって、短期的な米ドル高を利用して米ドルの余剰部分をユーロ、英ポンド、豪ドルなどの通貨に分散することを検討できる。
政治リスクを乗り越える:金(gold)には引き続き、長期的なポートフォリオの分散手段としての価値があるとみている。長引く地政学リスクや中央銀行による継続的な買い需要、そして米ドル安とともに実質金利が低下する見通しであることも支えになると考える。我々は金価格の年末の予想値を1オンス当たり3,500米ドルで据え置く(27日時点では同3,304米ドル)。最近の金の上昇から、価格調整も予想されるが、下落局面はエクスポージャーを積み増す好機だと考えられる。政治リスクを管理する手段として、金をポートフォリオ全体の最大で5%程度保有し、その他にもヘッジファンドなどのオルタナティブ資産への投資も勧める。株式では、ポートフォリオの損失を抑え、リターンを確保する戦略も検討できる。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。