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相互関税の一部90日間停止で株価急騰

トランプ米大統領が、これまでに米国に対し報復措置をとっていない国に対しては相互関税を90日間停止すると発表したことを受け、4月9日のS&P500種株価指数は9.5%上昇し、1日の上昇率としては2008年以来の大幅な伸びを記録した。

何が起きたか?

トランプ米大統領が、これまでに米国に対し報復措置をとっていない国に対しては相互関税の上乗せ分を90日間停止すると発表したことを受け、4月9日のS&P500種株価指数は9.5%上昇し、1日の上昇率としては2008年以来の大幅な伸びを記録した。

この発表を受けて、世界的な貿易戦争を回避できるのではないかとの期待が高まった。しかしトランプ大統領は、米国にとって最大の輸入先である中国に対しては、中国が報復措置をとったことを理由に、関税率を104%から125%に引き上げることも発表した。さらに米国政府は、その他の大半の国に課していた10%の「基本税率」は、90日間の相互関税停止期間中も維持されると強調した。

米国が方針を転換したのは、9日に中国と欧州連合(EU)が米国からの輸入品に対する関税引き上げを表明し(EUはまだ実施していない)、貿易戦争激化に対する懸念が高まった後のことだった。トランプ大統領は8日に、相互関税の対象外となっていた医薬品への関税賦課を近く発表すると改めて述べていた。医薬品セクターの9日の株価上昇率は2.8%で、市場全体を下回った。

9日には、貿易をめぐる不透明感が米国債市場に不安定さをもたらす兆候も見られた。米10年国債利回りは、7日に3.87%まで低下した後、9日には4.51%まで上昇した。これは、米国債に対する通常の安全資産買いの流れに逆行する動きだ。海外投資家が売りに動いているとの観測や、ボラティリティ(変動率)上昇による換金売り、ヘッジファンドによるレバレッジを効かせたポジションの巻き戻しも、債券への下落圧力となった。その後、入札需要の強さなどから、9日中に米10年国債利回りは4.3%まで低下した。

今後の見通し

投資家が急速に変化する関税の動向を評価し、経済成長、インフレ、中央銀行の政策、金融市場への影響を検討する中で、今後数週間は相場のボラティリティが高い状態が続くとみられる。

我々の基本シナリオ(確率50%)では、短期的に関税は上昇するものの、政治的、法的、そして産業界からの圧力の高まりや、貿易相手国の譲歩、あるいはトランプ政権に対する米国国民の支持率低下に伴い、米国の実効関税率は徐々に低下していくと予想する。

トランプ大統領が発表した相互関税の一時停止は、多くの貿易相手国にとって関税引き下げのディール(取引)への扉を開くものだ。我々は、トランプ政権のこのアプローチは、世界の大半の国に対する「ディールを行うためにあえて緊張を高める(escalate to deescalate)」戦略に沿うものだと考える。

同時に、米中間の報復合戦の予想以上の激化にも引き続き注意を払う。また、今回の米国の方針転換の正確な詳細はまだ発表されておらず、提案された猶予期間が維持されるかどうかも不明だ。

ほとんどの国に対する相互関税率を10%に引き下げると発表したにもかかわらず、中国に対する報復措置を激化させたことは、世界の2大経済大国間の貿易に劇的な影響を与える可能性がある。我々は現在、米国の実効関税率を27%(4月2日以前は9%)と見積もっている。中国に対する関税率を除くと11%となる。

我々の基本シナリオでは、米国の経済成長は鈍化するものの、関税政策の緩和と米連邦準備理事会(FRB)の利下げにより、S&P500種株価指数は年末までに5,800までの回復を予想する。米10年国債利回りは4.0%まで低下を見込む。

楽観シナリオ(確率20%)では、貿易戦争のより恒久的な解決、経済成長の大幅鈍化の回避、人工知能(AI)が企業業績に与える影響に対する楽観論の中で、株式市場は急反発を続けるとみている。このシナリオでは、S&P500種株価指数は年末6,500程度と予想する。

悲観シナリオ(確率30%)では、関税の猶予は最終的に維持されず、報復合戦が再開されるとみている。需要の低迷が米国の深刻な景気後退につながるだろう。S&P500種株価指数のレンジが3,500~4,500になれば、過去の景気後退時と同水準の下落率である。米10年国債利回りは2.5%まで低下すると予想する。

投資方法

世界の市場の反発は、投資家にとって、ポートフォリオを見直し、分散化し、我々が依然としてボラティリティが高いと予想する第2四半期に備え、長期的な上昇に向けたポジションをとる機会を提供する。

資産計画を見直す:最近の相場変動は、UBS Wealth Way*のアプローチの魅力を浮き彫りにした。このアプローチは、各投資家が投資計画を目的と時間軸に基づいてLiquidity(流動性)、Longevity(長期資産形成)、Legacy(資産承継)の3つの戦略に分け、これらを一括りの投資アプローチとして捉えるものだ。Liquidity戦略で十分資金を確保している投資家は、ボラティリティを乗り越え、コントロール可能な事柄に集中することができる。

政治リスクを乗り越える:トランプ大統領の発表を受けて、インプライド・ボラティリティ(予想変動率)は大幅に低下した。関税政策が定まらない中、投資家は関税リスクを管理するために、ある程度の資本保全効果を伴う戦略を検討することができる。

金価格の最近の下落は、特に悲観的なシナリオにおいて、ポートフォリオの分散効果が期待できる金へのエクスポージャーを構築する機会になっている。基本シナリオでは、金価格の年末予想を1オンス当たり3,200米ドルとしている。

持続的なインカムを追求する:ボラティリティが高い中での最近の債券利回りの上昇は、債券のトータルリターンのポテンシャルとポートフォリオの分散効果を高めている。

悲観シナリオでは、米10年国債利回りが2.5%まで低下し、投資家に大幅なキャピタルゲインを提供する可能性がある。ただし、財政懸念とヘッジファンドのポジション解消によるボラティリティに引き続き注意を払う必要がある。

ヘッジファンドで分散を図る:マクロ経済の変化、セクターローテーション、地政学的変化に機動的に対応することができるヘッジファンド戦略(裁量マクロ、株式マーケット・ニュートラル、レラティブバリュー、マルチストラテジーなど)は、ボラティリティが高い下落局面でポートフォリオの損失を抑えつつ、市場の歪みを利用することができる。

ボラティリティを利用する:変革的イノベーションへの投資機会(TRIO)、すなわちAI、ロンジェビティ(健康長寿)、電力と電源には、引き続き強い長期的な潜在力があると考る。これらのテーマに関連する企業は、短期的なリスク回避の影響を受けているが、長期的には構造的なトレンドが最大の成長要因になると予想している。

投資家は、段階的なアプローチを通じて分散されたポートフォリオを構築することで、市場エントリーのタイミングを計ることによるリスクを管理することができる。1945年以降、S&P500種株価指数と米国債の60/40のバランスポートフォリオに12カ月かけて段階的に投資し、その後保有する戦略は、1年間のうちの約74%、3年間では約83%の期間で現金(3カ月米国債)をアウトパフォームしている。S&P500種株価指数がピークから10%以上下落した時に60/40の分散ポートフォリオへの段階的な投資を開始する戦略は、1年間の約82%、3年間の約94%の期間で現金をアウトパフォームしている。

通貨をレンジで取引する:短期的には、ユーロ/米ドル、米ドル/スイス・フラン、英ポンド/米ドルなど、主要通貨ペアのレンジ取引で、現在の高い通貨ボラティリティを利用することができる。中期的には、米国の経済成長の弱さを受けて、FRBが予想よりも速いペースで利下げを実施すれば、米ドルの下落が進むだろう。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equity markets rebound on tariff pause” (2025年4月9日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年4月10日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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