日本株式
自動車関税25%で悪材料出尽くしか?
トランプ米大統領は3月26日、米国がすべての国から輸入する自動車に対し、4月3日より25%の関税を課すと発表した。関税や規制を巡る不透明感や、2025年度の会社計画に対する懸念から、日本企業の本決算発表までは高いボラティリティが続くとみている。
2025.04.01
- トランプ米大統領は3月26日、米国が日本・カナダ・メキシコを含むすべての国から輸入する自動車に対し、4月3日より25%の関税を課すと発表した。
- 我々は日本株式の投資判断をNeutral(中立)で維持する。関税や規制を巡る不透明感や、2025年度の会社計画が冴えないことに対する懸念が続き、少なくとも5月初旬の日本企業の本決算までは高いボラティリティ(相場の変動率)とレンジ相場が続くとみている。
- 日本の銀行株や、独自の業績成長ドライバーを持つ高クオリティ株(ITサービス銘柄、一部の電力・電源銘柄、機械銘柄など)を推奨する。
我々の見解
トランプ米大統領は3月26日、米国が日本・カナダ・メキシコを含むすべての国から輸入する自動車に対し、4月3日より25%の関税を課すと発表した。詳細は発表されていないが、エンジンなどの自動車部品も5月3日までに追加関税の対象となる。
自動車の関税についてはこれまで何度も言及・報道されており、極端なサプライズではない。発表翌日の27日に日本の自動車株は3~5%下落した一方、東証株価指数(TOPIX)は横ばいだった。最近の円安ドル高も株価の支えとなった。
日本企業の関税に関する最大の懸念事項の1つが実際に発表されたが、悪材料が出尽くしたと判断するにはまだ早いと考える。なぜなら、自動車に対して想定されていた最大限の関税率の適用が発表されたことにより、これまでトランプ大統領が言及してきたその他の品目(例えばヘルスケア関連)への追加関税や規制強化がより一層意識される展開が予想されるためだ。さらに、関税強化が米国経済へもたらす影響をめぐり、不確実性が継続することも想定される。今後トランプ政権が発表すると予想される相互関税*への対処も含め、各国がどのように対応するのかについても、現時点では不明である。
*関税率の高い貿易相手国からの輸入品に対し、同水準の関税を課す措置
いつ霧が晴れるのか?
日本企業の2024年度(2025年3月期)の決算が発表されるまでは、日本株式はレンジ相場が続くと予想している。関税の導入が正式に発表されたため、4月末から5月上旬にかけての本決算発表において、日本の自動車企業は関税の影響を2025年度の会社計画に織り込む可能性が高い。
他の企業も、足元の不透明感を考慮したガイダンスを発表するだろう。そのため、本決算で極めて保守的な会社計画が出そろった後が、日本株式にとって悪材料出尽くしかどうかを判断する目途になると考える。別の言い方をすれば、米国を中心とする不確実性の高まりを鑑みると、日本企業は保守的なガイダンスを発表することが予想されるため、日本のマクロ経済環境が健全であるにもかかわらず、本決算発表まではグローバル投資家が日本株式を買うカタリストに欠けるといえる。
4月中旬から始まる米国の第1四半期(1-3月期)決算も非常に重要である。不確実性の中、先行きに対して米国企業の経営層が示す見解は、日本株式にも影響をもたらすため注目される。
関税が日本の自動車セクターの業績に与える影響
米国向けは、日本の自動車メーカーの世界販売台数の約30%を占める。このうち、44%が米国外からの輸出(約20%がカナダまたはメキシコ経由、約24%が日本から)、56%が米国内での製造である。したがって、日本の自動車メーカーの世界販売台数のうち、米国への輸出は約13%を占めている。
米国による25%の関税賦課は、値上げやコスト削減を考慮せず単純に考えれば、日本の自動車セクターの営業利益を30~40%減少させ、日本企業全体で約5%の減益要因となる。為替レートの変動も日本企業の業績に大きな影響を与える。
我々は、2024年度の企業利益成長率は10%、2025年度は4%と予想している。しかし、2025年度の企業ガイダンスは、我々の予想を下回る可能性がある。現在のTOPIXの株価収益率(PER)14.5倍は最近の平均14.5倍と同水準であり、妥当水準と考える。自己資本利益率(ROE)の改善の明確な兆候が見られなければ、2025年内のバリュエーションの拡大は期待できないとみている。
UBS CIOでは、米国が景気後退入りを回避できることを基本シナリオとしている。関税をめぐる不確実性がくすぶり続ける中でのTOPIXの下値は2,600程度だと考える。これは、長期平均のPER約13.7倍と同水準であり、長期投資家にとってより魅力的な水準とみている。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト
小林 千紗
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チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。
2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。