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米大統領選投票日、長期的視点に立った投資が重要
米大統領選が投票日を迎えるなか、我々は米国株式が、引き続き魅力的であることを確認する。選挙結果に関係なく、米国株式は穏やかな経済成長 、金利低下、AIによる構造的な追い風によって下支えされるからだ。
2024.11.05
米大統領選が投票日を迎えるなか、我々は米国株式が、引き続き魅力的であることを確認する。選挙結果に関係なく、米国株式は穏やかな経済成長、金利低下、人工知能(AI)による構造的な追い風によって下支えされるからだ。投資家には、市場の下落局面を利用して、特にテクノロジー、公益事業、金融セクターで長期的なポジション構築に備えることを勧める。
中国株式には、潜在的な投資機会が生まれる可能性がある。ハリス副大統領が勝利した場合、投資家はファンダメンタルズ(基礎的条件)の改善状況に注目していくだろう。一方、トランプ前大統領の勝利で大幅に株価が調整した場合は、買いの好機となる可能性がある。
債券は、最近数週間で利回りが大幅に上昇している。足元の高い利回りを利用すれば、魅力的な水準で利回りを確定し、ポートフォリオの分散効果を高めることができるだろう。大統領選の勝者に関係なく、金利は今後低下していくだろう。
通貨では、米ドルがトランプ氏勝利の場合には短期的に上昇する可能性があるものの、どちらが勝利しても中期的には下落すると予想する。
最後に、金(gold)は引き続き、地政学面および経済面での不確定要素に対する有効なヘッジ手段であると考えており、トランプ氏とハリス氏どちらが当選しても、さらなる上昇が期待できる。トランプ氏が勝利した場合、金の上昇は加速する可能性があり、ハリス氏が勝利した場合は緩やかな上昇となるだろう。
勝者に関係なく、米国株式には上昇余地がある
今週の株式市場でボラティリティ(変動率)の上昇は避けられないが、我々の米国株式に対する今後12カ月の見通しに、選挙結果が影響する可能性は低いだろう。我々は2025年末時点でのS&P500種株価指数の予想値を6,600に設定し、現在の水準から約15%上昇すると予想している。穏やかな米国経済の成長、金利低下、AIによる構造的な追い風の継続が株価の下支えになると考えている。こうした上昇要因は、大統領選挙の勝者に関係なく存続するだろう。セクター別では、テクノロジー、公益事業、金融セクターなどを選好する。
テクノロジー・セクターでは、トランプ氏が勝利した場合、短期的に若干のネガティブな影響が見込まれる。ハードウェアや半導体企業の利益に対する関税の影響を、市場が懸念するとみられるためだ。しかし中期的には、こうした影響が同セクターの構造的な成長ストーリーを打ち消してしまうことはないと考える。企業がAIをさまざまな用途で活用し、主導的な位置に立とうと競う中で、AIインフラストラクチャーへの投資は堅調な状態が続いている。AIに必要な半導体部品は、来年にかけて供給の逼迫が続くとみられ、価格を下支えするだろう。ハリス氏が勝利した場合は概ね現状維持となり、投資家の期待が大きく変わることはないだろう。
公益事業セクターの一部では、ハリス氏が勝利した場合、安堵感から上昇が見込まれる。再生可能エネルギーに対する現行の政府支援が、今後も続く可能性が高まるためだ。逆にトランプ氏が勝利すれば、再生可能エネルギー関連企業は、ある程度の下落圧力に晒される可能性がある。ただし、その場合でも、企業、州、自治体が脱炭素化の目標達成に注力する中で、再生可能エネルギーの需要は依然として強いとみている。AIデータセンター分野で大幅な成長が見込まれるため、電力需要が高まり、電力価格の上昇が予想される。さらに、経済成長への懸念が高まった場合には、同セクターのディフェンシブな特性がポートフォリオの安定化につながると考える。
米国の金融セクターは、ハリス氏の勝利で短期的な逆風に直面する可能性がある。トランプ氏の勝利で予想されていた規制緩和への期待が剥落するためだ。それでも我々は同セクターに対し、中期的には強気の姿勢を維持する。堅調な経済に加え、米連邦準備理事会(FRB)の利下げで企業向け融資やM&A (合併・買収)などの活発化が見込まれるからだ。トランプ氏が勝利した場合は規制緩和が予想され、同セクターにとって即座に追い風となるだろう。
債券利回りの上昇を利用して利下げに備える
ここ数週間で、米国の経済成長を示すデータが上方修正されたことに加え、市場でもトランプ氏勝利への期待が高まったことで、債券の利回りが年限に関係なく上昇している。どちらが大統領となった場合でも、我々は足元の利回りが過度な高水準にあるとみている。
我々は米国10年債利回りについて、2025年6月の予想値を3.5%としている。トランプ氏が勝利すればやや上振れるとみているが、今後12カ月間における債券のリターンはプラスになると見込んでいる。選挙結果によってFRBの利下げ路線が変わるとはみておらず、インフレ率も下降傾向にある。
我々は投資家に対し、キャッシュを中期債への投資に回して利下げに備えることを勧めてきた。現在の債券利回りの上昇で、高い利回りを確保しつつ、ポートフォリオの分散効果を高める好機にあるとみている。
中国での潜在的な投資機会
米国の選挙結果は、中国株式に対して短期的に大きなボラティリティをもたらすと予想される。両候補とも対中強硬路線をとるだろうが、トランプ氏が掲げる中国からの輸入品に対する60%の関税への懸念は、特に影響が大きいと想定される。しかし、短期的なボラティリティは、長期投資家にとっての投資機会を生む可能性がある。
トランプ氏の勝利は中国企業の利益にはマイナスである。しかし、中国株式にはそのリスクは織り込み済みで、割安水準にある。トランプ氏が勝利すれば、中国政府は更に積極的に、刺激策を前倒しで実施する可能性がある。また、前回のトランプ政権下で米中貿易は大幅に減少し、MSCI中国指数構成企業の収益における米国が占める割合は現在5%未満である。さらに基本シナリオでは、60%の関税が最終的に実施されるとは考えていない。トランプ氏は中国政府と交渉し、結果として的を絞った関税になる可能性が高い。
したがって、トランプ氏の勝利で中国市場が10%以上下落した場合、短期的な下振れリスクを十分に織り込んでいると見なし、中国株式へのポジションを追加する機会になりうると考える。
一方、ハリス氏が勝利すれば、中国株式から大きな足かせが取り除かれ、投資家は低バリュエーション、追加刺激策の可能性、強い利益成長に集中できるようになるだろう。中国株式は10%以上上昇しない限り、その他の条件が同じであれば、魅力的とみる。
通貨の観点からは、トランプ氏勝利は中国人民元の下落をもたらし、ハリス氏勝利は上昇をもたらす可能性が高い。米ドル/人民元は現在7.1付近で取引されている。トランプ氏勝利後は7.4に向かい、ハリス氏勝利後は6.8に向かうと見ている。
米ドルは中期的に下落
我々は米ドルに対して中期的に弱気であり、2025年9月までにユーロ/米ドルは1.16への上昇を予想する。基本的に、どちらの候補者が勝利しても、米ドルの過大評価、他の通貨に対する利回り優位性の縮小、米国の双子の赤字が米ドルに重くのしかかると考える。
トランプ政権になれば、ハリス政権よりもやや米ドル高が予想される。より成長志向の政策、金利上昇と関税の引き上げが米ドルへの追い風になるからだ。それでも、勝者に関係なく、米ドルは足元の水準からいずれ下落するだろう。
金は上昇するも、速度に影響
金価格は今年急騰しており、米大統領選挙の勝者にかかわらず、足元の水準よりも更なる上昇を予想する。ただし選挙結果は、2025年9月の予想価格である1オンスあたり2,900米ドルへの到達速度に影響を与える可能性がある。
トランプ氏勝利の場合、金価格は急騰すると予想される。市場がインフレ率上昇の可能性と地政学的な不確実性を織り込むためである。
ハリス氏勝利の場合、当初の金市場の反応はより穏やかであると予想される。しかしその後、市場は米ドルと金利の見通しに再び注目し、投資家と中央銀行の強い金需要を背景に、金は再び上昇を続けると考える。
投資家は引き続き長期的な戦略に集中することが重要である。選挙結果はボラティリティをもたらす可能性があるが、それは長期的にポートフォリオを強化する機会とも捉えられるだろう。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。