マンスリーレター 10 月号
ボラティリティに備える
第4四半期の見通しを踏まえて、投資家はボラティリティの高まりに備える必要がある。FRBは利下げを開始した。米大統領選は接戦が続いている。加えて、景気の先行き不透明感を受け、市場のボラティリティは高止まりすると見込まれる。
2024.09.19
- 金利はさらに低下: 米連邦準備理事会(FRB)が利下げサイクルを開始した。投資家は、今後の追加利下げに備える必要がある。
- 接戦が続く選挙戦 : 米国大統領選挙は接戦が続いている。選挙関連リスクの対策として、ポートフォリオの分散や金(gold)への投資を勧める。
- 第4四半期はボラティリティが高まる?: 政治的・経済的な不確実性を受けて、第4四半期はボラティリティが高まる可能性がある。しかし、こうした局面は、長期的な目線でAI関連銘柄を積み増すなど、投資の好機とも捉えられる。
- 資産配分 : 株式では、テクノロジー株とクオリティ・グロース株に注目したい。米ドルは引き続きアンダーウェイトとし、金はオーバーウェイトとする。
10–12月期(第4四半期)の見通しを踏まえて、投資家はボラティリティ(相場変動)の高まりに備える必要がある。米連邦準備理事会(FRB)は利下げを開始した。米大統領選は接戦が続いている。加えて、景気の先行き不透明感を受け、市場のボラティリティは高止まりすると見込まれる。
投資家はどう備えるべきか?
まず、キャッシュやマネー・マーケット・ファンド(MMF)、満期を迎える定期預金等を投資に回すことを勧める。金利はこの先さらに低下すると予想され、経済指標が悪化すれば利下げ幅はさらに拡大する可能性もある。こうした金利低下局面で持続的にインカム収入を確保できる投資先としては、中期の高クオリティ債、分散型債券ポートフォリオなどがある。
2つ目として、オルタナティブ資産への分散投資などが検討できる。大統領選と景気をめぐる不透明感は、ボラティリティの上昇につながる可能性がある。選挙結果に対する期待と懸念に基づいてポートフォリオを大幅に変更することは勧めないが、ボラティリティに備える手段を検討することはできる。プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、ヘッジファンドなどのオルタナティブ資産や、金などへの分散投資は、ポートフォリオのボラティリティを抑える効果が期待できる。
最後に、人工知能(AI)関連に投資する好機を逃さないこと。AI関連への投資比率が低い投資家は、ボラティリティが高い局面を利用して、超大型株や半導体株などAI恩恵銘柄への投資を積み増すことを勧める。テクノロジー・セクター以外では、クオリティ・グロース株も有望視できる。これには、ヘルスケアや消費関連セクター、クリーンエネルギー転換による追い風が見込まれる一部企業などが含まれる。歴史的に見て、財務状況が健全で、優れた利益成長を続けてきた実績のある企業は、景気悪化局面で他をアウトパフォームしている。
資産配分においては、株式と債券に同程度のリスク・リワード(リスクに見合ったリターン)が見込まれる。我々の基本シナリオでは、今後1年で上場株式の株価は1桁後半の伸び、高クオリティ債は1桁半ばの伸びを想定している。特に我々はテクノロジー株、投資適格債、金を選好する。また、FRBの利下げペースが他の主要中銀を上回ると予想されることから、米ドル下落を見込んだポジションを取っている。
本稿では、米大統領選による世界経済と市場への影響について、考えうるシナリオを検証する。米国の直近のインフレ率と雇用統計がFRBの利下げサイクルの幅とペースにどう影響するかも検討する。さらに、中国の状況にも触れておきたい。中国は足元で、構造的、景気循環的に厳しい状況に直面しており、経済成長率が鈍化している。
米大統領選: 最後まで接戦
投票日まであと数週間となった米大統領選は、最後まで大接戦が続く見通しだ。激戦州の世論調査における両候補の支持率は僅差で許容誤差の範囲内である。オンライン予測市場を見てみると、Polymarketはハリス副大統領の勝率を51%、トランプ前大統領の勝率を47%と予測、PredictItはハリス副大統領の勝率を57%、トランプ前大統領は45%としている。しかし、予測市場の数字は依然として変動している。
議会の上下両院選は、大統領選ほど接戦にはならないだろう。我々は、共和党が上院を制する確率を85%、民主党が下院を制する確率を65%とみている。これは重要なポイントである。なぜなら、ねじれ議会状態となれば、次期大統領の立法に対する影響力の範囲が制限され、市場の焦点が再び企業業績や経済成長、FRBの政策に戻るとみられるからだ。投資家と市場は、「通商」と「税制」という二大政策分野の行方がどのようなインプリケーションをもたらすか精査するだろう。
通商: 関税引き上げのリスク
通商政策に関しては、トランプ氏は中国からの輸入品に60%、その他の国からの輸入品には少なくとも10%の追加関税を課すと述べている。経済への影響や交渉の余地を考慮すると、トランプ氏がこれらの関税措置をすべて発動するまでには至らないと考える。しかし、たとえねじれ議会のシナリオとなった場合でも、大統領には国際緊急経済権限法に基づき、このような関税を単独で発動できる権限が認められることもある。
一方、ハリス氏は、トランプ氏が提案する追加関税政策について、米国の消費者に対する一種の「消費税」だと批判しているが、バイデン政権による中国製の電気自動車やソーラーパネルに対する新たな関税引き上げ策には支持を表明している。ハリス陣営の広報担当者はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、ハリス氏は「的を絞った戦略的な関税を課す」方針であると答えている。ハリス政権の下では、通商に関しては少なくとも現状維持が続くと見込まれる。
よって、我々は、「ジェスチャー」としての通商政策(例えば、EUと中国の現在の状況のように、政治的な主張や特定の優先政策課題を強調するため、特定の製品に一時的に関税を発動する政策)の確率を50%前後、選択的関税(特定国の広範な貿易慣行の是正を目的に、複数のセクターにわたって適用される関税措置で、2018~2019年の米中関係がその例)の確率を40%、すべての輸入品に適用される普遍的な関税が継続的に賦課される確率を10%前後とみている。
市場にとっては、普遍的な関税シナリオが最も大きな影響をもたらすだろう。これが実行に移されると、米国株式は10%程度下押しされると予想され、特に小売、自動車メーカー、テクノロジー・ハードウェア、半導体、および一部の製造業セグメントにマイナスの影響が及ぶとみられる。債券市場は、関税によるインフレ率上昇の影響を受けて、当初は売り込まれる可能性がある。だが、輸入品のコスト上昇が経済成長や個人消費、生産性を圧迫するようになると、中期的には市場の関心は利下げに戻ると予想する。
税制: 期限を迎える個人所得減税
トランプ政権下で成立した個人所得税の減税措置は、議会が合意に至らず、減税延長法案が可決されなければ、予定通り2025年末に失効となる。
トランプ氏は個人所得減税の恒久化を訴えている。さらに、法人税率の引き下げ(21%から15%または20%へ)と給与税率の引き下げも掲げている。だが、これらの政策が実現しうるのは、共和党が上下両院を制した場合に限られるだろう(我々の予想確率は35%)。
一方、ハリス氏は、個人所得減税の恒久化は年収40万米ドル未満の人に限定すると主張している。また、法人税率の28%への引き上げとキャピタル・ゲイン税率の引き上げに支持を表明している。ただし、他の税政策については、いまのところ方針を明らかにしていない。ハリス氏が提案している税制改正は、民主党が上下両院で多数派となった場合にのみ実現しうると我々はみている(予想確率は15%)。
投資家は現時点でどう動くべきか?
通商政策や税政策に伴う市場リスクはありうるものの、議会の構成や、選挙公約と実際の政策運営との乖離を考えると、極端に悲観的なシナリオは実現の可能性が低いとみている。さらに投資判断には、これらのリスクと合わせて、米国株式が大統領選挙の前後で概ね上昇しているというこれまでの実績を考慮する必要がある。よって、投資家は、選挙結果に対する期待と懸念に基づいてポートフォリオを大幅に変更すべきではないと考える。むしろ、特定のリスクに対するヘッジと管理を検討することを勧める。
ポートフォリオの下振れリスクやボラティリティを管理する方法の1つに、金への投資が挙げられる。また、関税リスクに備えてサプライチェーンの移転が進むと見込まれることから、「リショアリング(事業拠点の国内回帰)」の投資テーマは有望とみる。選挙動向の影響を受けやすい米国の一般消費財、再生可能エネルギーなどの株式セクターや、中国人民元などの通貨については、リスク管理を行うことを勧める。
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最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。