アジア太平洋通貨

ドル円:為替介入だけでは不十分

ドル円は4月29日に一時160円台をつけ、その後急落した。政府・日銀が為替介入に踏み切ったとみられる。為替介入の影響は短期間にとどまる可能性が高く、ドル円は当面、値動きの荒い状態が続くだろう。

  • ドル円は4月29日に一時160円台をつけ、その後急落した。政府・日銀が為替介入に踏み切ったとみられる。
  • 為替介入はドル円の過度な上昇を抑えるツールの1つにはなるが、マクロ経済と金融政策に変化がなければ、円安を反転させる効果は限定的だろう。
  • 為替介入の影響は短期間にとどまる可能性が高く、ドル円は当面、値動きの荒い状態が続くだろう。

ドル円は160円台を突破したことで、財務省の防衛ラインを超えた可能性が高い。ドル円は4月29日に1米ドル=160円10銭という34年ぶりの円安ドル高水準をつけた後、本稿執筆時点で155円80銭へと急落した(訳注:その後154円台まで下落)。この動きから読み取れるのは、ドル円が財務省の防衛ラインに到達したということだ。米国のコア消費者物価指数(CPI、エネルギーと食品を除く)が予想を上回り、米国の高金利が長期化するとの市場期待が高まって、ドル円が4月中旬に152円を超えて以降、財務省高官は口先介入を続けていた。

円安の進行を鈍化させるには、財務省による断固とした政策措置が重要だと考える。為替介入を全く行わなければ、日本の政策当局は後に、さらに大きな問題への対処を余儀なくされるだろうが、歴史的に見ると、為替介入の影響は短期間にとどまることが多い。為替介入が功を奏するかどうかは通貨のファンダメンタルズ(対象国の経済状況や政策)に依存しており、短期的には円にとって厳しい状況が続くと考えられる。

年初来のドル円の上昇は、米ドル側の要因だけではない。過去のデータをみると、ドル円の主な変動要因は日米の金利差であり、それは2022年と2023年にも当てはまった。ところが、2024年年初来の日米金利差の拡大が示唆する以上に、ドル円の上昇は進行している。過去3年間のドル円の金利感応度を見ると、ドル円は足元の155~160円ではなく、むしろ140~146円の範囲内にとどまることを示している(図表1参照)。

我々は、今年の円安の進行には、日本国内の2つの要因が関係すると考える。第1に、名目金利、実質金利ともに低水準が続いていることで、対外投資に高リターンを求める日本人投資家が増えており、その中には税制優遇制度が拡充された新NISA(少額投資非課税制度)の利用も含まれている。

第2に、日銀は3月にマイナス金利を解除し、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を撤廃したものの、さらなる金融引き締めを急ぐ必要性はないことを示唆している。投資家は、キャリー取引の調達通貨として円を使い、通貨リスクを積極的に取るようになった。

今後の見通しは?

日本円は、貿易加重平均、購買力平価のどちらの点からもG10諸国通貨の中で最も割安な通貨だ。しかし、バリュエーションは、通貨市場への投資に対する優れた指針にはなっておらず、特に日本円にはそれが言える。

そのため、我々は景気サイクルに着目したアプローチを継続する。我々は日米の経済成長率の格差は縮小すると見込んでおり、日本は金融引き締め方向、米国は金融緩和方向に動くと予想する。以上の点、および日銀による為替介入が行われる可能性を考慮した上で、我々はドル円が短期的に大きく変動し、年末までに150円をやや下回る水準に戻る余地があるとみている(2024年12月の予想値は148円)。最近のマクロ経済指標に鑑みると、ドル円が目先で150円を大きく下回る可能性は限定的と考える。マクロ経済環境に変化がない限り、日米間の大きな金利差を考慮し、ドル円が大きく下落した際は、米ドル買いの好機になるだろう。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS AG Singapore BranchおよびUBS Switzerland AGが作成した“Asia Pacific currencies - USDJPY: Intervention not a panacea”(2024年4月29日付)の一部を翻訳・編集した日本語版として2024年5月2日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×