長期的視点からのオルタナティブ投資

分散手段の選択肢を広げる

長期投資に伴う流動性リスクを許容できる投資家は、ポートフォリオ・リターンの分散と向上を図り、不確実なマクロ環境を切り抜ける方法として、オルタナティブ投資の検討が可能だ。

新型コロナウイルスのパンデミックとロシアによるウクライナ侵攻が世界のインフレの構図を変貌させ、その結果、金融政策を大きく変えてしまった。また、複数の長期の構造的トレンドに拍車をかけ、その他のトレンドが台頭する契機にもなった。負債と投資、グローバル化の変容と地政学、脱炭素化と気候変動、人口動態は、長期的なマクロ経済見通しを形成する重要な要素であり、経済成長にとって向かい風にも追い風にもなっている。

長期トレンドのマクロ経済への影響

各国政府はエネルギー移行計画を促進し、製品や技術の海外依存を低減するために積極的な投資を行っている。軍事支出も伸びており、政府予算を圧迫する可能性がある。理論上、これら支出を賄うための資金調達は、金利の上昇を招く。ただし、高い負債水準と資本市場の脆弱性に鑑みて、中央銀行が実質金利の過剰な上昇を抑える可能性がある。最近のイングランド銀行(中央銀行)による英国債券市場への介入事例がその例だ。よって我々は、米国では均衡実質金利は若干のプラスを予測する。インフレ率は最終的に中央銀行の目標に向けて低下すると予想するが、リスクはインフレ率上昇に傾いている。これがまちまちな経済成長率と相まってボラティリティ(相場の変動幅)を押し上げ、また利上げのペースと方向性をめぐる更なる不確実性につながるとみられる。

以前、金利が低かったときは、投資家はリターンを求めてポートフォリオにオルタナティブ(代替投資)資産を追加した。だが、伝統的な資産クラス、とりわけ債券のリターン見通しが改善してきた今、投資家には資産目標の達成に向けた選択肢が増えている。ただし、足元のリスクと不確実性は以前よりも高い。よって、投資期間が長く、それに伴う流動性リスクを十分に許容できる投資家は、ポートフォリオのリターンの分散と向上を図るツールとして、またより重要な点として、不確実性の高いマクロ経済環境を切り抜ける方法として、オルタナティブ投資を検討することが可能だ。

アルファ創出機会の復活とヘッジファンド

低金利と低ボラティリティが永遠に続くかのように思われ始めていた環境が終焉を迎え、アルファ創出の機会が再来している。数年に及ぶ超緩和政策は、市場全体にわたりリスクプレミアムを急速に縮小させた。昨年からの金融政策の引き締めへの転換はリスク資産に投資を始める絶好の機会となったが、どの資産に投資すべきかを明確に見定めることが必要だ。債券市場ではキャリー(金利収入)を創出する機会が豊富にある。だが、金利が上昇するなかで、発行体の格下げとデフォルト(債務不履行)が増える可能性があることから、銘柄選別の重要性が一段と増している。

株式では、株価収益率(PER)の上昇よりも、1株当たり利益(EPS)成長率、バリュエーション(株価評価)および幅広い銘柄のボトムアップ分析が重要になる可能性が高い。国やセクター間のパフォーマンスの隔たりが大きい状況は続くと予想する。そのため、下値リスクを軽減し、恒久的なキャピタルロスを回避しつつ、ファンダメンタルズと株価に乖離がみられるミスプライスの投資機会を積極的に捉えることが一段と重要になる。ヘッジファンドやオルタナティブ投資を組み入れることで、リスクを管理しながらアルファ創出の好機を捉えることが可能になるだろう。

インフレヘッジのための実物資産

インフレ率は、概して大半の先進国でいずれ中央銀行の目標である2%近辺に向けて低下すると予想する。だが、経済成長を維持しながらこの目標を達成するのは難しい。状況をさらに複雑にしているのが、インフレ圧力を強めるグローバル化の変容と脱炭素化というトレンドだ。そのためインフレ率が過去10年の水準に戻る可能性は低く、一時的に上昇することもあるだろう。こうした環境では、とりわけ構造的な追い風も受ける「インフレヘッジ」特性を持つ資産クラスに配分することが有効だ。

その1つが、複数の重要な長期トレンドに密接に関連するプライベート・インフラストラクチャーだ。デジタル社会では高速モバイル通信とデータセンターの拡充が必要だ。サプライチェーンの自国回帰や友好国回帰により、港湾やその他物流システムの近代化需要が高まっている。また、エネルギー移行にはより多くの再生エネルギー発電と蓄電が必要とされる。多くのプライベート・インフラストラクチャー資産には、高い参入障壁、需要の価格弾力性の低さ、インフレ率に連動することが多い安定したキャッシュフローなど、共通する特性がみられる。インフレ率が高く不確実な経済環境では、着実なインカム創出がマルチアセット・ポートフォリオのパフォーマンスの平準化に役立つ。

このカテゴリーに属するもうひとつの資産クラスとして、プライベート不動産が挙げられる。プライベート不動産は、リスクとリターンの特性が株式と債券の中間に位置している。賃貸収入は企業収益よりも安定しているが、債券の金利ほどは安定していないためだが、賃料は経済成長とインフレ環境の変化に伴い、長期的には調整されると我々は予想する。一般的に不動産は株式ほど景気の影響を受けず、株式に匹敵するインフレヘッジ効果がある。

不確実な金利環境に対応するためのプライベート・デット

世界金融危機以降、世界のパブリック(上場)デットは急速に増加しており、国際通貨基金(IMF)によると、2021年は世界の国内総生産(GDP)の96%に達した。世界で様々な国の政府が景気と支出を支えながら負債比率を削減するという難題に取り組んでいる。これら支出を賄うための資金調達は実質金利の上昇につながるが、負債水準の上昇が金利上昇の管理をますます難しくしている。不確実な金利環境のなか適切なバランスを取るために、投資家は金利リスクとデュレーションリスクを積極的に管理する必要があるだろう。また、代替的な資金調達源も必要になる。

ここ何年かの間に、プライベート・デットは特に中小企業の重要な資金調達源となってきており、このトレンドは続くと予想する。大半の債券戦略と比べて、プライベート・デットには変動金利、高いレベルの統制、低ボラティリティといったメリットがある。デフォルト(債務不履行)という形で実体経済における金融ストレスのリスクに晒されてはいるが、プライベート・デットの貸手は引受基準を有利に設定することができるため、デフォルトリスクは幾分管理できる。ボラティリティが上昇しており、借手はその他資金調達源から流動性を確保することが難しいことから、貸手は交渉をさらに有利に運ぶことができる。

長期の構造的トレンドにおけるプライベート市場の必要性

この10年は、新技術、地政学、社会現象、環境変化が金融市場に多大な影響を与えるだろう。2020年から2030年までの間にデジタルデータは10倍以上に増加し飛躍的な伸びを示すと予想され、またスマート・オートメーションが第4次産業革命を促進し、生産性の向上をもたらし、世界中の製造業やグローバル貿易の勢力図を書き換えるだろう。こうした長期トレンドは投資機会になると同時に、サイバー攻撃が銀行、通信、食料、水、エネルギー供給などの重要なシステムに社会的な損害と混乱を及ぼすことへの懸念も高める。一方、新型コロナウイルス感染拡大は、世界のヘルスケアシステムへの投資と、ゲノミクス、ウイルス学、遠隔医療等の分野でイノベーションを加速する必要性があるとの認識を新たにした。また昨年は、資源不足が経済成長とインフレに与えうる影響を改めて知らしめた年となった。廃棄物の発生を抑え、炭素排出を削減し、都市人口の増大問題に対処する、持続可能で効率的な天然資源の活用に焦点を置いた循環型経済(サーキュラー・エコノミー)の構築は、今後10年超に及ぶ最優先課題である。

イノベーションには膨大な資本投下が必要だが、政府予算には限りがある。プライベート市場のマネジャーは、さまざまな成長段階の企業に株式や債券投資を通じて資本を提供することで、未来の経済構築において重要な役割を果たす。新規上場する企業の数は限られているため、急速に成長する革新的な企業に上場企業だけを通じて投資することは困難になっている。非公開を貫く、上場を延期する企業が増えており、このトレンドが反転するとは思えない。つまり、これまで上場市場が享受してきた価値創造の一部が、今やプライベート投資家の手に渡っているのである。こうした長期機会の一部を捉えるには、プライベート資産をポートフォリオに組み入れる必要がある。

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本稿は、UBS AGおよびUBS Switzerland AGが作成した“Taking a long-term view with alternatives: Expanding the traditional toolkit”(2023年4月付)を翻訳・編集した日本語版として2023年5月9日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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