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欧州銀行株安:我々の見解

米国シリコンバレーの中堅銀行の破綻を受けて、欧州銀行セクターの地合いは悪化した。市場は3つの問題、「銀行のソルベンシー、流動性、収益性」に直面している。

何が起きたか?

15日の世界の株式市場は、欧州の銀行株が急落を主導した。S&P500種株価指数は0.7%、ストックス欧州600指数は2.9%、セクター別指数のストックス欧州600銀行株指数は6.9%下落した。

米国シリコンバレーの中堅銀行の破綻を受けて、欧州銀行セクターの地合いは既に悪化していた。だが、経営不安の高まった某スイス金融大手について筆頭株主が追加出資が必要となっても応じないと述べたことが嫌気され、金融セクター全体が下落した。

債券市場は、中央銀行がハト派寄りの姿勢に転じることを素早く織り込んだ。ドイツ2年国債利回りは48ベーシスポイント(bp)低下(価格は上昇)したほか、スイス2年国債利回りは35bp、米2年国債利回りは36bp低下した。欧州中央銀行(ECB)は16日に理事会を開催する予定で、事前には50bpの利上げが広く予想されていた。スイス国立銀行(中央銀行)と米連邦準備理事会(FRB)は来週それぞれ金融政策を発表する。投資家の安全資産への逃避の動きから、米ドルもまた対ユーロで急騰した。

経緯

先週の米銀の破綻をきっかけに、市場は、相互に関連しあうも異なる3つの問題に直面している。銀行のソルベンシー(支払い能力)、流動性、および収益性だ。

端的に言えば、銀行のソルベンシーに対する懸念は行き過ぎであり、大半の銀行は強固な流動性を維持していると我々は考える。したがって、大部分の金融機関の預金者は十分に保護される。だが、資金調達のひっ迫が長期間続き、銀行セクターに対する収益悪化懸念が高まれば、一部の銀行には中央銀行の流動性支援が必要になるかもしれない。

銀行のソルベンシー:銀行の資産が負債をどの程度上回っているかは、銀行の基本的な預金返済能力を表すものであり、預金者や規制当局の重要な指標である。米銀を破綻に追い込んだ要因だ。同銀は、資産のかなりの割合を債券投資に充てていたが、そうした保有債券の価格がその後下落した。同銀は預金引き出しに応じるために資産を売却せざるを得なくなり、そこでこの脆弱性が露見したのだ。

だが、その他大部分の銀行では、ソルベンシーは問題にならないと考える。とりわけ、「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)」は、2008年の世界金融危機以降、経済のストレスシナリオ下でも負債を上回る十分な資産を保有するよう厳しく規制されているため、ソルベンシーが問題になることはないだろう。また、G-SIBは会計処理上「売却可能(AFS)」に分類された証券を、規制資本要件に対して定期的に時価評価していることも覚えておきたい。

銀行の流動性:銀行が期日どおりに負債を返済できる確度もまた、重要な指標だ。規制当局は、外部からの資金調達が一時的に難しい時期にあっても銀行が期日に負債を返済する能力を、定期的にテストしている。だが仮に、銀行が預金維持や金融機関から取引先として十分な信頼を持続的に得られなければ、やはり流動性危機が発生する可能性がある。これが最終的に銀行が債権者に債務を返済する能力(ソルベンシー)に必ずしも影響するわけではないが、資産と負債の期間のミスマッチを解消するために「最後の貸し手(中央銀行)」の介入が必要になる場合もある。

米連邦預金保険公社(FDIC)による預金保護と、資金が必要な銀行へのFRBによる貸付という最近の対応は、米銀のみならず、米国に支店を持つ外銀の流動性リスクを解消するとみられる。スイス国立銀行は15日の取引時間後に「必要があれば流動性を供給する用意がある」と発言したものの、米国のような対応策が発表されなかったことが、取引時間中に欧州銀行セクターの地合いが弱含んだ要因である。

銀行の収益性:銀行の収益が費用を持続的に上回る度合いを表す指標も重要だ。なぜなら収益性は、銀行が株主と資本の提供者に持続的にリターンを提供する能力を表すからだ。

金利上昇が純金利収入の増加により収益性を押し上げるとの期待から、欧州銀行株は年初から2割以上上昇している。また、15日の急落後でさえも、銀行セクターのリターンは年初来でまだ僅かにプラス圏にある。

とはいえ、収益性に対する逆風が高まっていることは認めざるを得ない。一部の銀行は預金流出リスクを抑えるために預金金利をさらに引き上げざるを得ず、取引先金融機関も一段と高いリターンを要求して資金調達コストが上昇するだろう。銀行は流動性を引き上げるために新規融資を制限する可能性があり、景気見通しの悪化から銀行が貸倒引当金を積み増す必要があるかもしれない。

投資見解

主要銀行のソルベンシーへの懸念は過剰反応と考える。堅固な資本基盤、規制当局によるG-SIBに対する厳しい監督から、主要銀行にソルベンシー問題が発生するとは考えにくい。FDICとFRBによる措置は米銀や米国に拠点のある外銀の流動性リスクを緩和するだろう。大半の欧州銀行の流動性ポジションも潤沢である。よって、多くの金融機関の預金者に対するリスクは非常に低いと考える。

一方で、資金調達条件が厳しくなることで、ごく一部の銀行で流動性リスクが上昇するだろう。また、全体的に銀行の収益性にはマイナス要因になるだろう。株式市場では、銀行株の保有割合がベンチマーク(MSCIオールカントリー・ワールド指数の金融セクターの割合は約15%)を上回る投資家は、他のセクターに超過分を振り分けて分散を図ることが重要だ。我々は欧州金融セクターに対し中立、米国金融セクターをアンダーウェイトとする。

債券市場では、現在の状況下では高クオリティ債(高格付債、投資適格債)が魅力的とみる。現金を保有の投資家は債券投資によって信用リスクを分散し、金利見通しが不透明な時に利回りを固定することができる。我々は高格付債と投資適格債を推奨する。ディフェンシブ性の高い債券テーマは、最近の足元の金利下落に対して大幅上昇をみせた。市場が景気後退シナリオや将来の大幅な金利引き下げの可能性をさらに織り込めば、同テーマのリターンはさらに伸びるだろう。

株式では、米国株式をアンダーウェイトとする。FRBはインフレ、経済と金融システムの安定へのリスクのバランスで一層難しい政策のかじ取りを迫られており、ソフトランディングに成功する可能性が低下している。よって、我々は新興国株式を推奨する。米国株式より割安で、中国の経済再開が追い風となっている。セクター別では、グローバル生活必需品を選好する。相対的に業績モメンタムが強まっているためだ。また、株価下落対策として元本確保戦略も有効と考える。

通貨では、短期的には米ドルが安全資産を求める投資家の資金を引き付けるだろうが、米ドルは割高であり、長期的には大半のG10通貨に対し弱含むだろう。よって、金融危機のリスクを懸念する投資家は、スイス・フランや金(gold)などの伝統的な安全資産への分散を検討することができる。リスク選好度が高い投資家には、FRBは欧州中央銀行(ECB)ほど積極的に金融引き締めをしそうにないとの見方から、ユーロを推奨する。米国の銀行システムをめぐる問題が発生した中でも中国の内需中心の景気回復が続くと考える投資家には、豪ドルを推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: European bank sell-off – Our views” (2023年3月15日付)を翻訳・編集した日本語版として2023年3月17日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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