日本経済

2023年の見通し:日銀は金融正常化に向け小さな一歩を踏み出す

日本経済は、主にサービス消費と設備投資による内需回復に牽引される形で2023年も1~1.5%成長が続くと予想する。

  • 日本経済は、主にサービス消費と設備投資による内需回復に牽引される形で、2023年も1~1.5%成長が続くと予想する。
  • 主に高齢者層によるサービスへの累積需要、賃金上昇の加速、国内旅行と消費に対する政府補助金などが経済成長の下支え要素となる。インバウンド消費の回復は始まったばかりと見ている。
  • 賃金上昇率の加速が確認されれば、2023年半ばから後半にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を調整することで、日銀は金融政策正常化に向けて小さな一歩を踏み出すだろう。
  • 岸田首相の経済政策における優先課題は、新型コロナ危機からの回復と高インフレ対策から、経済安全保障に移ると予想する。

注:日銀は12月19日から20日に開催された金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロールの調整を決定。金融政策に関する見方は決定会合後の日本経済レポート「日本経済:日銀は金融引き締めの動きに追随するのか?」をご参照ください。

日本経済は、世界経済が停滞する中においても国内需要の回復により、2023年も1~1.5%程度の成長が続くと予想する(2022年予想は1.5%)。この成長を促す主な要素は、サービス支出の改善、インバウンド消費の回復、設備投資の伸びだろう。一部先進国で財への支出が減速するため、輸出は低調となる見通しだ。

金融政策面では、2023年半ばから後半にイールドカーブ・コントロールを調整することで、日銀は将来の金融正常化に向けて小さな一歩を踏み出すと思われる。岸田内閣も、2023年の政策の焦点を経済安全保障に移す可能性が高いだろう。

累積需要、賃金上昇、政府支援策がサービス支出を押し上げ

サービス業は新型コロナ禍で3年間に亘って大きく下押しされてきたが、日本のサービス支出は2023年にようやくコロナ危機前の水準を回復すると予想する。この回復の鍵となるのは、旅行とレジャーへの累積需要だろう。具体的には、高齢者の外出が活発化し、関連支出が回復すると考える。これまで日本の高齢者の支出は若年層の支出を下回っていた(図表1参照)。

賃金上昇の加速も下支え材料になる。2023年3月から6月にかけて実施される次回の賃上げ交渉(春闘)の後、従業員1人当たりの年間賃金増加率は、現在の1.5~2%から2~2.5%に上昇すると予想する。政府のインフレ対策でガス・電気価格の上昇は抑えられており、2023年を通してサービス支出は堅調に推移する余地があるとみる。また政府は1月半ばに旅行支援プログラム(世帯が支払う宿泊費の20%を補助するなど)を再開する方針だ。

インバウンド消費の回復

世界的な景気低迷により財輸出の伸びは減速する見通しだが、サービス輸出はインバウンド消費に牽引される形で2023年に回復すると予想される。政府は2022年10月に1日当たりの入国者数上限を撤廃した。その結果、10月の訪日外国人旅行者数は、9月の2倍超となる49万8,600人(2019年の20%)に達した。

国別では韓国(2019年の62.3%)と米国(2019年の34.7%)からの旅行者の比率が高く、中国からの旅行者は、移動制限が続いているため依然として少ない(2019年の2.9%)(図表2参照)。今後は、中国が2023年第3四半期に経済を完全に再開させると予想されることから、恐らく2023年後半以降は中国からの旅行者が増えるだろう。中国人観光客の数が2019年の50%まで回復すれば、訪日外国人の総数は2019年の70%を上回り、インバウンド消費額は3.3兆円(GDPの0.6%)に達するだろう。

設備投資の新時代:デジタル化、国内回帰、労働・エネルギー効率化

世界経済の減速による逆風にもかかわらず、日本の設備投資は2023年も引き続き底堅く推移すると予想する。日銀短観(全国約1万社を対象にした定期調査)によると、企業の2022年度(2023年3月を年度末とする)の設備投資の伸び率は1983年以降の最高を記録した。

12月の政府調査によると、多くの企業が在庫の再積み増し、デジタル化への着手、労働・エネルギーコスト削減のために設備投資を増やす計画だ。実際、2022年度のソフトウェア投資計画は前年比20.3%増と多額に上り、企業が業務のデジタル化に強い意欲を持っていることが示唆される。

労働力不足も深刻化している。日銀短観では雇用情勢の悪化が強調され、雇用人員判断指数はマイナス31まで下がり、新型コロナ禍が始まった2020年以降で最低となった。女性の労働参加率は75%に達し、高齢者では25%超となった。従って、我々は2023年は労働効率性向上に向けて設備投資を増やす企業の動機が高まると考える。

また、政府支援と円安を背景に、2023年は企業がリショアリング(製造業の国内回帰)投資を増やすと考える。過去には、円の動きは約8四半期遅れで国内・海外投資比率と相関していた。

2023年の政治面での3大焦点

2023年は、市場に影響を及ぼしうる3つの政治関連分野に注目する。金融政策正常化に向けた日銀の小さな前進、岸田首相の経済安全保障政策、岸田内閣が直面する潜在リスクの3つだ。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese economy: 2023 Japan outlook: BoJ takes a small step toward normalization”(2022年12月19日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年12月22日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
青木 大樹

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス 日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト

青木 大樹

さらに詳しく

2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。
また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。

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