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主要中銀のタカ派シグナルに株価下落

主要中央銀行の金融引き締めと、インフレ抑制のためにさらなる引き締めが必要とのコメントを受けて、15 日のS&P500 種株価指数は2.5%下落した。

何が起きたか?

主要中央銀行の金融引き締めと、インフレ抑制のためにさらなる引き締めが必要とのコメントを受けて、15日のS&P500種株価指数は2.5%下落した。14日の米連邦準備理事会(FRB)による利上げに続き、欧州中央銀行(ECB)、スイス国立銀行、イングランド銀行は15日、いずれも0.5%の利上げを決定した。利上げ自体は想定内だったが、投資家を狼狽させたのは各国中銀総裁によるその後のタカ派発言だった。

ラガルドECB総裁は、金利を「まだ大幅かつ着実なペースで引き上げる必要がある」と述べ、今後3回の会合でさらに0.5%ずつの利上げの可能性を示唆した。先物市場では、ピーク時の予想金利水準がECB会合前の2.75%から上昇し、3%を超えることを織り込んだ。同様に、スイス国立銀行のジョルダン総裁は、高いインフレが「過ぎ去ったと思う」のは時期尚早であり、追加利上げの可能性も「排除できない」と述べた。イングランド銀行もまた、今後数カ月は利上げの必要性があると警告した。

これら中銀総裁のコメントは、14日のパウエル議長によるFRBはまだ金融引き締めを継続する必要があるとの発言を増幅させる結果となった。パウエル議長の発言を受けた14日のS&P500種株価指数の下落は0.7%と小幅にとどまったが、15日は主要中央銀行の相次ぐ発言が投資家心理にさらに重くのしかかった。ユーロストックス50指数は3.5%、スイスSMI株価指数は2.5%下落したほか、ディフェンシブ色の強いFTSE100指数でさえも0.9%下落した。こうしたリスクオフの地合いは、ユーロ圏で最も安全な国債とリスクの高い国債の利回り格差の拡大からも明らかだ。最も安全なドイツ10年国債とリスクの高いイタリア10年国債の利回り格差は、ECBが保有する償還債の再投資の停止と流動性の吸収計画の発表後に拡大した。

米国の経済指標も投資家の不安を高める材料となった。先週の新規失業保険申請件数の減少は、労働需要が供給を依然超過しているとのFRBの懸念を裏付ける形となった。一方、11月の小売売上高は前月比0.6%減と11カ月ぶりの大幅低下となり、労働市場は依然ひっ迫しているものの、消費者が財布の紐を引き締めていることが明らかになった。

今後の展開

2023年はインフレ、金融政策、経済成長の転換点を迎えると予想する。だが、持続的な相場上昇に向けたファンダメンタルズ(基礎的条件)の状況が整っておらず、市場は明るい見通しを先回りして織り込んでいると考える。主要中銀による最近の発言や見通しは、こうした我々の見方を裏付ける。

14日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが物価安定の確保という使命を達成したとは考えていないことが明示された。FOMCメンバーによる金利の見通しを示すドットチャートは、今後さらに少なくとも0.5%の利上げが行われるとのコンセンサスを示す内容となり、FOMCメンバー19人のうち17人が金利のピークを5%超と予想した。

13日に発表された11月の消費者物価指数など、インフレ指標がこのところ減速傾向にあることは明るい材料だが、賃金の伸びを背景としたサービス価格の上昇が依然懸念材料であることをFRBは強調した。パウエル議長は、米国は構造的な労働力不足に陥っており、市場に戻ってくる労働者が増えても賃金が低下する可能性は低いとの見方を示した。この見方は、労働参加率が11月まで3カ月連続で低下していることからも裏付けられる。平均時給も、10月の数字が0.5%に上方修正されたのに続き、11月は0.6%上昇した。

15日の主要中央銀行総裁の発言からは、他の中銀高官も追加利上げの必要性を感じていることが示唆される。S&P500種株価指数は10月半ばにつけた年初来安値から8.9%ほど回復しているが、この回復がこれまでの金融引き締めが景気に与える影響を完全に織り込んだものであるとは我々は見ていない。景気鈍化が重しとなり、2023年のS&P500企業の利益は4%低下すると我々は予想する。ボトムアップによる足元の1株当たり利益(EPS)のコンセンサス予想は5%増と、楽観的すぎるおそれがある。

投資見解

S&P500種株価指数は10月半ばの年初来最安値から一時14%回復していたが、さらに下落するリスクは残る。だが、このリスクに対しては、株式への資産配分を減らすよりも、リスクを緩和する方策を我々は勧める。

ポジションの積み増しにあたっては、ディフェンシブ・セクターを引き続き推奨する。株式では、経済成長が鈍化する局面では比較的耐性のあるヘルスケアおよび生活必需品セクターを推奨する。地域別では、米国株式よりも割安でバリュー株比率の高い英国株式とオーストラリア株式を推奨する。米国株式は情報技術やグロース銘柄比率が高く、バリュエーションも割高となっているからだ。

債券では、利回りが魅力的で、景気後退リスクに対するプロテクション効果もある高格付債と投資適格債を推奨する。また、FRBの金融引き締めサイクルはECBよりも進んでおり、米国はすでに量的引き締めを進めていることから、米国10年国債はフランス10年国債をアウトパフォームすると予想する。

また、他の資産との相関の低いヘッジファンドを検討することも勧める。たとえば高ボラティリティ市場で良好なパフォーマンスをみせる可能性があるマクロ戦略などだ。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks fall on hawkish central bank signals”(2022年12月15日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年12月16日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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