日本株式

金融セクターの魅力が高まる ー 日銀の政策要因だけではない

マクロ経済の減速にもかかわらず、2022年3月に投資テーマ「金融セクターの魅力が高まる」を開始以降、金融株は日本株式の中で最もパフォーマンスが好調なセクターの1つだ。

  • マクロ経済の減速にもかかわらず、2022年3月に投資テーマ「金融セクターの魅力が高まる」を開始以降、金融株は日本株式の中で最もパフォーマンスが好調なセクターの1つである。
  • こうしたアウトパフォームにもかかわらず、金融セクターはまだ割高という水準からは程遠く、バリュエーション(株価評価)の上昇余地があると考えている。
  • 2022年7–9月期(第2四半期)の底堅い決算もまた、バリュエーション上昇という我々の見解を裏付けるだろう。また、多くの日本の金融機関は増配と自社株買いを発表している。したがって我々は、日銀の政策転換の見込みだけが2023年に日本の金融機関がアウトパフォームする理由だとは考えていない。

我々の見解

日本は20年以上デフレ圧力にさらされており、その間日銀は金利をゼロ近辺に抑えてきた。そうしている間に欧米の中央銀行は金融政策を転換し、インフレ率が上昇する中、米国では債券利回りが上昇している。また、円は今年大半の期間、米ドルに対して最も大きく下落し、再び140円に近づいている。問題は長年のゼロ金利を経て、こうした変化が日本の金融機関にどのような意味があるかということだ。

マクロ経済の減速にもかかわらず、2022年3月に投資テーマ「金融セクターの魅力が高まる」を開始以降、金融株は日本株式の中で最もパフォーマンスが好調なセクターの1つである。3月30日付レポートの中で我々は、日本のインフレ率の上昇、日本の金融機関の堅調な利益成長、株式バリュエーションの上昇という3つの事象を予想した。

10月の日本のコア消費者物価指数(CPI)は3.6%と1982年以来の高い伸びを示した。これにより、日銀が近い将来、長きにわたるゼロ金利政策を変更するのではないかとの期待が高まった。また、米国およびその他諸国の金利上昇も、日本の金融機関の利益を大きく押し上げている。海外運用部門は金利上昇の恩恵を受けるからだ。結果として、株式バリュエーション、特に株価純資産倍率(PBR)は緩やかに上昇したが、日本の銀行や保険会社の多くが2022年第2四半期に増配と自社株買いを発表しており、配当利回りは依然として4~5%と高い。

図1~3からわかる通り、2022年は日本の金融セクターのパフォーマンスが好調だった。にもかかわらず、まだ割高という水準には程遠く、株式バリュエーションが再評価される余地があると考えている。

日本銀行

2023年3月に黒田日銀総裁の任期が終了した後、日銀は10年国債利回りの上限を0.25%としている長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)政策を修正する可能性が高いと考える。日銀は2023年末までに、10年国債利回りの変動幅の上限を0.35~0.45%に引き上げるだろう。だが、イールドカーブ・コントロール政策の修正と、近い将来日銀が政策金利を引き上げることとは同義ではない。そのため、日本の金融機関の利益に対する追い風は緩やかなものになる可能性が高い。

また、2つの要因が日本の金融機関の株価にポジティブな影響を与える可能性がある。1つ目は、日本の金利上昇による直接的な影響だ。図4が示す通り、日本の長期プライムレート(最優遇貸出金利)は20年以上極めて低水準で推移している。我々は国内貸出金利が今後2年間に緩やかに引き上げられると予想しており、それがこの間の銀行の利益を5~10%押し上げる公算が大きい。

2つ目に、日銀の金融政策変更は、金融機関の株式バリュエーションを引き上げるだろう。主要金融機関の大半は、PBRが低く配当利回りが高い。よって、金融機関の増益見込みは金融セクターに明るいカタリスト(材料)の1つであり、これにより増配余力が高まると考える(多くの金融機関が過去5年増配中)。


本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Japan financial winners — Bank of Japan is not the only driver”(2022年12月1日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年12月8日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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