長期投資 : スペース・エコノミー
宇宙経済
宇宙経済(スペース・エコノミー)は転換点を迎えている。その経済規模は、2021年の3,860億米ドルから2040年には1兆米ドルへと拡大する勢いだ。
2022.09.07
- 宇宙経済「スペース・エコノミー」は転換点を迎えている。その経済規模は、2021年の3,860億米ドルから2040年には1兆米ドルへと拡大する勢いだ。
- 民間セクターによる資金拠出の増大、衛星技術の大幅な進化、宇宙関連の新たな応用分野や産業の力強い成長などが宇宙経済の拡大を牽引しているが、とりわけ打ち上げコストの著しい低下が鍵を握る。
- 通信および安全保障分野への幅広い応用のほか、宇宙資源採掘や宇宙空間製造、宇宙旅行などの新たな産業、宇宙太陽光発電 、そしてそれらに付随する地上機器へのニーズが、今後数十年に亘って力強い成長を牽引するだろう。
我々の見解
宇宙経済のカバーする領域は広く、様々な産業と最終市場が含まれる。最近の著しい技術の進歩により、宇宙の商業化に向けた多くの機会が生まれている。その重要な鍵となるのは、打ち上げコストの低下だ。本稿では、通信と安全保障の分野に主な焦点を置きつつ、宇宙旅行、宇宙太陽光発電、宇宙空間製造、宇宙資源採掘についても触れる。応用事例の多くはまだ初期段階にある。従って、このテーマへの投資には高いリスク許容度が求められるが、宇宙がもたらす大きな機会を考えると、長期的には恩恵をもたらすポテンシャルがある。
宇宙経済は離陸態勢にある
宇宙経済は転換点を迎えているようだ。過去10年の間に、民間セクター投資は宇宙技術の研究開発に革命を起こすとともに、コストを重視することにより、業種を超えた多くの潜在的利用者にとって、宇宙をアクセスしやすいものへと変貌させた。
ニューエコノミー分野の世界有数の資産家たちは、宇宙技術のイノベーションに多大な貢献をし、低コストなロケット打ち上げサービスや軌道に到達しない弾道飛行による宇宙旅行に向けて、再利用可能なロケット技術に巨額の投資を行っている。
宇宙経済の現状
現在、世界の宇宙経済は通信に焦点を置く衛星産業と、主に軍事に焦点を置く政府支出でほぼ成り立っている。米衛星産業協会(SIA)の推計によると、昨年は衛星・地上機器産業(政府支出を除く)が世界の宇宙経済の約72%を占めた(図表1参照)。
魅力的な成長見通し
我々は世界の宇宙経済が、2021年の約3,860億米ドル規模(米衛星産業協会による推計 )から、2040年までに約1兆米ドルへと、年平均5%を超えるペースで成長すると予想する。成長を後押しするのは、打ち上げコストの著しい低下、宇宙へのアクセスの向上、そしてロケットと衛星技術の躍進だ。地上機器産業と新しい宇宙経済「ニュー・スペース・エコノミー」 がこの成長の牽引役になると考える(図表2参照)。
打ち上げコストの大幅な低下 – 鍵となる躍進
ロケットの打ち上げ初期には、ペイロード(積載量)1kg当たりに10万米ドル超(インフレ調整済み)のコストがかかっていた。ペイロードとは、衛星から乗組員まで、ロケットに積載するもの(量)を指す。低軌道(LEO)までの打ち上げ(Topic 2参照)が始まって以降、コストは劇的に低下しており、今後10年で大幅に改善されると考えられる。
宇宙経済は2000年代半ばから後半までは政府出資が主体であったことから、投資に商業的な動機はほとんどなく、当初のコスト低下ペースは遅かった。しかし、民間企業が市場に参入したことでこうした状況は変わった。民間企業は宇宙での活動から実現可能なビジネスを生み出すことを目指している。実際、2010年に打ち上げに成功したイーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業の商業用ロケット、ファルコン9(Falcon 9)は低軌道までの積載コストを1kg当たり2,500米ドルほどに低減した。さらに再利用性と技術の向上、重量耐性の向上により、その後開発された大型ロケット、ファルコンヘビー(Falcon Heavy)の打ち上げコストは1kg当たり約1,500米ドルにまで低下した。
技術の進歩
今後は再利用可能ロケット技術の採用などによって、コストの低下が進むと考える(Topic 1参照)。スペースシャトル開発が始まった初期の段階から、再利用可能ロケット技術は低軌道宇宙への経済的で持続可能なアクセスを実現する重要な解決策とみなされてきた。ロケットの重量の大半を占めるのは燃料だが、コストの大部分は機体が占める。つまり、再利用によってかなりの費用削減効果が見込める。
ファルコン9は、ロケットの再利用性の利点を初めて実証した。物資と人員を載せて地球周回軌道を飛行することを目指して作られた同ロケットは、ロケットで最も高額な部品である1段ブースターの再利用と再飛行を可能にした。部品の再利用により、ファルコン9は低軌道への飛行コストを以前の型よりも約20%低減した。各社が一段のコスト低下に向けて多大な努力をするなか、コストはさらに大きく低下するだろう。シティは、2040年までにコストが現在の水準よりも約95%下がると予想する。予想にはばらつきがあり、その数字の達成はかなり厳しいように思われるが、ロケット技術が向上して各段階で使われる高価な機体が再利用可能になり、宇宙経済の拡大に牽引される形で一定の規模の効果が現れれば、力強い前進が見られる可能性が極めて高いと考える。
宇宙と通信
現在、通信は宇宙経済の重要な柱であり、主に衛星サービスを指している(図表1)。シティと米衛星産業協会の試算によると、通信産業の年間活動規模は現在の1,100億米ドル超から2040年には1,500億米ドルにまで拡大する見通しだ(図表3参照)。通信ビジネスの成長は比較的緩やかになることが示唆される。従って、宇宙経済における通信サービスの割合は時間の経過とともに縮小し、通信セグメント内でも変革が起こるだろう。
宇宙経済の成長は、新たなより先進的な応用分野(宇宙太陽光発電等)に牽引されてゆくだろう。これについては後述する。だが通信は今後も消費者とビジネスに関わってゆくものであり、衛星通信がいかに活用されるか、どのセグメントがサービスの提供先になるかという点で変化が起こりつつある。低軌道(LEO)という言葉も、重要なキーワードとして浸透してゆくだろう(Topic 2参照)。この分野で事業展開する企業の中では、スターリンク(Starlink)といった衛星コンステレーション(多数の衛星群)による衛星通信ネットワークがメディアで注目を浴びている。ロシアによるウクライナ侵攻下において、スターリンク衛星がウクライナのデジタルインフラ継続を支えているからだ。最新データによると、軌道上には2,400強のスターリンク衛星が投入されており、世界中で50万人弱の利用者にサービスを提供している。まだ導入が始まったばかりであるが、将来的には利用者の大幅な拡大が見込まれる。