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米インフレ率低下で株価上昇

10日のS&P500種株価指数は5.5%上昇した。同日発表された米インフレ指数が市場の予想を下回ったことで、FRBの利上げペースが減速することへの期待が再浮上した。

何が起きたか?

10日のS&P500種株価指数は5.5%上昇した。同日発表された米インフレ指数が市場の予想を下回ったことで、米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースが減速することへの期待が再浮上した。米消費者物価指数(CPI)は10月は前月比0.4%の上昇と、エコノミストのコンセンサス予想の0.6%を下回った。変動の大きい食品およびエネルギーを除いたコア指数は0.3%と、8月、9月の上昇率から半減した。

インフレ率は前年同月比でも減速し、総合インフレ率は7.7%と2 月以来初めて8%を下回った。ピークは6 月の9.1%だった。コア指数は前年同月比で9 月の6.6%から10 月は6.3%に減速した。

インフレ率の低下を受け、これまで4回連続0.75%だった利上げ幅を次回12月の会合で0.5%に減速させることが可能となるとの市場の見方が強まった。また、投資家が予想する利上げの最終到達点も、2023年6月に4.83%と、先週時点の5.1%近辺予想から低下した。

全セクターが上昇した中で、金利上昇に弱い情報技術と、景気減速に敏感な一般消費財が最も大きく上昇した。個別銘柄をみると、10日に大きく上昇した銘柄の一部は年初来パフォーマンスが大きく低迷している銘柄であったことから、市場のポジショニングが急変したことがうかがえる。また、市場の上昇を狙ったコールオプションの買いや、市場のモメンタムやボラティリティ(変動率)の低下を利用してリスクポジションを積み増すシステマティック戦略などによる資金の流入も、市場の押し上げ要因となった。

リスク選好度が回復したことが米ドル売りにつながり、米ドル指数(DXY)は2.4%下落の107.9となった。 また、FRBの利上げ見通しをもっとも反映する米国2年国債利回りは25ベーシスポイント(bp)低下し4.34%、10 年国債利回りは28bp低下し3.82%となった。

労働市場の過熱感に鎮静化の兆しが見えたことも、市場のリスクオンの動きを促した。11月5日の週の失業保険申請者数は季節調整後で前週から7千人増え22.5万人となった。労働市場のひっ迫はFRBの主な懸念要因だった。

10日のこうした動きを受け、利上げのピークはこれまでの予想より高くなりうるとのFRBのコメントを受けた先週の市場のリスクオフムードは一変した。

今後の展開

物価上昇ペースの鈍化は明るい材料だ。インフレの脅威が終わったと宣言するのは時期尚早だが、10 月のCPI にはいくつか前向きな点が見られる。

まず、住居費を除くコアCPI が前月比横ばいになったことである。また、住居費は前月から0.8%上昇したが、これは昨年ピークをつけた過熱市場による影響が遅れて出たものだ。新規賃料に関する最近のデータによると、賃料の上昇圧力は鈍化している。総合CPI の約3 分の1 を占める住居費は、あと数カ月は力強い伸びを示す可能性はあるものの、その後は減速するとみられる。

次に、10 月はコア財価格が0.4%低下してマイナスとなり、パンデミック中の財への過度な需要が引き続き後退していることを裏付けた。この数値には、前月から2.4%下落した中古車価格が含まれており、通常の水準に戻るまでにさらに下落すると考える。衣料費は前月比0.7%、医療サービスも0.6%低下した。

とはいえ、インフレとの闘いが終わったとFRBが考える可能性は低い。1つ目に、FRBがハト派姿勢への転換を検討する前に、数カ月連続したインフレ率低下を確認する方針からだ。だがサービス価格の上昇は引き続き懸念材料だ。サービス業のコア指数は過去数カ月からは低下して0.5%となったが、それでもかなり高い。最近の購買担当者景気指数(PMI)によると、一部のセクターでは相変わらず労働力不足に陥っている。航空および宿泊などの業種では、多くの企業が需要への対応に追われている。

2つ目に、FRBは労働市場の鎮静化の兆候を見極める必要がある。10月の雇用統計は雇用の伸びが強く、失業率は50年ぶりの低水準をわずかに上回るなど、労働市場の減速を確認できる内容ではなかった。賃金も高止まりしている。9月のアトランタ連銀の賃金追跡調査(3カ月移動平均) は6.3%となり、6月につけた6.7%からは低下しているものの、FRBのインフレ目標水準を優に上回っている。一方で、米労働省が発表したJOLTS求人件数では9月の求人件数が増加し、失業者1人に対する求人件数は約1.9となった。

金融政策への影響としては、今回のCPIにより、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を0.5%に引き下げやすくなるだろう。だが、FRBは少なくともあと合計で1%は金利を引き上げてから、利上げサイクルの停止に踏み切る可能性が高いと考えている。一方で、過去の利上げによる累積的な影響が経済成長と企業利益に引き続き重石になるだろう。

シカゴ連銀が算出する全米金融環境指数(NFCI)は、パンデミック初期の急騰を除いて世界金融危機以降で最も引き締まった水準を示しており、これが金融機関の貸出態度や市場に与える影響が顕在化しつつある。FRBが四半期ごとに実施する11月の銀行上級貸出担当者調査(金融機関の貸出態度)では、商工融資の貸出基準を引き締めていると回答した銀行が39%に上った。こうした金融引き締め傾向は昨年から急速に強まっており、今後数四半期の間にS&P500種企業の利益を一段と下押しすることを示唆している。

投資見解

こうした状況下、今後3~6カ月は株式にリスクに見合ったリターンは見込みにくいとみている。

相場の持続的な上昇に必要なマクロ経済の前提条件はまだ整っていないと考える。ただし、最近の市場動向にみられるように、投資家センチメントの急激な変化が定期的な相場上昇を引き起こす可能性はある。市場ボラティリティは依然として高止まる可能性があるため、上昇局面を見逃すことなく、下方リスクをプロテクトする戦略を勧める。

各資産クラスにおいてよりディフェンシブな資産に焦点を当てることを勧める。株式では、元本確保戦略、高クオリティ高配当株を推奨する。経済成長が鈍化する局面では比較的耐性のあるグローバル・ヘルスケア、生活必需品も推奨する。通貨では、英ポンドとユーロに対し「安全資産」として米ドルとスイス・フランを推奨し、債券では、米ハイイールド債より高格付債、投資適格債を推奨する。

インフレ率が依然として中央銀行の目標値を大きく上回る中、バリュー株はグロース株をアウトパフォームすると予想する。グローバル株の中でエネルギー株も引き続き推奨する。地域別では、米国株式に対して割安でバリュー株比率の高い英国株式とオーストラリア株式を推奨する。米国株式は、情報技術銘柄とグロース銘柄比率が高く、バリュエーションも割高となっているからだ。

今年みられた株式と債券の高い相関は、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資の重要性を浮き掘りにしている。今年はマクロ戦略がとりわけ好成績で、高ボラティリティ市場では引き続き良好なパフォーマンスをみせるだろう。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks rise on improving US inflation”(2022年11月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年11月11日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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