マンスリーレター11月号

底値を拾う

これまで多くの投資家から、相場はいつ底を打つのかとの質問を受けた。まずは単刀直入に、「底値を拾おうとするのは危険な行為だ」と申し上げたい。

これまで多くの投資家から、相場はいつ底を打つのかとの質問を受けた。まずは単刀直入に、「底値を拾おうとするのは危険な行為だ」と申し上げたい。市場タイミングを計って一喜一憂しても、長期投資では成功しないからだ。この前提のもと、本レターでは、相場の転換点をどう考えるか、そして特に今回の場合にはどう考えるべきかについて述べたいと思う。

持続的な相場反発の条件として次の3つのいずれかが必要と考える。1)米連邦準備理事会(FRB)による利下げや2)経済活動の底打ちが近いという感触を投資家が得る、または3)バリュエーションがあまりに低く、「悲観シナリオ」をすでに織り込んだときの3つだが、現時点ではどの条件も当てはまらない。

最新の米国のインフレ率と労働市場に関するデータは、FRBが2023年の1–3月期(第1四半期)に利上げを止める可能性が高いとしても、利下げはまだ先になることを示唆している。消費者物価指数(CPI)のコア(食品とエネルギーを除く)インフレ率は、現在1982年以来で最も高い。FRBはこの状況に対し十分な措置を講じないリスクを冒すくらいなら、「引き締め過ぎ」も厭わないと一貫して主張してきた。そして労働市場は逼迫している。

コンセンサス予想は、2023年の世界の企業利益を5%増益と見込んでいるが、金融引き締め政策の潜在的な悪影響は織り込んでいない模様である。さまざまな先行指標も景気鈍化を示唆している。中国は新型コロナと不動産市場関連の問題の解決に取り組んでいるため、依然として短期のリスク要因だ。

金利の継続的な上昇が意味しているのは、特に米国ではバリュエーションは低下したものの、悲観シナリオは十分に織り込まれていないということだ。株価急落は、その大半が金利上昇で説明できるとはいえ、成長見通しの悪化はまだ織り込まれていないと我々はみている。

ポジティブな点としては、2023年半ばのどこかで経済成長率の底打ちが見込まれることだ。そして、我々の予想通り、FRBが2023年第1四半期に利上げを停止すれば、市場は将来の利下げタイミングを探り始めるだろう。

一方、絶対バリュエーションの低下と債券利回りの上昇により、分散投資家の長期リターン見通しは改善した。そして今日のような不安定な市場環境は、長期投資家がポジションを組むのによい機会であると言える。

我々は、ここ数カ月にわたって、ディフェンシブ株、分散投資、安定したインカム収入を期待できる銘柄、バリュー株といったテーマに重点的に資産配分を行い、金融引き締め政策と、それによる景気減速懸念が高まる状況を切り抜けてきた。

今日は、目先の下落リスクの緩和に注力しつつ、中長期的な上昇に備えたポジションを維持する。

株式では、元本確保戦略とバリュー株、安定したインカム収入を期待できる優良銘柄(クオリティ・インカム)、および世界のヘルスケアと生活必需品セクターを推奨する。一方、グロース株、テクノロジー・セクター、資本財セクターは推奨しない。地域別では、米国よりも英国を推奨する。債券では、米ハイイールド債よりも高格付債と投資適格債を推奨する。通貨では、英ポンドとユーロよりも安全通貨とされる米ドルとスイス・フランを推奨する。

FRBはいつ方向転換するのか?

高いインフレ率となおも上昇を続ける金利は、短期的にはリスク資産に逆風になると思われる。歴史的にみると、市場は通常、単なる利上げの終了だけでなく、利下げまでが視野に入って初めて底打ちする。1960年以降の相場の転換点を見ると、米2年国債利回りは、相場が底値をつけるまでの6カ月でピークから平均100ベーシスポイント(bp)低下しており、投資家がFRBの利下げサイクルを予想し始めていたことを示唆していた。それでは、そのようなタイミングは、いつやってくるのだろうか。

最近発表されたインフレ率は明るい材料とはならなかった。米国のコアCPIインフレ率は、夏場に若干下げたものの、9月には前年同月比6.6%と、40年ぶりの高水準を記録した。このデータは、消費支出が財からサービスに向かい、住宅や輸送の価格が跳ね上がったことを示している。コアサービス価格は8月から0.8%上昇したが、コア財価格は前月比で横ばいだった。

住宅については、他のデータでは明らかな賃料の下落がまだCPIデータ上では表れていない模様である。FRBはデータのこうした欠陥を認識しているものの、数値自体の正当性について議論できるとは考えていないだろう。インフレ率はあまりの高水準が続いている。FRBは自らの信頼性が瀬戸際に立たされていることをよくわかっているため、判断の基準としている公式のインフレ指数の上昇が止まるまでは積極的に利上げを続けると思われる。

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本稿はUBS AGが作成した“Monthly Letter: Picking the bottom”(2022年10月20日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年10月28日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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