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期待外れの米企業決算、株価は上昇

企業業績モメンタムの鈍化と米国のインフレの高止まりを示す経済指標にもかかわらず、28日の株式市場は上昇した。

何が起きたか?

企業業績モメンタムの鈍化と、米国のインフレの高止まりを示す経済指標にもかかわらず、28日の株式市場は上昇した。S&P500種株価指数は2.5%上昇し、ハイテク株の比重が高いナスダック総合指数は2.9%上昇した。

先週発表された巨大ハイテク企業の一連の決算は期待外れだったが、世界最大手の米IT企業は決算において需要の底堅さを示す内容が好感され、7.6%上昇して株価指数を押し上げた。また、米連邦準備理事会(FRB)の一部高官の発言、カナダ中銀による予想を下回る50ベーシスポイント(bp)の利上げ、ユーロ圏が景気後退に向かっているとの欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁コメントを受けて、中央銀行が利上げペースを鈍化させるとの楽観論が台頭したことも市場を下支えした。

9月の個人消費支出(PCE)コア価格指数が前年同月比+5.1%と、8月の+4.9%から上昇したことを受けて、28日の米10年国債利回りは7bp上昇(価格は下落)した。だが、週全体でみると米10年国債利回りはまだ低下している。中央銀行の政策転換期待に加えて、賃金上昇圧力の鈍化を示す経済指標が発表された。労働コストの幅広い指標である雇用コスト指数は、4-6月期(第2四半期)に前期比1.3%上昇した後、第3四半期の伸びが1.2%に鈍化した。賃金・給与が第2四半期の前年同期比5.3%上昇から第3四半期は5.1%上昇へと鈍化した。民間部門の賃金・給与も同5.7%上昇から5.2%上昇へと鈍化した。

中国の複数の都市で新たにロックダウンが強化されたことを受け、28日は原油価格が下落(ブレント原油が1.2%下落)したが、週全体でみれば原油は依然として2.4%の上昇となった。米ドル指数は0.1%上昇して引けた。

今後の展開

S&P500種株価指数はここ1週間で4%上昇し、10月12日の安値からは9%上昇している。こうした動きの大半は、FRBが利上げペースを減速し始めるとの期待と、すでに慎重な投資家のポジション調整によるものだ。

リフィニティブ・リッパーのデータによると、世界の株式投信は9週連続で資金流出した後、10月26日までの1週間で再び資金流入に転じた。1週間の資金流入額は合計78億米ドルだった。先週は株価ボラティリティ(変動率)も低下し、VIX指数は週初の30から金曜日には26に低下した。このボラティリティの低下がシステマティック運用による買いを誘い、10月半ばにつけた安値からの市場モメンタムが恐らくCTAといったトレンド追随型ヘッジファンドなどの買いを誘発する水準に達したとみられる。

需給要因や投資家センチメントの変化が定期的に市場の反発をもたらす可能性はあるものの、現段階のリスク・リワードは株式の持続的な上昇を支える水準ではないと見ている。

先週前半の株価上昇は、FRBが喫緊に政策転換を行うとの期待に基づくものだった。だが、28日に発表されたインフレ指標は、11月2日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で、4会合連続となる75bpsの利上げが行われるとの見方を裏付ける内容だった。一部のFRB高官が利上げペース減速の可能性に言及しているものの、FRBの政策転換を期待するのは時期尚早だ。インフレは依然高止まりしており、FRBは自らの信頼性が問われている局面にあることを自覚しているとみており、正式な経済指標がインフレ後退を示唆するまで積極的な利上げを継続すると我々は予想する。最終的に利上げを停止するにしても、当面は引き締め気味の金融政策が続く可能性が高いことを留意されたい。

一方、巨大IT企業の決算は総じて予想を下回った。デジタル広告のさらなる減速、クラウド投資の鈍化、eコマースの低迷に加えて、コスト増が多くの巨大IT企業の利益を押し下げている。こうした冴えない巨大IT企業の中で世界最大手の米IT企業の決算は最も良く、28日は同社株が7.6%上昇し、S&P500種株価指数の値動きの4分の1を占めた。だが、同社でさえも先行きの不確実性に言及し、通常ほど具体的な見通しを示さなかった。

S&P500種構成企業の2022年第3四半期の1株当たり利益(EPS)成長率は、前年比3~5%という我々の当初予想を下回るペースで推移している。S&P500種構成企業の7割(時価総額ベース)が決算発表を終えたが、利益成長率は1~3%のレンジになる模様だ。予想を上回った企業は64%と、過去5年平均の75%を下回る。また利益予想を上回った場合でも、その幅が縮小しており、EPS全体では予想を1%上回る程度にとどまり、過去5年平均の8%を大きく下回った。

こうした背景から、今後数四半期、企業利益に対する圧力は強まる一方だろう。よって、2023年のS&P500種構成企業のEPSを4%低い215米ドルと予想する。本格的な景気後退になれば、EPSは200米ドル台まで低下する可能性がある。一方、ボトムアップによるコンセンサス予想は235米ドルだ。

投資見解

上述のように、足元のリスク・リワードは株価の持続的な上昇を支えるほど良好とは言えない。投資家はFRBの利下げ、あるいは経済活動の底打ちの兆しを確認する必要があるだろう。現在は、いずれの条件も充たされていない。

バリュエーションについては、S&P 500種株価指数のコンセンサス予想EPS(我々の見解では楽観的)ベースの株価収益率(PER)は17倍近くに上昇している。この水準は、依然高まる景気後退リスクや債券利回りの水準を考えると魅力的ではないと考える。足元のS&P 500種の株式益利回りと米国10年債利回りのスプレッドは、世界金融危機以来の低水準である。

このような環境下、我々は短期的な相場の下振れリスクの軽減と中長期的な上昇機会を捉えるエクスポージャーの維持に注力する。

株式では、元本確保戦略、バリュー株、高クオリティ高配当株を推奨する。セクター別では、グローバル・ヘルスケア、生活必需品、エネルギーを推奨する。グロース株、資本財、情報技術は非推奨とする。24日の週の巨大ハイテク企業決算は、こうした見方を裏付けるものとなった。地域別では、バリュー株比率が高く割安な英国とオーストラリアの株式市場を米国市場よりも推奨する。米国株式はハイテク株とグロース株比率が高くバリュエーションも相当割高だ。

債券では、米ハイイールド債より、高格付債と投資適格債を推奨する。通貨では、英ポンドとユーロより、安全通貨とされる米ドルとスイス・フランを推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks rally despite disappointing earnings”(2022年10月29日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年10月31日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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