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リスクの高まりに対応する

7 月は一時的に戻り相場にみえたものの、市場はこの1 年一貫して下降しており、多くの投資家がいつ相場が底をつけるのか考えている。過去を振り返ると、市場で底値を付けるには3つの条件がある。

7 月は一時的に戻り相場にみえたものの、市場はこの1 年一貫して下降しており、多くの投資家がいつ相場が底をつけるのか考えている。過去を振り返ってみると、市場で底値を付けるのは、(1)投資家が今後6~12 カ月の間に大幅な金融緩和策を予想し始めたとき、(2)経済活動の底が視野に入ってきたとき、(3)バリュエーション(株価評価)がすでに「弱気」シナリオの可能性を十分に織り込んでいるときである。

だが今日の状況は、そのいずれも満たしていない。

1 つ目に、米連邦準備理事会(FRB)は2023 年1–3 月期(第1 四半期)に利上げを終了する可能性はあるものの、最近のインフレおよび労働市場のデータは、当面利下げ見込みがないことを示している。9 月の米コア消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.6%増といまだに上昇の勢いが止まらず、1982 年以降で物価上昇ペースが最も速かった。直近公表されたFRB 議事要旨からは、インフレを十分抑制できないリスクを冒すくらいなら、政策を「引き締めすぎる」ことを厭わないFRB の姿勢が見て取れる。また、FRB 高官は一貫して、フェデラルファンド(FF)金利を2023 年は4.5~4.75%に引き上げる意向を繰り返し示している。さらに、インフレ率の重要な押し上げ要因である労働市場は依然としてひっ迫している。9 月の失業率は8 月の3.7%から3.5%に低下し、50 年ぶりの低水準となった。インフレの鈍化と労働市場の軟化がない場合、FRB の政策転換には、大幅な経済指標の悪化が必要だと考えている。

2 つ目に我々は、金融引き締めが経済と企業利益にもたらす結果が、コンセンサス予想に十分に反映されていないとみている。企業は、需要の減少、労働コストの上昇、利益成長率の前年対比での鈍化という三重苦に直面している。最近の英国年金基金の混乱が示すように、経済活動の急速な悪化の前兆になりうる金融市場での相場急変の圧力が高まっている。新規受注などの先行指標は下降している。また、中国ではゼロコロナ政策や不動産セクターの混乱が続いており、短期的に世界の経済成長の支援材料ではなくリスク要因になる可能性の方が高い。こうした状況にもかかわらず、コンセンサス予想は依然として、2023 年の世界の企業利益成長率を5%としている。

3 つ目に、株式相場はかなり下落しているが、リスク資産のバリュエーションはまだ「弱気」シナリオを反映していない。経済成長に対するリスクの高まりと市場ボラティリティ(変動率)の上昇にもかかわらず、株式は債券よりも割安にはなっておらず、大幅な成長率の低下や減益を織り込んでもいない。今年の市場動向は、金利上昇によってほぼ説明できるうえ、株式リスクプレミアム(株式投資のリスクをとることで国債を上回る期待リターン)は250 ベーシスポイント(bp)と、年初の320bp から縮小している。また債券市場についても、投資適格債や高格付債に対する現在のハイイールド債のスプレッドは、リスクの高い発行体が直面している深刻な問題に十分見合っていない。

投資戦略

今後3~6 カ月の市場のリスクリワードは芳しくないないだろう。我々は、2023 年第1 四半期までに主要中央銀行が利上げサイクルを終了するとは予想していない。世界経済成長は2023 年初頭に向け引き続き減速し、各国中銀が金融政策引き締めを行う中で、世界の金融市場はその影響を受けやすいだろう。

だが同様に、インフレ率と労働関連指標が徐々に鈍化する可能性や、FRB が利下げサイクルをじきに終了する気配、あるいは経済の底堅さを示す兆候を見逃がさないことが重要だ。これらの要因はそれぞれ、短期的な相場上昇を後押しするだろう。また2023 年が進むにつれ見通しも改善する可能性が高い。2023 年上期に経済成長率が底を打ち、市場はFRB による利下げサイクルの開始を期待し始めるだろう。また、株式のバリュエーションは米国では長期平均並み、その他諸国ではそれを下回っており、分散ポートフォリオを保有する投資家にとって長期的なリターン見通しは比較的良好である。

よって我々は、中長期的に上昇が見込めるポジションを保持しつつ、短期的な下方リスクの軽減に注力する。また、株式の資産配分を低めにしている投資家は、足元の高ボラティリティと価格下落局面を生かし、長期的なポジションを構築することが引き続き重要と考える。

すでに長期目標水準程度の株式ポジションを保有する投資家には、下方リスクを軽減する戦略の検討を勧める。我々は多くの運用ポートフォリオですでに、こうした元本確保戦略を可能な限り導入している。これら戦略を活用することで、投資家は、相場上昇時には値上がり益を享受する一方、相場下落時にはある程度の元本確保が可能となる。グローバル・ヘルスケアや生活必需品のような、景気悪化の影響を受けにくいディフェンシブ・セクターのポジションを増やすことも、上昇するポジションを残しつつ、下方リスクの軽減に役立つ。

長期目標を上回る株式ポジションを保有する投資家には、高格付債や耐性のある社債への超過分の組み換えを勧める。高格付債では、最近の利回り上昇で米高格付債の最終利回りが4.67%になるなど、投資を始めるに魅力的な水準となっている。2023年に景気が急速に鈍化する場合、同資産クラスは好調なリターンを上げると予想する。ただし、インフレ率が予想外に上振れれば、短期的には下落する可能性がある。満期5~7年付近のAA格またはA格の投資適格債や、景気連動性が比較的低い事業の発行体が魅力的とみている。

長期目標を下回る株式ポジションを保有する投資家には、今は買うには適当でない時期に見えるかもしれない。だが、長期投資家にとってバリュエーションの低下は、投資を始めるのに良いタイミングであることを示唆している。過去のデータに基づくと、S&P500種株価指数の株価収益率(PER)が現在と同程度のときには、その後10年間の年率リターンが8~10%になっている。

資産クラスの見通し

マクロ経済環境の悪化に伴い、資産クラスの推奨をいくつか変更した。

株式
米国株式を中立から非推奨に引き下げた。多くのグローバル株式市場が同じく景気悪化に直面しているが、米国株式のバリュエーションにはあまり織り込まれておらず、いまだに長期平均並みである。インフレ率や労働市場に関する経済指標が徐々に鈍化するにつれて、安心感から短期的に相場が上昇する可能性もあるが、上値を追うよりも下値のプロテクションに注力する。

また、金利変動の高まり、世界経済の減速、米中の技術面での「デカップリング」継続に鑑み、テクロノジー・セクターを中立から非推奨に引き下げる。一方、ヘルスケアや生活必需品といったディフェンシブ・セクターや、金利とインフレ率の上昇局面ではテクノロジー株などのグロース銘柄を上回るパフォーマンスを上げる傾向があるバリュー株を推奨する。

債券
米国ハイイールド債を非推奨に変更する。利回りは上昇しているものの、投資適格債や高格付債と比べたハイイールド債のスプレッドは、この資産クラスのリスクを十分に織り込んでいない。流動性がひっ迫する環境では、ハイイールド債への価格下落圧力が高まる可能性がある。よって、投資適格債や高格付債の中で耐性の強い社債を推奨する。

コモディティ
コモディティ全般を推奨から中立に引き下げ、新たなポジション追加ではなく、既存のポジション保有を勧める。中国の経済回復が依然として停滞するなど、世界経済成長に対するリスクが高まっており、需要予想が低下する可能性がある。だが同時に、我々のアクティブ・コモディティ戦略では原油、また株式ではエネルギー・セクターの推奨を維持する。供給側の問題が需要減速よりも深刻であることが今後数カ月のうちに明らかになり、この先数カ月間は引き続き原油価格が上昇すると予想する。

外国為替
英ポンドとユーロに対して、「安全資産」として米ドルとスイス・フランの推奨を継続する。FRBの利上げサイクルは、依然として世界の主要中央銀行の中で最も急速に進んでおり、リスクオフ環境では米ドルとスイス・フランへの資金流入が続く見込みが高い。一方、英ポンドとユーロは比較的割安ではあるが、エネルギー供給のひっ迫が続く間は下落リスクが残る。

オルタナティブ投資
今年はこれまで、ヘッジファンドが稀に見る素晴らしい投資先となっており、とりわけマクロ戦略が好調だ。インフレ指標と中央銀行の金融政策から、短期的に株式と債券の相関が高い状況が続くと予想される。よって、こうした資産との相関が低いヘッジファンド戦略に分散することで、不確実な市場環境を切り抜けることを勧める。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Managing heightened risks”(2022年10月14日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年10月17日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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