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金融政策転換への期待感で株価続伸

4日のS&P500種株価指数は3.1%と再び上昇した。8月の求人数が予想を下回り、米連邦準備理事会が想定よりも早く積極的な引き締めスタンスを転換するとの期待が高まった。

何が起きたか?

4日のS&P500種株価指数は3.1%と再び上昇した。同日に発表された8月の米雇用動態調査(JOLTS)で求人数が予想を下回り、米連邦準備理事会(FRB)が積極的な引き締めスタンスを想定よりも早く転換するとの期待が高まった。債券市場も株式と歩調を合わせて上昇し(利回りは低下)、米10年国債利回りは1ベーシスポイント(bp)低下して3.63%となり、先週急騰した分を引き続き相殺している。フェデラルファンド金利先物は現在、ピーク時の金利を4.47%と織り込んでいるが、その時期も2023年4月とやや前倒しになっている。

4日のJOLTSは、労働市場のひっ迫が緩和していることを示唆する内容だった。8月の求人数は約110万件減の約 1,010万件となり、2020年4月の新型コロナウイルス感染拡大が始まって以降、月次の減少幅としては最大となった。前日発表された9月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が8月の52.8から50.9に低下したのに続き、FRBの積極的な引き締め策が効いていることを示した。

このニュースを受けて米ドル指数も1.4%低下し110.18となった。欧州でもユーロストックス50指数が4.3%上昇し、ドイツ10年国債利回りが5bp低下して1.87%となった。

金利が低下したことから米国ハイテク株(ナスダック総合指数は3.3%上昇)が4日の株価上昇をけん引する一方、石油輸出国機構(OPEC)に非加盟の産油国を加えたOPECプラス会合を5日に控え、ブレント原油価格が3.1%上昇したためエネルギー株も4.3%上昇した。今回のOPEC会合では減産が発表されると予想されている。

オーストラリア 準備銀行(中央銀行)が4日、想定より小幅の0.25%の利上げを決定し市場を驚かせたこともハト派の地合いを後押しした。同中銀は4会合連続で0.5%の利上げを行っていた。政策金利であるキャッシュレートは2.6%と9年ぶりの水準に上昇しており、ロウ総裁はキャッシュレートがすでに「短期的に相当上昇している」と述べた。今回の政策決定を受けて、3年国債利回りの日中の下げ幅は2008年10月以来の大きさとなった。

英国では、クワーテング財務相が財政拡張策の財源についての計画を当初予定していた11月23日よりも前倒しで発表すると述べたとの報道を受け、リスクセンチメントが改善した(訳注:その後、クワーテング財務相は前倒しの報道を否定している)。 英10年国債利回りは9bp低下して3.87%となり、英ポンドは対米ドルで1.3%上昇した。

今後の展開

弱いJOLTS指標は、FRBの金融引き締めにより、利上げ停止の前提条件の1つである労働市場の逼迫が解消されつつあるとの投資家の認識を裏付けた。この指標は変動が大きく、修正される可能性があるが、求人数は3月の1,190万人から8月には約1,010万人まで低下している。市場の注目は7日に発表される雇用統計に移るだろう。非農業部門雇用者数の伸びと賃金上昇率の鈍化、あるいは失業率の上昇が示されれば、FRBの金融政策をめぐるセンチメントが一段と改善するだろう。

4日の株式相場の上昇は3日の上昇の流れを受けたもので、ISMの9月の製造業指数が低下はしたものの好不況の節目を上回ったことで経済のソフトランディング(軟着陸) への期待感が高まったことや、ISM仕入価格(同指数の拡散指標)が低下したことでインフレ率の減速期待が高まったことを背景としている。S&P500指数は四半期ベースで2008年以来最も長い下落局面が続いたが、そこから2営業日連続で反発する形となった。

今後については、歴史的に低い市場センチメント、バリュエーションの改善、一部の期待インフレ指標の低下などが相まって、市場の断続的な反発の可能性が高まるとみる。ただし、その道のりは平たんではないだろう。4日に発表された8月の米求人件数は約1,010万件に減少したが、それでもなお失業者数は600万人と低水準(失業者1人に対する求人件数は約1.7件)であり、これは賃金上昇圧力につながるだろう。アトランタ連銀の8月の賃金トラッカーは6.7%とFRBのインフレ率目標を大きく上回っている。また、求人件数が大幅に減少したことで、失業率が上昇する可能性もある(FOMCの予想の中央値は2023年が4.4%)。過去、失業率の上昇は、経済活動の鈍化を伴ってきている。

株式相場が持続的に上昇するには、米国のインフレ率が明らかに低下に転じたことを示す兆候(コアPCEインフレ率が少なくとも3カ月間、前月比+0.2%以内で推移するなど)と、雇用市場の鎮静化の兆しにより、FRBが利上げを停止できる状況になることが必要だろう。

原油市場では、OPECプラスによる大幅減産の決定見通しがすでに織り込まれているが、減産幅が日量50万バレル以下にとどまった場合には、当面の原油価格には新たな下押し圧力となるだろう。

投資見解

特定のシナリオに大きく賭ける環境ではないとみている。投資家には、さまざまなシナリオを想定した投資機会に目を向けることを勧める。

バリュー銘柄に投資する。インフレ率と金利のダブル上昇の環境下では、グロース株よりもバリュー株への投資が有効な傾向がある。バリュー株のパフォーマンスがグロース株を年初来で12ポイント上回っていることからも、こうした傾向がみてとれる。過去のデータによると、FRBの利上げ終了時から12カ月以内に、バリュー株はグロース株を4.3ポイント上回ってきている。セクター別では、OPECプラスの原油減産の可能性が、ブレント原油価格を年末までに110米ドル/バレルまで反発させ、エネルギー株のさらなる上昇を下支えるとみている。

ディフェンシブ銘柄を組み入れる。中央銀行の金融引き締めは経済成長に対する数あるマイナス要因の1つであるが、この環境下では、株式では生活必需品セクター(ベータ0.7)、債券では耐性のあるクレジット、サステナブル債券など、ディフェンシブ銘柄の組み入れを勧める。スイス・フランと米ドルは、明らかな利上げサイクルにある安全通貨として推奨する。

非相関のヘッジファンド戦略を追求する。インフレ高進と金利上昇環境下で株式と債券の相関性が高まり、共に年初来で下落している。しかし、この「従来型」分散投資には困難な現環境が、ヘッジファンド、特にマクロ戦略には有利に機能している。マクロ戦略は、市場、商品、資産クラスを横断的に組み入れ、マクロ環境の変化と不確実性の高まりを乗り越えている。このうち、特にリターンに寄与したのがコモディティの買いと債券の売りで、HFRIマクロ指数の年初来(8月時点)9.3%のリターンなどにつながっている。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equity rally continues on policy pivot optimism”(2022年10月4日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年10月5日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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