日本株式

円安は、日本企業の救世主となるか?

ドル円は9 月上旬に144 円台まで下落し、今年の円の下落率は26%と驚くべき水準となった。理論上は、円安は日本の輸出業者に有利となる。

  • ドル円は9月上旬に144円台まで下落し、今年の円の下落率は26%と驚くべき水準となった。理論上は、円安は日本の輸出業者に有利となる。
  • だが今のところ、日本の輸出企業株価に著しい上昇といった反応はみられない。これは、日本のIT企業が過去にグローバル市場シェアを大きく喪失してきたからなのかもしれない。
  • とはいえ、円安から恩恵を受ける業種もある。例えば日本の自動車メーカーは、直近2年程のサプライチェーン問題の主因となっていた半導体不足をようやく克服しつつあるようだ。中国の自動車工場も、年初のロックダウンに伴う混乱から概ね立ち直っている。

我々の見解

ドル円は9月上旬に144円台まで下落し、今年の円の下落率は26%と驚くべき水準となった。この間、ドル円は主要通貨ペアの中で最もパフォーマンスが悪く、政策当局が口先介入をする事態となった。実際、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢と日銀のハト派姿勢は依然として正反対だ。こうした変動の激しい為替市場がいつ鎮静化するかは不明だが、円は年初の水準よりは米ドルに対して安値圏で推移するものと予想する。

理論上、円安は日本の輸出企業の業績に有利となる。海外売上高は会計上円建て換算して計上されるため、円安は普通、海外売上比率の高い企業の利益を押し上げる。また長期的に見ても、円安の進行で、日本の輸出企業は海外市場で競争力の高い価格設定が可能になる。

だが今のところ、輸出企業の株価に著しい上昇といった反応はみられない(図表1および2)。本稿では、その理由と円安が投資家に与える影響について考察する。

初めに、1980年代以降の重要なトレンドを見ておこう。日本の輸出企業の多くが米国、メキシコ、中国に生産拠点を移した。自動車や主要部品など一部の工業製品は今も国内で生産されているが、日本国内に最終組立工場を構えている企業は少ない。そのため輸出企業が円安から得られる恩恵は過去と比較してやや薄れてきている。また、最近IT製品の生産サイクルが鈍化しており、世界のマクロ経済環境もここ数カ月悪化している。こうした要因から、円安だけで日本企業の利益全体を大きく押し上げるのは難しい。

とはいえ、円安が有利になる業種もある。例えば日本の自動車メーカーは、直近2年程のサプライチェーン問題の主因となっていた半導体不足をようやく克服しつつあるようだ。中国の自動車工場も、年初のロックダウンに伴う混乱から概ね立ち直っている。また、銅、アルミニウム、石炭などの基礎材料価格はピーク時から10%以上下落している。今年上期の製造業の利益は原料費の上昇で抑えられきたが、こうした原料価格の低下は追い風になるだろう。

2つ目の(より重要かもしれない)不確実性は、日本企業は円安の恩恵を受けられるか、だ。つまり、日本企業は海外市場でシェアを拡大できるかということだ。過去10年、携帯電話、PC、薄型テレビなどで日本企業は海外市場シェアを大きく失ってきたが、強い存在感を維持している業種もある。円安はIT企業が大きくシェアを挽回するには不十分だが、自動車や電子部品、特殊化学といった業種では、円安を追い風に日本の輸出企業は地歩を強化できるだろう。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Weaker yen: Boost or bust for Japanese companies?”(2022年9月9日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年9月13日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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