House View Weekly
中央銀行タカ派姿勢が株式市場の重石に
底堅い米国の消費者信頼感と労働市場のひっ迫にもかかわらず、株式市場は3週連続で下落し、S&500種株価指数は先週3.3%低下した。
2022.09.05
今週の要点
中央銀行のタカ派姿勢が株式市場の重石に
底堅い米国の消費者信頼感と労働市場のひっ迫にもかかわらず、株式市場は3週連続で下落し、S&500種株価指数は先週3.3%低下した。
強い経済指標が出ているにもかかわらず株式市場が下落するのは感覚的にそぐわないようにもみえるが、中央銀行の政策転換はまだ先だという追加の証拠として見るならば、この反応もうなずける。
米労務省が発表した7月のJOLT求人件数は、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め策が労働市場の均衡にまだ効いていないことを示した。求人件数は3カ月連続で減少した後で再び増加に転じる一方、失業者1人あたり求人件数は1.98に上昇し、過去最高だった3月の1.99をわずかに下回った。対照的に、8月の非農業部門雇用者数は31万5,000人増と予想をわずかに上回る緩やかな伸びにとどまる一方、賃金上昇率は予想より弱く、2日の株式市場には一時的な安心材料となった。
しかしFRB高官からは、たとえ経済に打撃となるとしても、金融引き締めを推進するとのコメントが相次いだ。パウエルFRB議長のジャクソンホールでの講演を踏襲し、先週は米連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長でニューヨーク連銀のウイリアムズ総裁が、金利を「当面」引締め圏にとどめる必要があると言明した。
欧州中央銀行(ECB)高官も、一段とタカ派姿勢に転じた。オランダ中央銀行のクノット総裁とエストニア中央銀行のミュラー総裁はともに、少なくとも0.75%の利上げを議論すべきだと主張した。発言の後に発表された8月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は、前年同月比9.1%増と記録的な伸びを示した。
要点:金利高止まりの長期化という可能性があることから、年後半はボラティリティ(市場の変動幅)の更なる高まり、企業利益の低下、予想を上回るデフォルト(債務不履行)率というのが我々の基本シナリオだ。株式を厳選し、バリュー株、高クオリティ株、ディフェンシブ株のポジションを高めることを推奨する。
目先は米ドル高に進む可能性が高い
欧州経済の後退懸念が高まっており、ユーロ/米ドルはユーロの流通が始まった2002年以来初めて1米ドル=1ユーロのパリティを割り込んでいる。先週はドル円も、1998年ぶりで1米ドル=140円を突破した。これらを受けて米ドル指数は9月5日に20年ぶりの高値を更新し、2022年は14.5%超上昇している。
目先一段と米ドル高が進む可能性が高く、我々は最近、短期的な米ドル高を織り込み為替予想を修正した。
米ドル高を見込む理由の1つは、FRBのタカ派姿勢が米ドルを下支えすることだ。最近のFRB高官の発言は、年末までにさらに1%の利上げに踏み切り、仮にインフレが予想通り鎮静化しなければ更なる引き締めもあり得るという我々の見方を裏付ける。
2つ目は、エネルギー価格の上昇がユーロに重石となることだ。ロシアは2日、ドイツへの主要パイプライン「ノルドストリーム1」経由の天然ガス供給の停止を決定し、ユーロ圏の景気後退懸念が一段と高まった。米ドル指数に占めるユーロの割合は約57%と大きく、これが広範な米ドル高を後押しする。
3つ目は、中国経済の勢いが予想よりも弱いことだ。中国四川省の省都、成都市の住民2,100万人を対象にしたロックダウン(都市封鎖)は、最近中国政府がゼロコロナ政策を一段と強化していることの現れである。不動産市場の低迷と猛暑による計画停電も経済活動を抑制している。今週初めに米ドル/人民元は2年ぶりに6.90を抜けて上昇し、7.0を上回る可能性も否定できない。9月5日現在、米ドルに対して人民元は6.93で取引されている。
要点:年末のユーロ/米ドル相場を0.96、英ポンド/米ドルを1.12と予想する。また米ドル/人民元は数カ月以内に7.0をつけると予想する。欧州の景気後退やエネルギー価格の上昇が安全通貨とされるスイス・フランに有利に働くため、為替戦略の中ではスイス・フランを引き続き推奨する。
原油価格の下落はファンダメンタルズ(基礎的条件)に裏付けされたものではない
先週は、北海ブレント原油価格が週初の105米ドル/バレルをピークに8%近く下落した。原油価格の下落は、高まる景気後退懸念と、一部の主要産油国で生産制約要因の解消を示す兆候を反映したものと考える。政局混乱の影響を受けていたリビアが40万バレルの増産を行うようになった。OPECプラス全体の生産量は8月に日量69万バレル拡大し、2020年4月(パンデミック発生の初期)以来の高水準に達した。
しかし、原油価格の下落は、世界の需給不均衡を反映したものではないと我々は考える。世界最大の石油輸出国であるサウジアラビアは、6月の直近ピーク以降の北海ブレント原油価格の下落幅に不満を示し、将来の生産への投資が落ち込む可能性を警告した。これは9月5日のOPECプラス会合開催前のことだ。
OPECプラスの生産は、長年にわたる過小投資が足かせとなると我々は考える。増産を行いながらも、石油輸出国機構(OPEC)加盟10カ国の生産量は依然として割当を日量140万バレル下回り、OPECプラス全体の生産量は目標を日量270万バレル下回っている。OPECプラスは、これまでの予想を下方修正しながらも、今年の世界の原油市場について日量40万バレルの供給過多を引き続き見込んでいる。
また、供給サイドでは、経済協力開発機構(OECD)諸国の戦略石油備蓄の放出終了により、11月以降は供給量が日量100万バレル超減少する。
一方、中国の直近の経済成長率が失望を誘う水準となったことで世界の石油需要の見通しは悪化したが、中国経済は今後数カ月は上下動を繰り返しながら回復すると我々は引き続きみている。そのため、世界最大の原油輸入国である中国の需要は拡大すると考える。
要点: 北海ブレント原油価格の年末の水準を125米ドル/バレルと予想する。原油価格の明るい見通しは、我々がエネルギー株を推奨する根拠の1つである。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。