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FRBの政策転換なく、株価下落

26 日のS&P500 種株価指数は、パウエルFRB議長のタカ派発言を受けて3.4%下落した。

何が起きたか?

26日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はジャクソンホール会議(年次経済シンポジウム)での講演で、インフレを抑制するためには「当面」引き締め的な金融政策を維持する必要があるだろうと述べた。この発言を受けて、同日のS&P500種株価指数は3.4%下落した。この議長発言は、7月のインフレ率が前月比で鈍化したことでFRBが来年早々にも利下げに方向転換するだろうとの最近の市場期待をはねのけた。議長は「過去の事例から、性急な金融緩和策に対する強い警戒が示唆される」と述べた。

議長のタカ派発言は、ここ数週間相次いでいる他のFRB高官発言とともに、6月の安値から17%上昇していた米国株式市場に冷や水を浴びせるものだった。26日の下落によりS&P500種株価指数は8月半ばの直近高値を5.8%下回った。また、金利上昇の影響をより受けやすいハイテク株中心のナスダック総合指数が3.9%下落し、今月初旬につけた直近高値を7.5%下回った。

株式市場はパウエル議長の発言を嫌気したが、債券市場はタカ派傾向にある程度備えていたようだ。26日の米国2年国債利回りは、講演後に一時5ベーシスポイント(bp)上昇したが、最終的には2bp上昇の3.39%で引けた。

またフェデラル・ファンド(FF)金利先物は、2023年にもFRBが利下げを始めるとの可能性が低下したことからここ数週間調整していたものの、26日はほとんど動かなかった。FF金利先物は7月中旬まで、早ければ来年3月にもFRBが80bp以上の利下げに踏み切ることを織り込んでいた。現在は、2023年11月から年末までに30bp相当の利下げを織り込んでいる。

為替市場については、米ドル指数はパウエル議長の発言後0.5%未満の緩やかな上昇にとどまった。ユーロの底堅さに対し、オーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドル、ノルウェー・クローネといった景気との連動性の高い通貨が最も大きく下落した。

インフレ反転を示すような7月の好調な経済指標は、このジャクソンホール講演で影が薄れた。パウエル議長の講演直前にFRBが重要視するインフレ指標である個人消費支出(PCE)デフレーターが発表され、7月は前月比0.1%減と予想外に低下した。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPCEの上昇率もわずか0.1%だった。しかしパウエル議長は、「7月のインフレ率の低下は歓迎するが、1カ月の改善では、米連邦公開市場委員会(FOMC)がインフレ率の低下を確信するには程遠い」と述べた。

議長はまた、期待インフレ率の重要性にも言及した。講演と同時刻に発表されたミシガン大学調査による5~10年先の期待インフレ率(確報値)は2.9%と、FRBのPCE目標値と同じだった。

今後の展開

我々は直近のCIOマンスリーレターの中で、投資家は足元のインフレ率による中央銀行の金融引き締め意欲を過小評価し始めていると述べた。パウエル議長の発言に対する市場の反応は、こうした我々の見解と一致するものだ。

我々は、FRBが年末までにさらに1%金利を引き上げ、インフレ率が我々の予想どおりに鈍化しなければそれ以上の引き締めリスクもあり得るとの見方を変えていない。

金利高止まりの長期化が見込まれ、我々の基本シナリオでは、来年は市場のボラティリティはより高まり、企業利益は低下し、デフォルト率は予想より上昇するとみている。パウエル議長が警告するように、「金利上昇、景気減速、労働市場の軟化はインフレ率低下をもたらすであろうが、それらは同時に家計と企業に痛みももたらすだろう」。 我々は、2023年6月のS&P500種株価指数の予想を4,200ポイント(26日の終値は4,057ポイント)、米10年国債利回りを2.75%(現在3.03%)とみている。一方、インフレ、エネルギー価格、ウクライナ紛争、中国の経済政策など多岐にわたり不確実性が依然として高いため、投資家にはシナリオ悪化リスクに警戒を怠らないよう勧める。株式市場では銘柄を選別して投資することが重要だ。

このように不確実性は高いものの、長期リターンに注力しつつ、起こり得るさまざまな不測の事態にポートフォリオを備えるために投資家ができることは数多くある。待ちの姿勢を取ることによる機会費用を考慮した方が良いだろう。

投資見解

足元の投資環境では、以下のような厳選アプローチを推奨する。

バリュー株式への投資。消費者物価指数(CPI)は当面FRBの目標を上回って推移すると予想する。高インフレの時期にはバリュー株がグロース株をアウトパフォームしており、2022年も今のところその傾向を示している。我々は、グローバル・バリュー株式と、バリュー株比率の高い英国株式市場を推奨する。また、エネルギー株は、原油価格の再上昇に加えて自社株買いの増加と魅力的な配当が追い風になると予想する。

ディフェンシブ銘柄とクオリティ銘柄の追加。米国経済が潜在成長率を下回る可能性があり、ユーロ圏と英国が景気後退入りしそうな状況下、投資家はディフェンシブ株式、高格付債、スイス・フランへのエクスポージャーの追加を検討すると良いだろう。ヘルスケア・セクターは魅力的な長期成長機会、高い株主リターン、適正価格でディフェンシブな特性を備えているため、引き続き推奨する。また、生活必需品も勧める。生活必需品セクターは伝統的に景気後退への耐性が強く、ISM景気指数などの先行指標が悪化するときに市場全体をアウトパフォームする傾向にある。

ボラティリティの利用。FRBはインフレを抑制するために経済的な痛みを厭わない姿勢を打ち出しており、市場のボラティリティが今後さらに高まる可能性がある。資産の保全と機動的なアセット・アロケーションはよりディフェンシブなポジションを構築する優れた手法だとみている。また、通貨、コモディティ、株式市場のボラティリティが上昇する中で、リターンを生み出す好機があると捉える。

長期グロース株への選別的な投資。 グロース株は依然としてインフレおよび金利見通しの変化に大きく左右されるため、現段階では選別的投資を勧める。我々は最近、廃棄物の管理と回収(リサイクル)、プラスチック(削減)、サービスとしての再販(リユース)への投資機会を取り上げる「サーキュラーエコノミー(循環経済)」に注目した新たな投資テーマを開始した。「サーキュラリティ(循環性)」を重視する企業は、規制変更や消費者の嗜好変化、資源枯渇およびコスト圧力、技術革新による追い風を享受しよう。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equities fall on no Fed pivot”(2022年8月28日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年8月29日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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