日本株式

業績堅調も先行きの伸びは緩やかに

2022年4-6月期の企業業績は、輸出企業が円安の恩恵を受けるなど予想以上に好調だった。純利益は前年同期比9%と急伸し、日経平均株価は7カ月ぶりに2万9,000円台をつけた。

  • 2022年4-6月期の企業業績は、輸出企業が円安の恩恵を受けるなど予想以上に好調だった。純利益は前年同期比9%増と急伸し、日経平均株価は7カ月ぶりに2万9,000円台をつけた。
  • 我々は、日経平均株価が適正水準に近づいているとみており、新たなカタリスト(材料)で一株当たり利益(EPS)見通しが上昇しない限り、今後数カ月はレンジ内の取引を予想する。投資家には銘柄を慎重に選別するよう推奨する。
  • 自社株買いを実施している優良銘柄、経済活動再開の恩恵を受ける銘柄を推奨する。

我々の見解

2022年4-6月期の企業業績は、輸出企業が円安の恩恵を受けるなど予想以上に好調だった。純利益は前年同期比9%増と急伸し、8月19日の日経平均株価は7カ月ぶりに2万9,000円台をつけた。

今年上期に底打ちして以来、日経平均株価はMSCIワールド指数をアウトパフォームしている(図表1参照)。以下の3つの要因が日本の株式市場を支えていると考える。第1は円安だ。日本円は今年に入ってから対米ドルで15%以上下落している。円安は輸入企業のコスト増要因となるものの、企業全体としては利益を底上げしている。

第2の要因は、自社株買いの増加である(詳しくは、7月26日付日本株式レポート「日本企業の自社株買いの一方で、海外投資家は日本株を売り越し」を参照されたい)。日本の(国内)機関投資家は、これまでとは異なり、本業外の資産や業務を減らすか、或いは自社株買いを行い、自己資本利益率を引き上げるよう日本企業に圧力を強めている。「コーポレートガバナンス・コード」(2015年導入、2018年/2021年改定)と「スチュワードシップ・コード」(「責任ある機関投資家」の諸原則:2014年導入、2017年/2020年改定)を背景に、企業の株主重視傾向が強まり、その結果配当と自社株買いが増加した。年初来、企業による自社株買いは、パンデミックや非常用キャッシュ確保の必要性への懸念が薄れて活発化し、海外投資家の売り分を吸収している(図表2参照)。以上から、投資テーマ「日本のコーポレートガバナンスが株主リターンを向上させる」を引き続き推奨する。

第3の要因は、日本の経済活動再開の遅れだ。欧米諸国と比較して、日本の経済活動再開はかなり遅れている。欧米諸国は既に出入国や渡航手続きをほぼ正常化させているが、日本(および多くのアジア諸国)ではようやく再開されたばかりである。2022年初頭にオミクロン株が急拡大し、主要都市では緩やかな行動制限措置が講じられた。3月下旬に行動制限が解除されて以降、感染者数は拡大しているが新たな規制は導入されていない。現時点では、外国からの訪問者数は1日当たり2万人と制限され、入国には長時間の承認手続きが義務づけられている。次のステップは制限の緩和になるだろう。詳しくは、日本株式レポート「日本の正常化に備える」を参照いただきたい。

株価バリュエーションと見通し

日経平均株価は現在、12カ月先行EPSベースで15~16倍と、10年平均の17倍を若干下回っている。7-9月期の企業業績が発表されるまでは2万8,000~2万9,000円の範囲内で推移するだろう。12カ月先行EPSはここ3カ月間横ばいに推移しており(図表3参照)、この傾向は年末まで続く可能性がある。したがって、今後2~3カ月は企業業績が株価上昇をけん引する可能性は低い。さらに、日経平均は現在、12カ月先行EPSに接近している。このことは、日経平均が適正水準に近づいており、市場がここからさらに上向くには新たな材料が必要ということを意味している。以上から、我々は現在の市場バリュエーションは適正水準にあると判断し、TOPIX(東証株価指数)2,000ポイント、日経平均2万9,000円という基本シナリオを維持する。

市場全体が適正水準にあるとみられることから、投資家は慎重に銘柄選択をする必要がある。我々の日本株推奨リスト(EPL)には、今後1年で独自のカタリスト(好材料)が期待できる銘柄複数が含まれている。その一例が大手化学企業だ。同社は米系航空宇宙機器開発製造会社用の炭素繊維の主要サプライヤーである。米系航空宇宙機器開発製造会社は、米連邦航空局の最終承認を受け、次世代長距離用中型ワイドボディ機製造をちょうど再開したところである。大手自動車・二輪車メーカーも、インドの景気回復の恩恵を受けやすいポジションにいる。同国自動車市場の約50%のシェアを占めているからだ。インドの製造工場は新型コロナの被害を受けたものの、通常操業を再開している。大手航空会社も、新型コロナからの景気回復の恩恵を受けるだろう。

リスク

円安は日本企業の利益を押し上げると考える。日本の上場企業の多くが、海外事業で得た利益を円換算すれば利益を得られるからだ。その一方で、円安は石油や天然ガスをはじめ多くの工業原料の輸入コストを引き上げるので、消費に打撃を与える可能性がある。さらに、ロシアから欧州への天然ガス供給が減少すると、欧州に工場を構える大手化学企業など日本企業の業務が被害を受ける可能性もある。

ここから来年にかけては、中国経済も問題になるかもしれない。中国政府は国内の景気回復を支援しようとしている。それが日本企業に、ひいては日本の株式市場にどのような影響を及ぼすか、現時点では不透明であり、判断には時間と状況の明確化が必要である。


本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Slower growth ahead despite solid results”(2022年8月23日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年8月26日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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