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グロース株主導で株価下落

22日の株式市場は、今週開かれるジャクソンホール会議を前に、投資家が引き続き米連邦準備理事会のタカ派シグナルに反応したため下落した。

何が起きたか?

22日の株式市場は、今週開かれるジャクソンホール会議(年次経済シンポジウム)を前に、投資家が引き続き米連邦準備理事会(FRB)のタカ派シグナルに反応したため下落した。S&P500種株価指数は、一般消費財、通信サービス、ITセクターが主導で2.1%下落する一方、米国債利回りはFRBのタカ派色の高まりを受けて上昇した。テクノロジー株の比率が高いナスダック総合指数は2.6%下落した。同指数は6月安値から20%超上昇した後、この1週間で6%ほど下げた。

米10年国債利回りは19日に9ベーシスポイント(bp)急騰したが、22日もさらに5bp上昇して3.03%となり、7月後半以降で最も高い水準となった。これで今月に入って40bp上昇したことになる。2年債利回りも8bp上昇して3.31%となった。

欧州への天然ガス供給懸念が再燃し、ユーロストックス50指数が1.9%下落した。ロシアがパイプライン「ノルドストリーム1」を経由したドイツに対する天然ガス供給を、8月31日から3日間停止するとのニュースを受けて、欧州天然ガス先物の指標価格である「オランダTTF」は約20%上昇し、1メガワット時当たり290ユーロに急騰した。天然ガスの供給量は、前回の保守期間後に最大供給能力の2割まですでに削減されている。

地政学的懸念に加えて、旧ソ連からの31回目の独立記念日でありロシアのウクライナ侵攻から半年となる8月24日を前に、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの軍事攻撃の激化の可能性を警告した。

22日アジア時間では、中国のCSI300指数が0.7%上昇した。中国人民銀行が苦境に陥っている不動産セクター支援を強化するために、最優遇貸出金利(プライムローン金利)の引き下げを発表したことが好感された。

投資家のリスクオフの動きを受けて、22日の米ドル指数は0.7%上昇し、ユーロ/米ドルは1ユーロ=1米ドルのパリティを割り込んだ。ブレント原油先物が1バレル当たり93米ドルを下回ったことを契機に、サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相が「極端な」市場変動について懸念を表明。原油先物価格がファンダメンタルズ(基礎的条件)から逸脱していると指摘し、「OPEC(石油輸出国機構)プラスは、減産を含む、いつでもどんな形式でも市場の問題に対処する手段をもっている」と発言した。

今後の展開

7月の消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことや非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったことなどを受けて経済の「ソフトランディング」シナリオに対する自信が高まったことなどから、8月16日時点のS&P500種株価指数は6月安値を17%上回っていた。堅調な7月の小売売上高や鉱工業生産など、その他経済指標は米国経済の底堅さを示す内容だった。7月の実質賃金の対前月比伸び率はプラスとなり、8月以降も再びプラスが見込まれ、実質消費を下支えする。これは経済成長とインフレにとって支援材料ではあるが、市場はソフトランディングを織り込むなど楽観的になり過ぎているようだ。インフレ率の低下も、FRBの「タカ派政策はピーク」を過ぎたとの期待感を高めた。

だが、こうした楽観論は後退し、再び利回りが上昇している。我々は、高すぎるインフレ率と労働市場のひっ迫から、FRBが経済成長にブレーキをかけ景気を冷やすために金融引き締めを継続するとの見方を崩していない。インフレ率がFRBの目標である2%に再び向かうとの明確かつ説得力のある証拠がない限り、FRBの政策転換を期待するのは時期尚早だ。むしろ、17日に公表された前回の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨からは、政策当局が利上げサイクルの停止を検討している兆候は見られなかった。また、リッチモンド連銀のバーキン総裁は19日、たとえ景気後退に陥ったとしてもインフレを抑制しなければならないとの認識を示した。今週後半は、政策当局のスタンスについて更なる手がかりを求めて、25~27日に開催されるジャクソンホール会議、とりわけパウエル議長の講演に市場の注目が集まるだろう。

FRBが利上げサイクルを中断するには、個人消費支出(PCE)の伸び率が3カ月連続で対前月比0.2%以内にとどまることが最低限の要件になるとみている。我々は引き続き年末までに1%の追加利上げが行われると見込むとともに、インフレが想定どおり鎮静化しない場合にはさらなる利上げのリスクもあると予想する。

世界的に、経済成長への懸念は続くだろう。欧州では深刻化しているエネルギー危機が景気後退リスクを高める。中国では直近の経済指標は想定よりも弱く、さらなる景気刺激策が繰り出されるだろうが、景気回復への道のりは険しいだろう。

投資見解

投資家心理は、FRBが経済の「ソフトランディング」の誘導に成功することへの期待感と成功しないことへの不安感との間で揺れ動いている。そうしたなか、株式市場は変動の大きな展開が続くものと予想する。我々はこれまでも株式への選別的投資を推奨してきたが、このアプローチはまさにこうした状況に適した戦略であると考える。

現況下、様々なシナリオ下で底堅いパフォーマンスが望める強固なポートフォリオの構築に向け、以下のアプローチを勧める。

1つ目は、ポートフォリオの耐性を強化するため、ディフェンシブな資産の保有を高めることだ。株式ではヘルスケア・セクターと高クオリティの高配当銘柄を推奨する。また、債券では一部の高格付債、通貨ではスイス・フランを推奨する。一部のヘッジファンド戦略も、ポートフォリオをボラティリティ(市場変動)から保護するのに寄与するだろう。

2つ目に、インフレ率が高止まりする中では、グロース株よりも世界のエネルギー関連株や英国市場などのバリュー株を引き続き推奨する。最近はグロース株がバリュー株をアウトパフォームしてきたが、その傾向はここ数日で反転しており、テクノロジー株の上値を追うことは勧めない。グロース株が反転した機会をとらえてテクノロジー株の既存ポジションを減らし、より耐性のあるセグメントや長期的な投資テーマに乗り換えることを勧める。

3つ目に、長期トレンドである「セキュリティの新時代」に関するポジションを取り入れることを勧める。ウクライナ紛争を機に企業と政府はエネルギー、データ、食料分野の安全保障の強化を加速させ、その結果グリーンテック、サイバーセキュリティ、農業生産性向上への需要が高まるとみている。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Growth stocks lead equities lower”(2022年8月22日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年8月23日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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