日本株式
日本企業の自社株買いの一方で、海外投資家は日本株を売り越し
2022年上期の日本株式市場は、海外投資家が2.3兆円を売り越す展開となったが、日経平均株価はMSCIワールド指数をアウトパフォームした。
2022.07.26
- 2022年上期(1-6月期)の日本株式市場は、海外投資家が2.3兆円を売り越す展開となった。しかし、日経平均株価はMSCIワールド指数をアウトパフォームした。
- これは、経済再開が世界的に進む中、潤沢な手元資金を保有する日本の優良企業がその資金で自社株買いを行ったためだ。
- 日本株式市場は、当面狭いレンジで推移すると予想する。しかし、不確実性と変動性が高いこの新時代において、配当と自社株買いはパフォーマンスを安定化させる役割を担い、また日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の向上を表象するものであると考える。
我々の見解
2022年上期は、日経平均株価がS&P500種株価指数とMSCIワールド指数をアウトパフォームした(図表1参照)。通常日本の輸出企業の利益は円安局面で拡大するが、今回のアウトパフォーマンスは、円安により海外投資家が日本株投資を積極的に行ったためではない。反対に、海外投資家は上期中、日本株を2.3兆円売り越している。日本株式市場を支えたのは、優良企業が2020年と2021年を大きく上回る水準の自社株買いを行ったことだ(図表2、3参照)。経済の再開が進む中、足元で日本企業は手元の余剰資金が潤沢となり、その資金を使って自社株買いを行っているとみている。
TOPIX 500構成企業は、今年上期に1.86兆円規模の自社株買いを行った。我々の推定によると、これは日本の優良企業が年2.4%の配当利回りに加えて時価総額の3.8%(年間ベース)に相当する規模の自社株買いを行ったことになる。日本企業は株主重視の姿勢を強めていると考える。これは、特に余剰資金と持ち合い株を削減し、配当と自社株買いを増やしている企業について言える。こうした企業行動は当面の株価を下支えするものであり、最終的には企業の自己資本利益率(ROE)の向上につながると考える。
また、2015年に導入(その後2018年、2021年に改訂)されたコーポレートガバナンス・コードの下、日本企業は株主還元を強化してきており、株主重視の姿勢の強い企業が他社をアウトパフォームしているとみている。
図表4は、自社株買いを行ってきた日本企業は年初以降のパフォーマンスが好調であることを示している。2020年と2021年は新型コロナのパンデミック下で異例の年となったが、日本企業は自己資本利益率(ROE)を高め、配当と自社株買いのかたちで株主還元を行う用意がある。日本株式市場は当面狭いレンジで推移すると予想する。しかし、不確実性と変動性が高いこの新時代において、配当と自社株買いはパフォーマンスを安定化させる役割を担い、また日本企業のコーポレートガバナンスの向上を表象するものであると考える。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド
居林 通
さらに詳しく
2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。