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消費者信頼感指数の悪化受け株価続落

28日のS&P500種株価指数は2.01%下落して、先週の上昇分6.5%の一部を帳消しにした。インフレの高止まりが消費支出と経済成長を抑制するとの懸念が影響した。

何が起きたか?

28日のS&P500種株価指数は2.01%下落して、先週の上昇分6.5%の一部を帳消しにした。インフレの高止まりが消費支出と経済成長を抑制するとの懸念が影響した。

コンファレンスボードが28日発表した6月の消費者信頼感指数は予想以上に低下し、特に期待指数は66.4と、2013年以来最も低い水準となった。コンファレンスボードは、期待指数の大幅急落は今年後半に経済成長が鈍化し、年末までに景気後退入りするリスクが高まっていることを示唆していると指摘した。先週発表された6月のミシガン大学消費者信頼感指数も過去最低だった。こうした調査結果はバイデン政権の政策運営への不満も影響していると考えられるが、他の経済指標とも整合する内容だ。5月の小売売上高は5カ月ぶりに前月比で減少し、高インフレを受けた消費者の買い控えが示唆されている。

米国の製造業動向に関する経済指標も下振れている。6月のリッチモンド連銀製造業景況指数は2カ月連続で低下して2020年5月以来で最低となり、米国の大西洋岸中部地区の製造活動が落ち込んでいることを示唆した。

債券市場は引き続き景気減速懸念を織り込んでいる。米10年国債と2年国債の利回り格差は1ベーシスポイント(bp)縮小して7bpに狭まった。10年債と2年債の利回りについては、過去数カ月の間に景気後退の兆候と見なされる逆イールド現象が何度か発生している。3年債、5年債、7年債の利回りはいずれも10年国債利回りよりも高い。これは市場がインフレのピークと7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での75bpの利上げを予想しているため、将来の期待インフレ率(10年ブレークイーブン・インフレ率)が2.47%に低下し10年債利回りを抑えているためだ。30日に発表される個人消費支出(PCE)や7月1日のISM製造業景況指数から、今後の動向を探る手掛かりが得られるだろう。

最後に、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の対立は引き続き注視する必要がある。NATOのストルテンベルグ事務総長は、スウェーデンとフィンランドの加盟に難色を示していたトルコが一転、両国のNATO加盟を支持することで合意したと発表した。一方、今週開催されていたG7サミットでは、ロシア産原油に「価格上限」を設定する方法を検討する方針が打ち出された。

今後の展開

インフレ見通し、景気後退懸念、くすぶる政治的緊張など、足元の不確実要因を踏まえると、ボラティリティの高い状況が当面続くと予想される。インフレのピークアウトを市場が明確に確信するまでは、市場センチメントの持続的な改善は見込みにくい。米株式市場の期待ボラティリティを示すVIX指数は27日序盤に一時26.6まで低下したものの、28日には再び28.4まで上昇した。これはS&P500種の約1.8%程度の日中変動率に合致する。この水準でも6月中旬に付けたピーク(約34)をなお下回っている。

市場では先週、FRBの利上げペースの織り込みが後退したが、フェデラル・ファンド(FF)金利先物は依然2022年中に合計約335bpの利上げ実施を織り込む水準にある。これは、4月初旬の予想を100bp近く上回っている。FRBの最近の声明文でもタカ派姿勢が明確に示された。パウエルFRB議長は先週、インフレがさらに予想外に進む可能性は残されており、FRBは(インフレ指標の結果に)機敏に対応する必要があると発言。必要に応じて利上げを加速する可能性を示唆した。さらに、インフレが減速しても、FRBが利上げ停止の検討に入るには労働市場の需給緩和が確認される必要があるだろう。

景気の先行きについては、我々は依然ソフトランディング(軟着陸)を基本シナリオとして想定しているが(S&P500種の年末時予想水準は3,900)、主要米株式指数の上昇余地は、成長減速と債券利回り上昇により縮小している。景気がさらに急減速した場合は、米国の企業業績は15%程度低下すると予想する。これは過去の景気後退時の平均水準と同程度であり、この場合のS&P500種の年末時水準は3,300程度と予想する。

投資見解
足元で不確実性が高まっていることから、特定の1つのシナリオに注目してポジションを構築する戦略は賢明ではないと考える。様々なシナリオ下でも下値抵抗力(レジリエンス)を発揮するようポートフォリオを調整することが重要である。具体的には次のような投資行動を勧める。

バリュー株の積み増しを検討する。インフレは今年後半には鈍化に向かうと見込んでいるが、当面は3%程度と中央銀行の目標を上回る水準が続くと予想する。1975年からの実績を分析すると、インフレ率が3%を上回る状況ではバリュー・セクターはグロース・セクターをアウトパフォームする傾向が示されている。基本シナリオである「ソフトランディング」下においてはバリュー・セクターが特に堅調に推移すると考える。企業業績の底堅さが確認されれば、金融やエネルギーなど景気感応度の高いバリュー・セクターの下支え要因になるからだ。また、バリュー・セクターの比率が高い英国市場も有望とみる。

ディフェンシブ銘柄とクオリティ銘柄を組み入れ、さらにボラティリティを利用する。経済指標の軟化が企業業績見通しを圧迫し、さらなる株価の下落を招く「スランプ」状況に陥る可能性に備えてディフェンスを強化するため、クオリティの高い高配当銘柄、ヘルスケア・セクター、下値抵抗力(レジリエンス)の高い社債、スイス・フランを組み入れることを勧める。また、元本確保戦略を利用することで、ボラティリティを利用した利益獲得と同時に、株価下落局面では想定されるリスクの軽減が期待できる。

Liquidity(流動性)戦略*を活用し、オルタナティブ(代替資産)で分散投資を図る。強固なポートフォリオを築くための基盤として、強制売りのリスクを軽減し、利回りを獲得し、将来的な投資機会に備えるために今後3~5年で必要となる支出ニーズを賄う資金を確保するLiquidity(流動性)戦略ポートフォリオを構築することを勧める。現金・現金等価物、短期債などがこの戦略の投資対象となる。また、債券と株式の相関が高い足元の環境下では、債券・株式ともに下落した場合でも良好なパフォーマンスが期待できるヘッジファンドを一部組み入れることも勧める。

*時間軸は様々です。戦略はお客様の目標・目的と適合性によって変わります。このアプローチは、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。


本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Market rebound loses momentum”(2022年6月28日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年6月29日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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