Monthly Letter 6月号

上手くいっていること

米国の株と債券は、この半世紀で最悪の年初5カ月を経験しており、現時点では金融市場では何も上手くいっていないと言いたくなるかもしれない。しかし、今年に入ってから、我々が見極めたトレンドの多くが実現しており、我々の投資判断は、相対的にも絶対的にも好調な成果を挙げている。

今日の市場にとっての重要な問いは、FRBがプラスの経済成長率を維持しながら、インフレ率を目標水準まで引き下げられるのかという問題だ。

これを達成することは容易ではない。FRBの政策担当者が、米国経済の強さを過小評価すると、インフレ率が目標を上回る期間が長期化することになる。過大評価していると、景気後退に直面する。そして我々はどの道を進んでいるのか、確信を持って知る術がないのだ。

同時に、ウクライナ紛争の継続とともにコモディティ市場が逼迫し、不透明感は一段と高まっている。世界中の国々が穀物と燃料の供給確保に取り組んでいる。中国のロックダウン政策も、世界のサプライチェーンと需要に対する懸念を助長している。

今年に入り、株式市場と債券市場は予想される結果への不安から大きく変動しており、逃げ場がほとんどなくなってきている。

では、どうすればいいのか。

第1に、さらなるボラティリティ拡大に備えることだ。新しい経済データが出るたびに、それがどんなに小さなことでも市場の期待が変化することによる相場の大幅な変動は避けられない。投資家には、それぞれの資産形成の目標達成のためにWealth Way1の考え方に基づいたLiquidity戦略(流動性戦略)の構築を勧める。ドローダウン(大幅下落)に対処できるような戦略を検討することもできる。

第2に、バリュー株への投資を検討すること。我々は、景気後退よりも高インフレ率継続の可能性の方が高いと考えている。実際、過去を振り返ると、インフレ率が3%を上回る環境下ではバリュー株がアウトパフォームしてきた。我々はグロース株よりもバリュー株を推奨し、高クオリティ銘柄とエネルギー株を重視する。ボトムアップの観点からみた世界のバリュー株としては、英国やオーストラリアの保有を増やしている。

グロース株の急落は買いの好機なのかという質問を多くの投資家から受けるようになった。数年先を見据えている投資家に対しては、「我々の長期投資テーマは、景気変動を越えて高パフォーマンスを実現できる」とのスタンスを維持している。とはいえ、現時点では、グロース株とバリュー株のバリュエーション・ギャップがさらに縮小するまでは、グロース株はバリュー株をアンダーパフォームすると予想している。したがって、投資期間が1年未満の投資家は、長期グロース株の選別を強めることを勧める。短期的には、高インフレ率が家計に及ぼす影響を考慮し、個人消費関連の銘柄への慎重姿勢を強めており、したがって一般消費財セクターは推奨しない。

第3に、ポートフォリオのヘッジを強化すること。我々はここしばらく、高クオリティ銘柄、高配当銘柄、およびヘルスケア銘柄を推奨してきた。いずれも景気後退時にアウトパフォームし、ポートフォリオの変動を抑えるのに寄与する可能性が高い。通貨では米ドルを推奨してきたが、現在はFRBによる利上げサイクルの大半を織り込み済みと考える。低金利およびマイナス金利が数年続いたため、債券の一部は、景気後退シナリオでポートフォリオに耐性を与えるとみている。資産配分比率が目標を下回っている投資家は、最近の急落局面を、ほとんど「忘れ去られた」資産クラスへの投資機会として活用するのが得策と思われる。

第4に、セキュリティの新時代に備えたポジションを構築すること。ウクライナ紛争が続く中で、政府と企業は、エネルギー、サイバー、国防、食料供給などの面で、セキュリティ(安全保障)の新時代への適応を進めている。短期的には、食料安全保障とエネルギー安全保障に注目が集まった結果、さまざまなコモディティ市場が逼迫している。この動きは今後数カ月間の原材料価格の上昇を支えるだろう。長期的には、この新時代には脱炭素、サイバーセキュリティ、農産物の収穫量拡大などの需要が高まるとみている。

第5に、オルタナティブ資産で分散投資を図ること。どのようなシナリオが実現してもポートフォリオの質の向上に役立つような投資資産は多くない。だが、オルタナティブ資産への分散投資はその1つかもしれない。インフラストラクチャー、不動産、プライベート市場などは、ポートフォリオのインフレ耐性を高められる一方、ヘッジファンド戦略の中には、景気後退シナリオで優れたパフォーマンスを上げ、株式と債券の相関性が高まった場合にはポートフォリオのボラティリティの軽減に寄与できるものもある。

ノイズの中のシグナル

米国の株式と債券市場は、この半世紀で最悪の年初5カ月を経験しているため、現時点では金融市場では何も上手くいっていないと言いたくなるかもしれない(図表1参照)。

S&P500種株価指数は年初来で17%下落と、年初来5カ月間のパフォーマンスとしては、1970年以来で最悪となっている。一方、ブルームバーグ米国債券指数の年初来トータルリターンは、1973年の設定以来最低の-7.9%を記録している。ウクライナ紛争、40年ぶりの高水準にある米国のインフレ率、FRBの利上げに伴う景気後退懸念、これらすべてが今回の下落の要因となっている。

しかし、こうした混沌の中にあっても貫かれた見方が1つある。「Year Ahead 2022:新時代のディスカバリー」の中で、我々は「(2022年は)前半と後半で景色が変わる」と指摘した。つまり、前半では力強い成長と高インフレ率が、そして後半には成長率が弱まりインフレ率も後退すると予想したのである。今年に入ってから、数多くのノイズと予想外の出来事が起きる中で、我々が見極めたトレンドの多くが実現しており、我々の投資判断は、相対的にも絶対的にも好調な成果を挙げている。

1 UBS Wealth Wayは、お客様がクライアント・アドバイザー(お客様担当)とともに、様々な時間軸において、それぞれのニーズと目標を明確にし、実現する上での指針となるLiquidity. Longevity.Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)を組み入れた考え方です。この考え方は、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。すべての投資商品は、元本の全額を失うリスクを含む損失リスクを伴います。

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本稿はUBS AGが作成した“Monthly Letter: What’s working?”(2022年5月26日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年6月1日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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