House View Weekly

景気後退懸念で逆イールド発生

債券市場では米2年国債利回りが10年国債利回りを上回る逆イールドの状態が発生しており、景気に対する悲観論が高まっていることを示唆している。

今週の要点

債券市場は景気後退懸念が高まっていることを示唆

債券市場では、米2年国債利回りが10年国債利回りを上回る逆イールドの状態が発生しており、景気に対する悲観論が高まっていることを示唆している。米国における過去10回の景気後退前には、こうした逆イールドが毎回発生してきた。米連邦準備理事会(FRB)による急ピッチの連続利上げ観測やウクライナ危機による混乱の中、景気後退リスクが高まっていると我々はみている。

とはいえ、景気後退が避けられないとの見方はまだしていない。今回の逆イールドは経済活動が強い中で発生しているからだ。米国の雇用の伸びは依然として堅調であり、3月の非農業部門雇用者数は43.1万人に増加し、失業率は2月の3.8%からパンデミック以降で最低となる3.6%へと低下した。

過去を振り返ってみると、逆イールドが発生してから景気後退に陥るまでには時間差があるうえ、その期間もまちまちである。逆イールドが発生してから景気後退に陥るまでの期間は平均では21カ月だが、その期間は9カ月から34カ月と幅がある。

また、逆イールドは株式投資家に対する売りシグナルではない。1976年以降、2年債と10年債の利回りが逆転して以降の12カ月間のS&P500種株価指数の平均リターンは14%だった。

また、こうした逆イールドが、FRBによる債券購入によってもたらされた誤った警戒シグナルである可能性も指摘しておきたい。FRBの債券購入により長期債の利回りが抑えられた結果、逆イールドが発生しやすくなったということだ。

要点:FRBは経済のソフトランディング(軟着陸)という極めて難しい課題に直面しているが、FRBは1965年、1984年、1994年もその難局を乗り越えてきた。したがって再びその可能性がないと判断するのは時期尚早だ。投資家には過剰反応せず、長期成長が見込めるバリュー領域に注目しつつ、金利上昇に備えることを勧める。

株式市場の反発後も厳選投資を継続

債券市場はリスク上昇を示唆しているが、株式市場の方は楽観的だ。4月1日時点で、S&P500種株価指数は3月8日につけた年初来安値を9%上回り、過去最高値まであと5%の水準にある。

最近の株価上昇は、ロシアとウクライナの停戦交渉に対する慎重ながらも楽観的な観測を一部反映したものだ。ただし、先週後半には両国の論調が悲観的なものとなり、紛争が引き続き経済成長と企業業績の見通しに重くのしかかっている。最近の不確実性を受けて、我々は今年のグローバル企業の増益見通しを8%(従来は10%)、2023年については5%(同7%)に下方修正した。また、株式市場全体の上昇を捉えるのではなく、銘柄を厳選することを引き続き推奨する。

こうした背景から、現在我々の基本シナリオでは株式の上昇見込みは小幅にとどめ、S&P500種株価指数の年末の水準を、足元より4%高い4,700ポイントと予想する。また、ボラティリティ(市場の変動率)と不確実性が高い時期は、長期的な観点から株式の価値を見いだすタイミングであることが多いことにも注目している。

要点:現在、一部の売られ過ぎた銘柄や、第5世代移動通信システム(5G)、オートメーション、ロボティクス、スマート・モビリティ、コンシューマーエクスペリエンスといったテーマに長期的価値が浮上しつつある。また、中国株式のポジションが我々の戦略的資産配分を下回っている投資家には、中国市場に分散投資を行う機会であると考える。中国市場は割安で、売られ過ぎであり、年後半にかけて景気回復が鮮明になってくる可能性が高いと考える。

欧州の天然ガス確保に向けた緊急計画の始動は、安全保障時代の到来を示唆

ロシア産原油の供給懸念が高まる中、ドイツとオーストリアは天然ガスの供給確保に向けて緊急計画を始動した。オーストリア政府は、今後数週間でロシアからの天然ガス供給が急減する恐れがあると警告している。ロシア・ウクライナ情勢による経済的影響も欧州の経済指標に徐々に表れてきており、3月のユーロ圏の消費者物価指数(CPI)は前年同月比7.5%と過去最大の上昇率を記録した。

最近のこうした動きは、改めてエネルギー安全保障への注目が高まっていることの一環といえるだろう。各国がエネルギー供給元の多様化を進め、外部エネルギーへの依存度を引き下げようとしている。これは炭素排出量ネットゼロ経済への移行という目的にも適っている。再生可能エネルギーは国内で生産できるからだ。

だが、我々はより幅広い安全保障不安の時代に突入しており、投資家にはエネルギーだけでなく、食料、データ、防衛、サイバーセキュリティなどの各安全保障分野にも目を向けることを勧める。

ロシアのウクライナ侵攻後の食料価格の上昇は、長期的な農業生産性の改善ニーズを浮き彫りにしている。またロシア・ウクライナ戦争は物理的な兵器による戦闘に加えデジタル戦争の様相も呈しており、これがサイバーセキュリティ投資をさらに誘発すると予想する。加えて、冷戦後の軍事費削減に伴う平和の配当(国防費を削減し、その分を教育や研究開発費に充てること)は、今後数年間は一転減少し、軍事予算が拡張するとみている。

要点:国際社会の不信という新たな環境では、政府と企業は、効率性や価格よりも安全保障と安定性にますます重きを置く可能性がある。投資家にはこの新たな現実に備えることを勧める。

深読み

景気後退懸念で逆イールド発生

株式市場は引き続き回復傾向を辿った。先週末のMSCIオール・カントリー・ワールド指数はロシアのウクライナ侵攻直前の水準を3.5%上回った。4月1日時点で、S&P500種株価指数は3月上旬につけた今年の安値から9%上昇し、過去最高値まであと5%の水準まで回復した。ユーロストックス50指数は急反発し、同期間に11.8%上昇した。

一方で、債券市場は景気に対する悲観的な見方を織り込む動きが続いた。

先週は、一般に景気後退の予兆とされる逆イールド(長短金利差の逆転)が米国2年/10年国債間で発生した。ちょうど1年前、双方の利回り格差は日中のピークとなる162ベーシスポイント(bp)をつけている。多くの投資家は過去10回の景気後退の前に2年/10年国債で逆イールドが発生していることに注目している。逆イールド現象は、2年/30年国債、5年/30年国債など他の年限間でもみられた。

米連邦準備理事会(FRB)の急ピッチの連続利上げ観測やロシア・ウクライナ情勢による混乱が広がる中、突然の景気減速または景気後退のリスクが高まっていると我々はみている。

しかし、景気後退は不可避との見方は行き過ぎとみている。またイールドカーブ(利回り曲線)の解釈はサイエンス(定量的判断)というよりもアート(定性的判断)であると考える。

米国の経済指標は、労働市場その他の領域が堅調であることを引き続き示唆している。3月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比43.1万人増となり、1月・2月分は合計で9.5万人上方修正された。その結果、1-3月期の就業者数の伸びは170万人近くに達し、月平均で約56.2万人増となった。3月の失業率は2月の3.8%から3.6%に低下し、労働参加率は62.4%に若干上昇した。いずれもパンデミック発生以来最も良好な数値となった。平均時給は前月比0.4%増、前年同月比5.6%増と堅調な伸びを示した。さらに広くみると、アトランタ連銀が最新の経済指標を元に推計する国内総生産(GDP)成長率のリアルタイム予測「GDPナウ」は、過去数週間の経済活動が上向いていることを示唆している。

逆イールド発生から景気後退開始までの時間差は長く、ばらつきも大きい。米国の直近過去10回の逆イールド局面のうち3回は、その後2年以内に景気後退が発生していない。逆イールド発生後に景気後退が始まった事例でも、その時間差はまちまちである。景気後退は逆イールド発生から平均すると21カ月後に始まっているが、開始までの期間は9~34カ月とばらつきが大きい。また、景気後退の予兆としてどの年限が最も的確であるかは不明確であり、投資家が不必要に景気後退を警戒する可能性もある。特に5年/30年国債のイールドカーブは景気後退のサインとしては的中率が低く、1994年の逆イールド発生後に景気後退は起きておらず、逆に2008年の景気後退は予測できなかった。さらにまた、他の年限間の形状は比較的スティープな(右肩上がりの)状態が続いており、特に3カ月/2年国債の利回り格差は現在178bpと過去最高水準に近い。

逆イールドは、株式の売りシグナルを発しているわけではない。1976年以降、S&P500種は2年/10年国債の逆イールド発生後も平均してその後3カ月で2%、6カ月で5%、12カ月で14%、24カ月で22%のリターンを上げている。このパターンは2019年8月に最も顕著となり、一時的に逆イールドが発生したものの株式市場のリターンは堅調に推移した。新型コロナウイルスのパンデミックにより米国経済が打撃を受けるまで、株式市場は上昇傾向を辿り、景気後退は発生しなかった。

誤警報のリスクは中央銀行による過去10年に及ぶ金融抑圧によっても高まったと見られる。米国長期国債の利回りは、FRBや他の中央銀行が大量の債券を保有したことにより低く抑制されてきた。こうした介入の効果は他の要因と切り離して把握することは難しいが、量的金融緩和により逆イールドが発生しやすくなり、シグナルとしての信用性が低下した可能性はある。

そのため、イールドカーブを単視眼的に捉えることは避けるべきだと考える。現在の状況はやや異例である。イールドカーブ上の短期セクターは1994年以来となるFRBの急速な金融引き締め観測が影響し、一方で長期セクターは長年にわたる中央銀行の介入が歪めている可能性がある。景気のソフトランディング(軟着陸)はFRBにとって大きな課題であるが、1965年、1984年、1994年の局面では成功しており、したがって、今回成功する可能性がないと判断するのは時期尚早だ。よって投資家には、悪材料に過剰に反応せず、長期成長が見込めるバリュー領域に注目しつつ、利上げに備えることを勧める。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年4月4日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年4月5日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×