日本株式

挽回の時はいつか?

日本株式市場は、2008年の世界金融危機の後も、2011 年の東日本大震災や今回の新型コロナウイルス感染拡大など、数々のリスクイベントに見舞われてきた。

  • 日本株式市場は、2008年の世界金融危機の後も、2011年の東日本大震災や今回の新型コロナウイルス感染拡大など、数々のリスクイベントに見舞われてきた。
  • 本レポートでは、日経平均株価の5年間の年率リターンと株価バリュエーション(株価評価)の相関がいかに高いかについて論じる。分析から、配当利回りが2.0%以上のときに日経平均株価に投資すると良好なリターンを得られることがわかった。
  • ウクライナ情勢とそれに伴うコモディティ価格の上昇は日本企業の業績に打撃を与えている。だが、2022年度(2023年3月期)の企業利益に対する実際の影響は極めて不透明である。

我々の見解

投資家は、今回のウクライナ危機のような地政学的状況下でも、いつか報われると期待してリスクを取ることが多い。ロシア・ウクライナ間の軍事衝突がいつ終わるかを予想するのは難しいが、最近のCIO Alertで述べた通り、「過去を振り返ってみると、歴史を変えてしまう地政学的事象であっても、市場に長期的なダメージをもたらすことはほとんどない」。

2011年の東日本大震災や今回の新型コロナウイルス感染拡大など、2008年の世界金融危機の後も日本株式市場は数々のリスクイベントに見舞われてきた。こうしたリスクイベントが起きたとき、企業業績にどの程度の悪影響が及ぶかはわからなかった。しかし、市場は時に過剰反応しがちであり、株価が企業業績予想やその他ファンダメンタルズ(基礎的条件)では説明できない水準まで下がることがあることはわかっていた。

現在進行中のウクライナ紛争も、いつ、どのような形で終結するのか予想するのは難しい。だが歴史を振り返ると、こうした状況であっても長期投資が報われるであろうことがわかる。本レポートでは、2008年以降の株式の5年間の年率リターンを算定し、いま我々がどこにいるのかを見ていきたい。

図表1は、日経平均株価の配当利回りと5年間の年率リターンの相関を示したものである。2008年以降のほとんどの場合において、配当利回りが2.0%以上のときに買っていればリターンはプラスだった。現在、日経平均の予想配当利回りは我々の推定では2.24%である。

株価純資産倍率(PBR)と5年間の年率リターンとの相関をみても、いまが投資を始める機会であろうことがわかる(図表3参照)。2008年の世界金融危機の直前は例外で、2008年前半に日経平均株価に投資していても、5年後のリターンはプラスとなっていなかった。だが、それ以外の大半の期間では、日経平均のPBRが1.6倍以下のときに投資していれば、5年後にはそこそこのリターンを得られたといえる。いつ購入したかにもよるが、配当利益を加味すれば実際のトータル・リターンはさらに1~2%ポイント上昇していたはずだ。

日経平均株価がさらに割安になるまで待ち、5年間の年率リターンをより確実にプラスにするという戦略もある。株式のバリュエーションと投資のタイミングには明確な関係がある。ベストなタイミング、すなわちバリュエーションが割安なときに投資すれば、5年後にプラスのリターンが得られる確率は高まる。

ウクライナ危機によりコモディティ価格が急騰したことを受けて、我々は最近、日本株式の銘柄推奨リストを見直した。現在は、推奨リストのボラティリティ(株価の変動幅)を低減し、配当利回りを高めるために、金融株を増やすタイミングだと考える。今後1年間は米連邦準備理事会(FRB)を筆頭に世界的な利上げが予想される中、いまは日本の金融株を拾う魅力的なタイミングである。

リスク

ウクライナ危機とそれに伴うコモディティ価格の上昇は、日本企業の業績に打撃を与えている。だが、2022年度(2023年3月期)の企業業績に実際にどのような影響が及ぶのかは極めて不透明だ。過去10年の経験に基づくと、原油価格が日本企業の業績に与える影響は大きくない。我々の2021年度(2022年3月期)の企業の予想増益率は+48%と、2022年1-3月期の悪影響を吸収できるだけのバッファーがある。我々は今のところ2022年度(2023年3月期)の純利益の増益率を10%と予想しているが、2022年1–3月期決算が出そろった段階で見直す。足元の日経平均株価は、12カ月先行1株当たり利益(EPS)のトレンドを下回ってきている(図表4参照)。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: When will we be rewarded?”(2022年3月17日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月22日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

さらに詳しく

2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×