House View Weekly

先行き不透明感の中でも投資を継続

ウクライナ情勢、対ロ制裁、エネルギー価格の上昇に対する各国中銀の対応を巡る不透明感が継続する中、株式およびコモディティ市場は値動きの荒い展開が続いている。

今週の要点

ヘッジ・ポジションを構築しながら投資を継続

ロシア・ウクライナ情勢、対ロシア制裁の度合い、エネルギー価格の上昇に対する各国中銀の対応を巡る不透明感が継続する中、株式およびコモディティ市場は値動きの荒い展開が続いている。3月9日のS&P500種株価指数は2.6%上昇、一方ブレント原油価格は13%下落した。この日の相場にはウクライナとロシア間の交渉が停戦に向けて進展することへの期待感が織り込まれた。

外交交渉への期待感が一進一退する中、先週のS&P500種株価指数は下落したが、株式のボラティリティ(変動率)が高いということは、相場の潮目があっという間に変わり得ることを意味する。また、今回のウクライナ危機に際して単にリスク資産を売却するという戦略は最善ではないとの我々の見方を裏付けるものでもある。

だが、先行きの見通しにくさや、ブレント原油が先週1バレル当たり106~139米ドルで推移するなどコモディティ価格が高止まりしている状況を踏まえ、我々は株式の投資推奨を中立としている。株式を長期戦略配分よりもオーバーウェイトにしている投資家は、ポジションを戦略配分目標まで引き下げるのが妥当だろう。また、現在の環境下でポートフォリオの防御を高める方法は他にもある。

例えば、ロシアおよびウクライナからのコモディティ供給途絶リスクに関するニュースが注目される中、幅広いコモディティがポートフォリオのヘッジ手段として効果を発揮すると考える。また我々が引き続き推奨するエネルギー株も、コモディティ価格が一段と上昇すればその恩恵を受けるだろう。

さらに、グローバル・ヘルスケア・セクター、ダイナミック・アセット・アロケーション戦略の活用なども、ポートフォリオのボラティリティを抑える手段となるとみている。有事に買われる安全資産の米ドルも、短期的には有効なポートフォリオ・ヘッジとして機能するだろう。

要点:防御を固めつつも、長期投資を継続することを推奨する。

エネルギー安全保障への注目が長期的に高まると予想

西側諸国がロシア産エネルギーへの依存度を引き下げる方向で動いている。米国はロシア産原油の輸入を禁止し、英国は2022年末までに輸入を停止すると発表した。ロシアのコモディティ輸出が直接制裁対象となったのはこれが初めてだ。欧州連合(EU)は年末までにロシア産のガス輸入を3分の2程度減らす目標を発表した。

こうした措置の直接的な目的はロシアに対する圧力を強めることだが、エネルギー価格の上昇により、多くの国々がエネルギーの輸入依存度を減らすという長期目標に注力する契機ともなるかもしれない。これが太陽光発電や風力発電など国内で生成できる再生可能エネルギー投資を加速させる可能性がある。よって、エネルギー自給に向けた取り組みは、炭素排出量削減に向けた長期的な目的と合致する。

再生可能エネルギーに加えて、エネルギー効率やデジタル化といった主要分野への投資も拡大している。これらもまた、電化やバッテリーとともに、輸入化石燃料への依存度を下げるのに役立つ。バイオエネルギーも有望だ。

要点:エネルギー移行を捉えるポジションを勧める。

インフレリスクと金利上昇リスクに対応する

ロシア・ウクライナ情勢が経済成長と中央銀行の金融政策に与える影響は、重要な不透明要因だ。2月の米消費者物価指数(CPI)は1982年以来最も高い前年同月比7.9%の上昇となり、新型コロナによる供給制約による影響がいまだに払拭されていないことが浮き彫りになった。

インフレ圧力は数カ月中に弱まると予想していたが、ウクライナ情勢に伴うコモディティ価格の急騰で先送りされそうだ。年初からさまざまなコモディティ指数のトータル・リターンが軒並み19~26%上昇しており、エネルギー、食品、原材料価格に影響が及んでいる。

今週は米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。米連邦準備理事会(FRB)が物価上昇にどう対応するか、また、FRBは物価上昇をさらなるインフレの脅威と見るのか、あるいは需要に対するリスクと捉えるかが明らかになるだろう。

ウクライナ情勢に伴う不確実性から、利上げペースが変わる可能性も考えられるが、長い目で見てさらなる利上げが必要なことは明らかだ。よって投資家は、長年にわたる低金利・低インフレを経て、今後は新たな金利・インフレ環境に備えたポートフォリオを構築しなければならない。インフレ率の上昇と実質マイナス金利という環境下では、投資資産を売却してキャッシュで保有するのは逆効果だろう。むしろこうした環境下でアウトパフォームする投資対象を推奨する。

要点:利回りが魅力的で、利上げ局面でプロテクション効果を発揮する変動利付きの米国シニアローンへの投資を検討できる。株式市場では、通常利上げは金融銘柄の追い風となり、またバリュー株はグロース株をアウトパフォームする。

深読み

先行き不透明感の中で投資を継続

何が起きたか?

先週は、米インフレ指標の上昇、金融引き締め加速の見通し、ウクライナ危機への懸念からS&P500種株価指数が2.9%下落した。市場ボラティリティ(変動率)は高止まりしており、S&P500種は3月7日に1日の下落率としては2020年10月以来の水準を記録したが、3月9日には大きく反発し1日で2.6%上昇した。

2月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で7.9%上昇し、1982年以来の高水準となった。変動の大きい食品・エネルギーを除くコアCPIは6.4%上昇し、米連邦準備理事会(FRB)の物価目標2%を3倍以上上回る水準に達した。前月比でも、総合指数が0.8%、コア指数が0.5%それぞれ上昇した。

CPIの発表後、3月15~16日には米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合が控えている。今回の会合では2018年以来となる利上げの開始を決定すると予想されている。今週はイングランド銀行(英中銀)も金融政策委員会を開催する予定である。

先週は欧州中央銀行(ECB)も債券購入プログラムの縮小加速を発表し、利上げへの地ならしを行った。ECB理事会はロシアのウクライナ侵攻は「欧州の分水嶺」となったとの認識を示し、「物価と金融の安定の確保に必要ならいかなる措置でもとる」と述べた。

先週はロシアとウクライナの外相会談が行われたが、停戦に向けた進展は見られなかった。ロシアが領土権の主張を広げないことを示唆し、またウクライナが中立性をロシアと議論する用意があることを示したことから、週初に外交上の進展の可能性について楽観的な見方が高まったが、結局実現しなかった。

この状況をどう解釈するか?

ウクライナ情勢悪化による経済への影響懸念から、中央銀行が金融引き締めのペースを緩めるのではとの見方が浮上していたが、先週の物価指標の発表や金融当局の発言を受けてそうした見方は後退した。

2月の米インフレ指標はコモディティ価格が直近急騰する前の期間のデータであり、FRBが利上げペースを落とす可能性は低いであろう。尚、足元市場が織り込む年内の利上げ回数は約7回となっている。比較的タカ派的なECBのコメントも、年内の利上げ開始の見通しと整合するものである。

結論として、中央銀行は過去数年にわたり株式市場へのショックを和らげることに成功してきたが、足元の新たなリスクに対しては政策の選択肢が限られていると言えよう。

ウクライナ危機については、外交上の進展に対する期待が引き続き揺れ動いている。我々の基本シナリオでは、夏までに停戦となり、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の非難の応酬は沈静化するとみているが、結果およびその時期については予測が困難である。

プーチン大統領の狙い、今後の制裁の範囲、軍事衝突の行方、NATO非加盟国の防衛政策など、多くの要因について引き続き不確実性が高まっている。またウクライナ危機によりコモディティ価格、世界の景気・物価、中央銀行の金融政策についても不透明感が強まった。

投資見解

我々は単純にリスク資産を売却することはウクライナ危機への対応として最善ではないと考える。しかし、不確実性が高まる環境下、株式の保有比率が長期の戦略的資産配分を超えている投資家には、株式の配分を中立に戻し、ヘッジ戦略を組み入れることを勧める。

特に次のような投資行動を勧める。

1. インフレと利上げのリスクに備える。今週は、FRBがウクライナ危機にどう対応し、物価上昇をインフレの一段の脅威としてみるか、または需要のリスクとしてみるか、さらなる指針が得られるであろう。

ウクライナ情勢を巡る不確実性が高いことから利上げペースが変更される可能性も考えられるが、長期的には利上げが必要なことは明らかである。そのため、長年にわたる低金利と低インフレの時代を経て、投資家は新たな金利・インフレ環境に備えたポートフォリオを構築する必要があるだろう。全ての投資資産を売却し、キャッシュを保有することは、高インフレと実質利回りがマイナスの環境下では得策ではないと考える。

その代替として、我々はこうした環境下でアウトパフォームする投資を推奨する。例えば、米国シニア・ローンは、魅力的な利回りを提供し、変動金利によりFRBの利上げに対して一定のプロテクションも期待できる。株式市場では、通常金融株は利回り上昇の恩恵を受け、またバリュー・セクターはグロース・セクターをアウトパフォームする傾向が見られる。

2. ポートフォリオのヘッジを強化する。足元の環境下、ポートフォリオのディフェンシブ性を高めるには、株式の配分を中立に戻すこと以外にも別の方法が考えられる。

コモディティ全般が効果的なヘッジとして引き続き機能すると考える。我々が現在推奨しているエネルギー株も、コモディティ価格がさらに高騰した場合に、その恩恵を受ける可能性が高い。また、グローバル・ヘルスケア・セクターやダイナミック・アセット・アロケーション戦略などもポートフォリオの変動性を軽減する手段として検討できる。短期的には米ドルも効果的なヘッジとして機能すると考える。

3. エネルギー移行を捉えるポジション。米国はロシア産原油の輸入禁止に踏み切り、EUもロシア産天然ガスへの依存度を下げる計画を打ち出した。各国の動きはエネルギー安全保障と自給への取り組みの重要性が高まっていることを示すものであり、こうしたトレンドはウクライナ危機により拍車がかかっている。エネルギー自給の動きは炭素排出量削減への長期的な取り組みとも合致することから、グリーンテック、空気浄化・炭素削減技術への投資に追い風になると考える。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年3月14日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月15日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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