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株式を推奨から中立に引き下げ

先行き不透明性の高まりから、我々は年末時点の株価は現時点よりも高いという基本シナリオを維持しているものの、株式に対する戦術的(短期)スタンスを推奨から中立に変更する。

我々のポジション

ロシアのウクライナ侵攻によって、株式市場の見通しの不透明性が高まった。背景にある不透明要因として、プーチン大統領の意図、追加制裁の範囲、軍事衝突の行方、北大西洋条約機構(NATO)非加盟国の国防方針、中国の態度、コモディティ価格、世界経済成長、インフレ率、中央銀行の政策などが挙げられる。

よって、先行き不透明性の高まりから、実現可能なシナリオの幅が、楽観・悲観の両方向に広がってきている。我々は年末時点の株価は現時点よりも高いという基本シナリオを維持しているものの、リスク・リターン特性が明白ではなくなってきていることから、我々は株式に対する戦術的(短期)スタンスを推奨から中立に変更する。

我々はグローバル・エネルギー株と米ドルの推奨を継続する。どちらも短期的にポートフォリオのヘッジとして効果的な役割を果たすと考えるからだ。ユーロ圏株式は中立に変更する。域内の不透明性が高まっており、経済成長と企業業績予想が下方修正される可能性があるからだ。アジアでは、中国株式を推奨する。

地政学的イベントは、歴史の流れを変えたものでさえ、市場に長期的なダメージをもたらすことは滅多にない。このことは、株式への長期エクスポージャー維持の根拠となる。しかし、相場の変動が激しく、先行きが不透明であるため、投資家はポートフォリオの資産配分を見直し、長期の戦略的資産配分目標に合わせた株式保有に戻すことを勧める。

また今は、投資家が資産運用計画を見直す重要な時でもある。Liquidity. Longevity. Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)アプローチの一環として、今後3~5年の支出を賄うのに十分なLiquidity戦略を策定することで、投資家は短期の支出ニーズを満たす用意ができる。またパニック売りや強制決済のリスクを軽減するとともに、株式市場が回復し、今後数カ月後や数年後に過去最高値を更新するまで十分な時間をかけて投資を続けることができる。

今後の市場シナリオ

以下に、我々の戦術的投資期間における市場シナリオ分析を記した。軍事衝突の行方とプーチン大統領の政治的目的が不透明な状況が続きそうだが、ロシアのウクライナ侵攻およびロシアへの制裁がコモディティ価格に及ぼす潜在的影響に注視することが効果的な現実策だと考える。コモディティ価格は目に見えて確認でき、世界経済に直接影響を与えるからだ。

また、我々は解説のために基本シナリオ、悲観シナリオ、楽観シナリオに区分して紹介しているが、実際の結果はもっと複雑なものになる可能性が高い。そして、前述のように、さまざまな要因で不確実性が極めて高まっている時は、特定のシナリオの実現に高い確信を持つべきではなく、幅広いシナリオの実現に備えるべきだと考える。

基本シナリオ:
我々の基本シナリオでは、コモディティ価格、特にエネルギー価格が短期的に高止まりするが、2022年後半にかけて下落すると予想する。これが実現するのは、夏までに停戦となり、NATOとロシア間の非難の応酬が沈静化する場合だ。

このシナリオでは、制裁によって、エネルギーの流れが突如強制的に止まるというよりは、世界のサプライチェーンからロシアが段階的に排除されることになると予想する。この場合のブレント原油価格予想は、6月時点で1バレル当たり125米ドル、9月時点で同115米ドル、12月時点で同105米ドルと想定する。

数カ月にわたるコモディティ価格上昇は、経済成長と企業利益にマイナスの影響を及ぼす可能性が高い。しかし我々は、2022年は全般的に企業利益成長が好調に推移するとの予想を維持する。年末までに状況が安定すれば、現在織り込まれている地政学リスクプレミアムが低下し、2023年の企業業績は概ね影響を受けることはなさそうだ。

このシナリオでは、インフレ率も年末までに低下すると予想されるが、当初の見込みよりも時期は後ずれし、中央銀行は段階的な利上げが可能になる。食品とエネルギーは目につきやすいが、それらは先進国の消費支出の中では比較的小さな割合を占めるに過ぎないことを覚えておくとよいだろう。

企業業績は概ね安定的に推移すると予想され、地政学リスクプレミアムが低下すれば、このシナリオでは年末までに株価は上昇するだろう。2022年末までのS&P500種株価指数の予想値は、現在の水準より10%程度高い4,800である。

悲観シナリオ:
我々の悲観シナリオでは、コモディティ価格が大幅に上昇し、物価が長期に亘って高止まりすると予想する。これが実現するのは、戦争の長期化がコモディティ供給の広範な混乱を直接引き起こすか、制裁によってロシアからの輸出が突然止まる場合だ。このシナリオでは、原油価格が1バレル当たり150米ドルを上回り、欧州ではガスが配給制になるかもしれない。

このシナリオが実現すれば、2023年にかけて、欧州の経済成長と企業業績に大きなマイナスとなるだろう。また規模は小さくなるにしても、米国の経済成長と企業業績にもマイナスの影響が及ぶと予想する。このシナリオは「スタグフレーション」のリスクも高める。インフレ率の上昇が長期間続くなか、賃金・物価スパイラルが起こる可能性が高まる。それによって中央銀行は、すでに経済成長が鈍化しているにもかかわらず、積極的に利上げを実施することになる。

企業業績予想の下方修正と、高い地政学リスクプレミアムの継続は、グローバル市場の一段の下落を意味する。このシナリオでのS&P500種株価指数の予想値は、現在の水準より15%程度低い3,700である。

市場の下振れリスクは、NATO軍が紛争に直接介入するなど、戦闘状況が深刻化した場合にさらに高まるだろう。具体的には、ロシアが他国の領土を侵略した場合や、スウェーデンやフィンランドのNATO加盟の選択に対して軍事的対応が行われた場合だ。

楽観シナリオ:
我々の楽観シナリオでは、コモディティ市場の混乱は短期で終わり、市場の不確実性は直ちに解消される。これが実現するのは、戦争による深刻な人的・経済的コストが高すぎると判断され、停戦合意が数週間以内に成立する場合だ。

極めて重要なことだが、このシナリオは戦争による人的被害の拡大を防ぐ。市場の観点から見ると、コモディティ供給の混乱が比較的短期で終わることで、世界経済成長とインフレへの全体的な影響が制限される。また先々の見通しが明確になることで、市場のリスクプレミアムが低下するだろう。

オミクロン株関連の行動規制解除を受けて、サービス消費支出の回復が見込まれるなか、このシナリオでは堅調な世界経済成長が期待される。インフレ率も年末までに低下するとの前提に基づき、年末時点のS&P500種株価指数は、現在の水準より17%程度高い5,100を予想する。

投資推奨

不確実性が高まっている現在の環境において、投資家にはポートフォリオが市場のボラティリティを切り抜けられるように備えることを勧める。

分散化されたポートフォリオを維持する。地域、セクター、資産クラスの分散化を行うことで、投資家はロシアのウクライナ侵攻に関連した固有のリスクや世界各地で燻る他の政治リスクへのエクスポージャーを減らすことができる。

• ヘッジを検討する。供給混乱のリスクが広がるなか、さまざまなコモディティがポートフォリオにとって有効な地政学リスクのヘッジになりうると考える。我々が推奨するエネルギー株も、コモディティ価格が一段と上昇した場合に恩恵を受けるだろう。投資家はまた、ヘッジファンドやプライベート市場、世界各国の不動産直接投資など、ポートフォリオにオルタナティブ資産(代替資産)を追加することも選択肢として検討できる。

長期的視点を持ち続ける。上記のように、歴史的に見て、地政学的イベントの市場への影響は、比較的短期で終わる傾向がある。長期投資テーマへのエクスポージャーを獲得することで、短期の相場変動に惑わされず、早まった行動を取らずにすむ。我々が推奨するテーマには、ABC技術(人工知能(AI)、ビッグデータ(Big Data)、サイバーセキュリティ(Cybersecurity))や、グリーンテックといった脱炭素社会への移行に関連する投資などがある。

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本稿は、UBS AGが作成した“Downgrade equities to Neutral”(2022年3月4日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月7日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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