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米インフレ率40年ぶりの高水準で相場急落

米国のインフレ率が再び予想を上回った。10日に発表された1月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で7.5%上昇し、1982年以来の高い伸びを示した。

何が起きたか?

米国のインフレ率が再び予想を上回った。10日に発表された1月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で7.5%上昇し、1982年以来の高い伸びを示した。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアCPIでさえも前年同月比+6.0%と同じく40年ぶりの高水準となった。コアCPIは対前月比では0.6%の上昇となり、物価上昇圧力が低下するとの予想を打ち消すものとなった。0.5%以上の伸びを示すのは、過去10カ月間で7度目だ。

CPIの発表後、米セントルイス連銀のブラード総裁が、7月初めまでに合計1.0%の政策金利の引き上げを支持する考えを示したことも、債券市場の下げを一段と加速した。フェデラル・ファンド(FF)金利先物は、ブラード総裁の発言に合わせて、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での50ベーシスポイント(bp)の利上げを完全に織り込んだ。米2年国債利回りは25bp上昇して1.61%となり、米10年国債利回りは2019年以来となる2%超えを記録し、2.05%で引けた。

S&P500種株価指数は、金利敏感株に主導されて1.8%下落した。情報技術が2.8%、公益事業が2.6%、不動産が2.9%下落した一方、エネルギーや金融といった景気敏感セクターの下げ幅はそれぞれ0.7%、0.9%にとどまり市場全体をアウトパフォームした。米ドルは早期利上げ観測がいくぶん支援材料となり、米ドル指数は0.2%上昇した。

この状況をどう解釈するか?

インフレ率は一貫して上昇していることから、年内に数回の利上げが行われる可能性が高い。だが我々は、年後半には物価上昇圧力が弱まり、米連邦準備理事会(FRB)が金利引き締めペースを緩めると予想する。

プライチェーンの混乱が解消次第、物価上昇はピークをつける可能性が高い

1月がCPIのピークとなるかはまだわからないが、少なくとも、今後数カ月のうちに減速しはじめると予想する。最近複数の国々が新型コロナウイルスに伴う行動制限を緩和しており、これが財からサービスへと消費パターンの転換を促し、製品価格の上昇圧力を和らげるとみられる。また、経済活動の再開により労働市場に復帰する人が増えるため、賃金上昇圧力も緩和されるだろう。

物価上昇圧力に緩和の兆候が見え始めている

中古車価格は1月に前月比1.5%、前年同月比40.5%上昇しており、CPIの押し上げ要因の1つとなっている。だがCPIからは一部製品の供給制約がいくぶん緩和されつつあることがうかがえる。テレビの価格が1.4%低下し3カ月連続の下落となるなど、CPI品目の約20%で価格が下落した。FRBは物価上昇が広範囲に及ぶことに懸念を強めているようだ。しかし今年はインフレ率の下方圧力が強まる可能性が高く、政策当局も、パンデミックやエネルギー価格などの一時的な要因による価格上昇への過剰反応リスクに警戒を強めるだろう。米2年国債と10年国債の利回り格差が現在44bpに縮まっており、足元で織り込まれた利上げ幅で長期的なインフレ圧力を十分に封じ込められると市場が予想していることを示している。だが同時に、市場がこれまで予想していたほど、経済に拡大余地がない可能性も示している。

投資家はどうしたら良いか?

企業のファンダメンタルズは引き続き健全であり、金利上昇による悪影響は相殺可能であることから、株式市場には上昇余地があると考える。2021年第4四半期(10-12月期)の決算では約78%の企業が予想を上回る利益を発表しており、S&P500企業の増益率は26%に迫る勢いだ。一部の大手ハイテク企業の決算は市場予想を下回ったが、これは幅広く消費者需要が後退しているというよりも、企業固有の悪材料を反映したものだ。我々は、世界経済の成長から恩恵を受ける勝ち組銘柄など、景気敏感株を中心としたグローバル株式に強気の見方を維持する。同時に、金利上昇に備え、またボラティリティ(相場の変動)が高まる中で投資機会を見いだすために、以下の投資行動を勧める。

世界経済の成長から恩恵を受ける勝ち組を買う

経済の堅調な成長が続く中、市場は早期の金融緩和の終了に対応できるだろう。国内総生産(GDP)成長率は2021年の5.2%程度からは鈍化するものの、今年はまだ潜在成長率を上回る4.2%程度を見込む。こうした背景から、我々は引き続きユーロ圏市場やエネルギー・セクターなどの景気敏感セクターおよび市場に妙味があるとみている。ポートフォリオの観点からは、エネルギー・セクターにポジションを持つことで、我々が基本シナリオで想定したよりも高インフレ率が長引いた場合のリスクに対するプロテクションになる。

金利上昇に備える

インフレ率が想定外に上振れし続ける中、FRBも欧州中央銀行(ECB)も前倒しで金融引き締めを行う可能性が高まっている。こうした金利動向に投資家が対応する方法はいくつかある。金利上昇局面では通常、金利収入が増える金融セクターが恩恵を受ける。また、バリュー・セクターは、金利上昇からの逆風を最も強く受けるハイテク株などのグロース・セクターをアウトパフォームすると予想する。債券では、変動金利の米国シニアローンは金利上昇のプロテクションとなりうるだろう。

ハイテク銘柄のボラティリティを活用する

金利上昇観測はグロース株およびハイテク株のパフォーマンスの足かせとなっており、創造的破壊技術やデジタル・トランスフォーメーションに対するエクスポージャーを志向する長期投資家には、一部の銘柄に投資機会が生まれつつあると考える。特に、人工知能(AI)、ビッグデータ(B)、サイバーセキュリティ(C)の「ABC技術」や5G(第5世代移動通信)技術は、今後10年間ハイテク・セクター全体を上回る速さで成長すると考える。個別銘柄では、高値から15%以上下落しているものの、高いフリー・キャッシュフロー利回り、堅調な利益成長、業績の上方修正といった要素を兼ね備えた企業に投資妙味がある。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks and bonds fall as US inflation hits 40-year high”(2022年2月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年2月13日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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