House View Weekly

ハイテク株価の変動を考察する

ハイテク株は当面ボラティリティの高い状態が続くとみられるが、ファンダメンタルズの見通しは引き続き良好である。

今週の要点

ハイテク株のまちまちな決算が新たな相場の変動要因に

先週は投資家のセンチメントが改善し始めた。2021年10-12月期(第4四半期)決算で米国企業の底堅さが広く確認され、市場の注目が金融引き締めから再び企業業績に移ったためだ。だが、大手ハイテク企業の決算は強弱まちまちとなり、投資家の新たな不安要因として浮上した。過去最高益を更新した企業がある一方で業績が事前予想を下回った企業もあり、失望感からセンチメントが後退した。だが、世界のハイテク・セクターの利益見通しは全体としては依然底堅く、増益率は約15%が見込まれる。直近失望を誘った決算の中には、業界特有の事情やパンデミックに伴う行動制限の緩和による経済正常化への動きを反映したものもある。ハイテク・セクター全体の利益は増加している。ただし内訳はまちまちで、半導体やソフトウェア、ハードウェアといった大半の伝統的なハイテク業種では業績の上方修正が続く一方で、デジタルメディアやeコマースでは下方修正がみられる。金利上昇がハイテク株に与える圧力は緩やかとなると予想する。米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めペースを早めても、市場がそれに順応するためだ。

要点テクノロジー株のポジションにおいて、巨大ハイテク株の一部を「ABC技術(人工知能(A)、ビッグデータ(B)、サイバーセキュリティ(C))」など長期的なトレンドが追い風となる業種へ入れ替えることを推奨してきた。だが、ボラティリティ(株価の変動率)が高い状況が続く可能性が高いことから、ヘルスケアなどディフェンシブ・セクターの追加を検討するのも有効だろう。

原油とエネルギー・セクターの見通しは上向き

北海ブレント原油先物は今年最もパフォーマンスが好調な資産であり、年初から19%上昇している。そのためエネルギー株も好調で、MSCI オールカントリー・ワールド・エネルギー指数も20%上昇している。上昇基調が長く続いているが、原油、およびエネルギー株にはこの先もまだ上値余地があるとみている。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成される「OPECプラス」の今月の閣僚級会合で3月も日量40万バレルの増産(協調減産の縮小)ペースを維持する決定が下されたことを踏まえ、我々は今年のブレント原油の見通しのレンジを90~100米ドルに引き上げた。OPECプラス参加国は、余剰生産能力が縮小する中、米国のシェールオイルの増産意欲を高めるためには今年から来年にかけて原油価格が上昇する必要があると強調した。パンデミックに伴う行動制限が解除されつつあり、石油需要は今後数カ月のうちに過去最高水準に達する見通しである。原油価格に対する国内総生産(GDP)の感応度は低下傾向にあるため、エネルギー価格の上昇が世界経済の成長の大きな足かせとなることはないとみている。コモディティ価格の力強い見通しはエネルギー・セクターの魅力をさらに高める。健全なバランスシートとキャッシュフローの改善が、4.5%超と低金利下では魅力的な配当利回りを下支えしているうえに、MSCI オールカントリー・ワールド・エネルギー指数のバリュエーションはまだ割安だからだ。

要点リスク許容度の高い投資家には、ブレント原油先物の期先物ポジションの保有を推奨する。我々は、エネルギー株を力強い景気回復の主な勝ち組とみており、ウクライナ情勢を巡る緊張が続く中では、地政学リスクに対するヘッジとしてのニーズも追い風になるだろう。

暗号資産の直接保有に代わる代替投資を検討

デジタル資産は株価下落とインフレ高進の両方に対するヘッジになるとの主張がある。だが、この主張は1月に崩れた。S&P500種株価指数が1月としては2009年以来の下落を記録し、12月の消費者物価指数(CPI)が1982年以来の水準に跳ね上がったのに対し、ビットコインが17%、イーサが27%下落したからだ。ビットコインは現在、昨年11月につけた最高値から35%以上下落している。だが、デジタル資産の基盤となる技術は投資家に多数の将来有望な機会をもたらす。分散型台帳技術(DLT)を様々に利用することで、取引コストを引き下げ、今後10年間で世界のGDPを1兆米ドル押し上げることも可能だ。この可能性に投資するには様々な方法がある。まず、より幅広くDLTが利用されるようになれば、特定用途向け集積回路(ASIC)、アプリケーション・プロセッサー、グラフィック・プロセシング・ユニット(GPU)などの必要性の高いインフラを構築している企業に追い風となるだろう。また、DLTに基づくアプリケーションを積極的に活用する企業にも多くの機会が見いだせると考える。大手決済企業やプラットフォーム企業に加えて、ブロックチェーン、クラウド、AIなど新興技術におけるディスラプター(創造的破壊をもたらす企業)にも妙味がある。

要点DLTの利用が進むことでフィンテック産業にさらに弾みがつくと予想する。フィンテックはすでに非接触やモバイル決済、eコマースへの移行の加速が推進力となっており、これらを合わせると、フィンテック関連の売上高は2020年の2,250億米ドルから2030年には7,500億米ドルへと拡大することが見込まれる。これは、金融業界全体の売上高成長率(年率)の3倍以上に相当する規模だ。

深読み

ハイテク株価の変動を考察する

先週はハイテク株が大きく変動した週となった。ナスダック総合指数は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運営する超大手ハイテク企業の2021年10-12月期決算が市場予想を下回ったことが大きく影響し2月3日(木)に3.7%急落しながらも、週間では2.4%上昇した。同社は、決算でユーザー数の伸び悩みと広告収入の伸び減速が明らかとなったことから、株価が25%を超えて下落した。しかし、翌日になるとeコマースの世界的大手企業が好決算を発表したことからナスダック総合指数は急反発した。

米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めの影響懸念に加え、10-12月期決算発表を迎える中、ハイテク業界の一部有力企業の業績を巡る失望感もハイテク株の売りを加速した。年初以降、ナスダック総合指数は10%、S&P500種株価指数は6%近く下落した。極めて高いバリュエーションが金利上昇懸念から低下し、ハイテク株等、最も割高な領域が市場の下落を主導した。市場は現在FRBによる今年5回以上の利上げを織り込んでおり、米国10年国債利回りは年初から40ベーシスポイント上昇し、1.92%に達した。

当面、ハイテク株はボラティリティ(変動性)の高い状態が続くとみられるが、同セクターのファンダメンタルズ(基礎的諸条件)の見通しは引き続き良好である。

  • 今年のハイテク株下落の大半は、株価収益率(PER)の下落が主に影響していると考える。MSCIオールカントリー・ワールド情報技術指数の12カ月先予想PERは、約27倍から23倍(1月の直近安値ベース)まで低下した。
  • 全体として業績見通しは依然堅調で、グローバル・ハイテクセクターでは引き続き15%前後の利益成長が見込まれる。個別の決算ではばらつきがみられるが、ハイテクセクター全体の利益は引き続き増加している。デジタルメディアとeコマース企業の業績下方修正は、半導体、ソフトウェア、ハードウェア等の伝統的なITセクターの上方修正によって相殺されている。決算内容と業績見通しがアナリスト予想を大きく下回ったのは、ユーザー数の増加とユーザーエンゲージメントによって拡大する消費者ビジネスモデルを持つ企業だった。対照的に、これらの競合企業は好決算を発表しており、最終需要は依然として堅調であることを示している。世界的に企業の利益率は改善しているため、企業のIT需要は引き続き堅調だ。
  • 利回り上昇のバリュエーションへの悪影響は足元の株価に概ね織り込まれたと考える。利回りが現在の水準からさらに大きく上昇するとはみていない。米国10年国債利回りは6月までに2.0%、年末には2.1%と緩やかな上昇を見込む。

我々の基本シナリオでは、ハイテクセクターのバリュエーションはいずれ安定し、今後12カ月で10%台半ばの利益成長率が株価に織り込まれていくと予想する。我々の増益率予想は2022年通年で10%台半ば、2023年通年では10%台前半を見込んでいるが、この見通しは過去数年の約20%という力強い利益成長が徐々に正常化していくことを想定に入れている。

年初以降のハイテク株のボラティリティ上昇により一部で投資機会が生まれていると考える。以下の投資行動を我々は推奨する:

  • 超大型ハイテク銘柄がMSCIオールカントリー・ワールド指数に占める比率は約20%である。これら超大型ハイテク銘柄のウェイトがベンチマークを大幅に上回っている場合は、足元の変動性の高い局面を利用して、他のセクターへの分散を勧める。エネルギー、金融等の景気敏感セクターが有望とみる。
  • ハイテク株のウェイトがベンチマーク並みの場合は、超大型ハイテク銘柄等のリスク集中を回避するため銘柄の入れ替えを勧める。中小型株や人工知能(AI)、ビッグデータ(Big data)、サイバーセキュリティ(Cybersecurity)の「ABC技術」への投資を推奨する。
  • ハイテク株のウェイトがベンチマークを下回る場合は、足元の変動性の高い局面を利用して、大きく売られたハイテク株の戦略的エクスポージャーを徐々に積み上げることを勧める。
  • 最後に、ヘルステック、遺伝子治療、セキュリティ&セーフティ、オートメーション&ロボティクス、スマートモビリティ等、ハイテク株・成長株関連の長期投資テーマを改めて推奨する。こうしたテーマ分野はFRBが金融引き締めサイクルに入る中、変動性が高まると予想される。だが、株価の大幅変動とパフォーマンス不振の局面を受け入れることができる投資家にとって、現在はハイテク株の変動の激しい局面を利用して戦略的エクスポージャーを積み上げる良いタイミングと考える。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年2月7日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年2月9日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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