日本株式

再出発の時

日本企業の業績は過去10カ月間で大きく回復してきたにもかかわらず、株価は狭いレンジでの取引に終始している。だが、調整はほぼ一巡しつつあるとみる。

  • 日本企業の業績は過去10カ月間で大きく回復してきたにもかかわらず、株価は狭いレンジでの取引に終始している。日経平均株価は1月に昨年8月以来の安値をつけたが、昨年8月当時は新型コロナウイルスのデルタ株の感染状況がピークにあり、企業業績は今の水準を大きく下回っていた。
  • 株価と企業業績が乖離している原因は、中国経済の減速に対する海外投資家の不安感にあると考えている。2019年からの企業業績と株式指数の動向を見ればそれは明確だ。足元では、株価バリュエーションの調整はほぼ一巡しており、オミクロン株の悪影響は2022年1-3月期の企業業績に概ね織込み済みであるとみている。
  • 我々は、東証マザーズ指数を日本企業の利益成長に対する投資家の信頼感を示す先行指標と考えており、この指数はすでに底を打った公算が大きい。

我々の見通し

日本株式全体の動きを表すTOPIX(東証株価指数)のパフォーマンスは年初来で約5%減と小幅な下落にとどまる一方、東証マザーズ指数に代表される日本のグロース株(大半は中小型株)は、過去3カ月間大きく下落している(図表1参照)。これは、日本株式の成長プレミアムが剥落し、株価バリュエーションが低下していることを意味する。

東証マザーズ指数は、日本企業の業績成長に対する投資家の信頼感を示す先行指標と考えられるが、この指数はすでに底を打った公算が大きい。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大がまもなくピークを迎える可能性が高く、また近々GoToトラベル・キャンペーンのような政府による財政支援策が再開されるとの見方がその根拠だ。

日本企業の業績は過去10カ月間で大きく回復してきたにもかかわらず(図表2参照)、株価は狭いレンジでの取引に終始している。1月に日経平均株価は昨年8月以来の安値をつけたが、昨年8月当時はデルタ株の感染状況がピークにあり、企業業績は今の水準を大きく下回っていた。

日本におけるオミクロン株の影響は、欧州や米国と同じである。新規感染者数はデルタ株よりも多いものの入院患者数は少ないため、日本の大半の地域における行動制限は前回よりも緩やかだ。株価バリュエーションの調整はほぼ一巡しており、オミクロン株の悪影響は2022年1-3月期の企業業績に概ね織り込み済みであるとみている。

ではなぜ日本株式はアンダーパフォームしているのだろうか。我々は、中国経済の減速に対する海外投資家の不安感がその要因であると考えている。これは、2019年以降の企業業績(図表3参照)と株価指数の動向(図表4参照)を見れば一目瞭然だ。日本企業の業績回復は米国企業の業績回復にほぼ足並みをそろえているのに対して、株価は中国株式指数に歩調が合っている。日本株式の取引高のおよそ7割を占める海外投資家は、近い将来、中国株式の下落が日本企業の業績に影響を及ぼしかねないと考えているようだ。

2021年10-12月期決算発表が佳境を迎える中、ほとんどの日本株式は、中国の不動産市場の鈍化やその他経済活動の低迷による影響はさほど受けていないと考える。図表2と3の通り、日本企業の業績は、米国の需要増と欧州の需要回復にけん引され上向きである。また、中国の経済政策は、今年いずれかの時点で逆風から追い風に変わるだろう。だとすれば、足元の株価収益率(PER)(コンセンサスに基づく予想PERはTOPIXで13倍、日経平均株価で16倍)は相対的に低く、魅力的に見える。年後半には、新型コロナで落ち込んだ国内の民間消費の立ち直りが企業業績を押し上げるとみており、これがここ数カ月で低下したバリュエーションの回復に一役買うだろう。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Starting over”(2022年2月2日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年2月7日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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