グローバル・リスク・レーダー

ウクライナ情勢と市場への影響

緊迫化するウクライナ情勢が市場に及ぼす影響について、4つのシナリオが考えられる。

  • ウクライナを巡る緊張がここ数週間で高まっている。我々の基本シナリオでは、外交努力の継続の結果、事態は安定に向かい、最終的には緊張は緩和されるとみている。これには数カ月を要するかもしれず、その間に例えばウクライナの分離主義勢力やロシア特殊部隊による軍事行動、あるいはサイバー攻撃などが発生し、緊張が再び激化する可能性も残る。こうした事態が起きれば、西側諸国が対抗措置を講じる引き金となる可能性がある。この基本シナリオでは、ロシアがウクライナに侵攻したとしても全面的な制裁が発動されるレベルにはいたらないと想定しているが、どちらかが一線を越える可能性もわずかながら残されている。
  • ロシア軍が本格的なウクライナ侵攻に踏み切る可能性はテールリスク(発生する確率は低いが、発生すると甚大な損害を及ぼすリスク)だとみている。仮にそうした事態になった場合、市場ではリスクオフのセンチメントが広がり、ロシアに対しては厳しい制裁の発動が予想される。金融市場の注目はエネルギー供給とコモディティ価格への影響、国際取引システムなどに集まるだろう。制裁措置やロシアの軍事判断、あるいはパイプライン事故などによりエネルギー供給が混乱すれば、影響は長期に及ぶ恐れがある。しかし、双方ともにそうした事態は回避したい考えだと我々はみている。
  • 足元でリスク資産価格が世界的に下落しているが、これは緊迫化するウクライナ情勢が主因ではないと考える。従って緊張がさらに高まった場合には、市場の一段の下落に備える必要がある。ただし、過去、同様の地政学的リスクイベントによって市場が下落した局面は、短期間で収束している。
  • 我々の基本シナリオである最終的な緊張緩和に備えると同時に、軍事行動に至り資産価格が下落するという悲観シナリオに備えるためにも、ポートフォリオの分散を図り、長期投資を継続することを勧める。エネルギーを中心としたコモディティ、およびサイバーセキュリティ関連銘柄にエクスポージャーをとることで、基本シナリオ、悲観シナリオの双方に対応できると考える。
  • 本レポートでは、ウクライナを巡る緊張激化が市場に与える影響について、4つのシナリオに基づく見方を示す。

ウクライナ情勢は流動的であり、各国の関与や利害が複雑に絡み合っている。今月19日に記者会見を開いたバイデン米大統領は、「私の推測では、プーチン大統領はウクライナに侵攻するだろう」と述べ、米政府内で高まる危機感をにじませた。バイデン氏はさらに、米欧が足並みを揃えることが重要と強調するとともに、ロシアがウクライナに軍事侵攻すればロシア側の犠牲は多大なものになると警告した。現在、米国は金融制裁とハイテク製品の輸出規制の2つの対露制裁パッケージを検討している。一方、EU側は、制裁発動措置は欧州理事会での全会一致をもって決定されるため、加盟27カ国の利害を調整する必要がある。

危機解決に向けて外交的・政治的努力も継続している。21日にはブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相がウクライナ情勢をめぐり会談した。

グローバル市場にとっての主なリスク

危機が悪化すれば、欧州のエネルギー安全保障が市場にとっての主なリスクになると見ている。石油・天然ガスの供給混乱の恐れが高まった場合、または実際に混乱が生じた場合には、価格は高騰するだろう。世界のエネルギー市場はすでに逼迫しており、短中期間で代替の供給ルートを確保するのは難しい。ただし、ロシアから欧州へのエネルギー供給は、米ソ冷戦のさなかでも継続されていた。

ロシアの金融機関、あるいはロシア経済自体を国際金融網から遮断する措置も検討されている。こうした金融制裁が発動されれば、貿易などの国際取引や対外債務の決済が著しく制限される。エネルギー貿易に対する支払いが滞る可能性もあることから、エネルギー供給も混乱する恐れがある。さらに、制裁強化はロシアの長期的な潜在成長力を一段と弱め、国民の生活水準とロシア資産のリターン見通しにもマイナスの影響を及ぼすだろう。

シナリオ1:基本シナリオ

我々の基本シナリオでは、外交努力の継続の結果、事態は安定化に向かい、最終的には緊張は緩和するとみている。しかし、これには数カ月を要するかもしれず、その間に緊張が再び激化する可能性も残る。ウクライナの分離主義勢力またはロシア特殊部隊の軍事行動によるさらなる地域分断化、国境付近におけるロシアの軍備増強や軍事演習の強化、あるいはサイバー攻撃などが起きれば、西側諸国がそれに対する対抗措置を講じる可能性がある。ただし、この基本シナリオでは、全面的な制裁が発動されるほどの侵攻は行われないと想定している。この見立てが誤りとなった場合のリスクは大きいが、我々は、外交努力によりウクライナ危機の出口を見出し、最終的にはすべての当事者の利益が守られるものと考える。

シナリオ2:楽観シナリオ

外交的・政治的努力は続いており、緊張緩和に向けた出口交渉が水面下で行われている可能性がある。この楽観シナリオは短期間で実現する可能性は低いと考える。だが、西側諸国とロシアの関係が安定化すれば、軍縮、紛争解決、エネルギー転換などに中長期的にプラスに寄与する可能性がある。

シナリオ3:悲観シナリオ

ウクライナ情勢を巡る軍事的対立のエスカレーション(激化)はテールリスクだとみている。ここ数週間でこうしたエスカレーションの可能性が高まっているが、先に述べた代償を考えると、ロシアが西側諸国ならびに北大西洋条約機構(NATO)に公然と対抗し、大規模な軍事衝突に発展するという最悪のシナリオは回避されると考える。ロシアはウクライナで進行中の紛争に軍事介入し、ウクライナ領土を大規模に占領する意図はないと我々はみている。それよりも、ウクライナの一部領土への侵攻、紛争の長期化、軍事施設へのピンポイント攻撃の方が、ロシアにはより現実的な戦略と思われる。軍事的エスカレーションが行われたとしても、それは速やかな停戦、外交交渉の再開、紛争の地域限定化を狙った動きであると考える。とはいえ、ロシアによるウクライナ侵攻が現実化した場合は、経済制裁発動など、交渉の状況は新たな局面を迎える可能性がある。

シナリオ4:深刻な悲観シナリオ

衝突激化の結果、エネルギー供給が滞れば、世界経済の見通しにも影響する。そうした事態を招く要因として考えられるのは、(1)不測のエネルギー供給停止、(2)ロシアの政治的な判断、(3)ロシアのエネルギー・セクターを対象にした米国と国際社会による制裁、などである。(2)(3)については、ロシアがウクライナに大規模侵攻した時か、紛争が長引いた時にのみ発生すると考えられる。この場合、他の大半の景気敏感資産と同じく、株式市場は幅広く下落するとみられる。


本レポートは、UBS Switzerland AG, UBS AG London Branch, UBS Financial Services Inc.(UBS FS) および UBS AG Singapore Branch が作成した“Global risk radar: What do geopolitical tensions in Eastern Europe mean for global markets?”(2022年1月25日付)の一部を翻訳・編集した日本語版として2022年1月31日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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