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世界の株式急落、複数要因で

世界株式は先週、週間では2021年初め以来となる大幅な下げを記録した。

何が起きたか?

グローバル株式市場は先週、週間では2021年初め以来となる大幅な下げを記録した。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策引き締め加速への警戒感、ロシアとウクライナの緊張、一部注目企業の冴えない決算などが背景にある。S&P500種株価指数は先週5.7%下落し、欧州市場も1%下げた。新興国市場も1.5%下落したものの、堅調なコモディティ価格や中国の主要金利引き下げなどを要因に、先進国市場をアウトパフォームした。セクター別に見ると、景気動向に左右されにくいディフェンシブ株とコモディティ関連セクターを選好する動きが広がり、グローバル生活必需品(-1%)、ヘルスケア(-2.6%)、エネルギー(-0.8%)がアウトパフォームした。一方、金利上昇やインフレによる企業利益や消費支出への影響が懸念されて、情報技術(-4.4%)と一般消費財(-4.4%)がアンダーパフォームした。米国債については、イールドカーブ(利回り曲線)がフラット化した。市場は短期的な金利の上昇(米国2 年国債利回りは5ベーシスポイント(bp)上昇し1.01%)と、長期的な成長鈍化とインフレ懸念(10 年国債利回りは4bp 低下して1.76%)を織り込んだ。為替市場については、先週は安全資産への逃避が進み、円とスイス・フランがそれぞれ0.4%、0.3%上昇した。

この状況をどう解釈するか?

景気低迷や外的なショック、あるいは世界の金融情勢が想定外にひっ迫した場合には、FRBを始めとする各国中央銀行には経済を下支えするために介入する用意があるとの考えが、過去10年の間、市場の変動性(ボラティリティ)を概ね抑えてきた。だが、依然物価の高止まりが続く現況下では、こうした中銀の支援は必ずしも期待できるとは言えない。さらに、今週25~26日に開催予定の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBの金融政策の軸足が景気支援からインフレ対応へと明確にシフトする可能性がある。昨年の勝ち組だった巣篭り関連銘柄の一部には、決算が低調な企業もあるが、それが市場の不安感を助長したわけではない。全体としては、現在までに発表された決算は良好で、企業利益は平均して予想を5%上回っている。しかし一部の米国金融機関の決算発表から、利益率の圧迫に対する市場の懸念が高まった。ロシア・ウクライナ情勢も市場のテールリスクとして残る。2014 年のクリミア侵攻の際は、グローバル市場に与えた影響は限定的だった。だが、エネルギー市場はすでに需給バランスがひっ迫しており、情勢が緊迫化して原油と天然ガスの供給が滞れば、短期的な資源価格の急騰につながり世界の経済活動に支障をきたす恐れもある。これらを踏まえると、市場のボラティリティ上昇と投資家の不安感の高まりは理解できる。だが、以下に示した重要な事実も念頭に置いておく必要がある。

• 足元の急落によりボラティリティが高まったが、それ以前は相対的にボラティリティは低かった。現在、S&P500種は高値から8.3%下落しており、先週の各国株式市場のパフォーマンスは昨年初め以来となる下げを記録した。だが、こうした急落は珍しくはない。過去を振り返ってみると、S&P500種は平均して1年に2回、5%以上の急落を経験している。

• 足元の下落率は過去の「実質金利」ショック時と同水準である。2010年以降、実質金利が3カ月間で0.4%以上上昇した局面は6回あるが、その間S&P500種は平均して6.7%下落している。よって最近の状況は、さらなる株式市場の下落は限定的であることを示唆している。

• センチメントの悪化は有効な逆張り指標になりうる。アメリカ個人投資家協会(AAII)が週次で発表する直近の投資家センチメント調査によると、今後半年間に株価の上昇を予想すると回答したのは21%にとどまった。これは、1987年以降の全調査の97%を下回る数値だ。米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が55を上回り(12月は58.7)、AAII調査で株式市場に強気な投資家が25%を下回っているとき、株式市場は通常その後1年間で19%上昇している。一方、同様のケースで最悪の年間パフォーマンスは-3%にとどまっている。

• 金利上昇は株式にとって必ずしも悪材料ではない。1983年以降、FRBが最初の利上げに踏み切る前の3カ月で株式相場は平均して5%上昇している。また、利上げ直後はボラティリティが上昇しやすいが、多くの場合、利上げ開始から半年の間に株式相場はさらに5%上昇している。

• 新型コロナウイルスに関するデータが安心感をもたらしている。昨年末には新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」に関する懸念が高まったが、今年に入って現時点までの報道は概ねポジティブな内容だ。中国のオミクロン株関連のサプライチェーン混乱については不透明感がなお拭えないが、多くの先進国市場では移動制限が緩和されつつある。オミクロン株は、感染力は強いが比較的毒性は低く、医療体制は対処可能との見通しを示すデータが増えている。

市場を動かす複数の要因がいまだ流動的であることから、当面相場は変動が激しい展開となるだろう。

だが、市場のボラティリティが高まることで投機的な動きが弱まるとすれば、長期投資においては悪いことではない。例えばビットコインは年初来で21%下落している。また、ボラティリティが高まった足元の局面を、長期的なグロース株を数カ月ぶりの安値水準で買い付ける好機と捉えることもできるだろう。また、足元の経済情勢は極めて力強く、当面は景気敏感株やバリュー株の追い風となろう。我々は2022年末時点のS&P500種株価指数の見通しを5,100で据え置いている。

投資見解

• 利上げの影響を受けにくいセクターに注目する
UBSの年次レポート「Year Ahead 2022」でも取り上げた通り、我々はエネルギー及び金融セクターを推奨している。ともに2022年年初来アウトパフォームしており、金利上昇の影響を比較的受けにくい(場合によっては金利上昇から恩恵を受ける)セクターである。債券の中では米国シニア・ローンを推奨する。利回りが4.4%と魅力的なうえ、変動利付のためインカム面でも妙味がある。

景気敏感セクターへのエクスポージャーに対し、ヘルスケア銘柄でバランスをとる
ヘルスケアはディフェンシブ・セクターであり、経済情勢や政策の不確実性の影響を受けにくく、構造的な成長要素も高いことから、引き続き推奨している。世界のヘルスケア・セクターのベータ(市場感応度)は0.8と相対的に低く、バリュエーションは長期平均と比較すると割安である。ヘルスケアの株価収益率(PER)は、過去20年間、グローバル株式に対して平均9%のプレミアムで取引されてきたが、足元ではグローバル株式と同等の水準にある。

地政学リスクのヘッジ手段としてコモディティを検討する
ロシア・ウクライナ情勢が緊迫化した場合には、株式市場は売られる展開となるだろう。ただし、その場合でもエネルギー株とコモディティは上昇する見通しが高い。地政学リスクを考慮せずとも、最近の原油価格と中期的な見通しを勘案すると、エネルギー株は割安であるとみている。

• ボラティリティをとらえて長期エクスポージャーを構築する
ボラティリティが一時的に高まった局面をとらえて、長期的なエクスポージャーを構築することができる。「Year Ahead 2022」でも取り上げた人工知能(AI)、ビッグデータ、サイバーセキュリティの「ABC技術」は、今後10年にわたり魅力的な収益成長機会を提供すると考える。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: The sell-off in context”(2022年1月23日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年1月24日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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