House View Weekly

2022年年初の5つの質問

米連邦準備理事会の引き締めペースやオミクロン株の感染急拡大をめぐる懸念が高まる中、金融市場は変動の激しいスタートを切っている。

今週の要点

数十年ぶりの高いインフレ率がFRBのタカ派姿勢を後押し

12月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比7.0%上昇し、1982年以来の高い上昇率となった。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアCPIですら前年同月比+5.5%と30年ぶりの高水準をつけた。パンデミックに伴うサプライチェーンの混乱が一部品目の価格押し上げ要因となった模様で、中古車などは新型コロナウイルス感染拡大当初比で53%上昇しているが、物価上昇のすそ野は広がり続けている。クリーブランド連銀が発表する、変動率が大きい品目を除外した刈り込み平均CPIも、1年前の前年同月比2.1%から4.8%に上昇した。今回のCPIは、最近の米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢への転換を裏付けるものであり、現在、早ければ3月にも最初の利上げ、その後年内に2回の利上げが行われる可能性が高まっている。FRBの利上げは米国10年国債に一段と逆風になるため、米国債への投資は推奨していない。ただし、米国シニア・ローンなどの債券は、利回りが4.4%と魅力的なうえ、変動利付のため利上げ局面でも比較的マイナスの影響を受けにくいことから、引き続き投資妙味があるとみている。伝統的な国債やクレジットは高利回りの獲得が難しいため、長期投資を厭わない投資家にはプライベート・クレジットを推奨する。中小企業向け第一順位ローンについては、ベンチマークを400~600ベーシスポイント(bp)上回ることができると予想する。

要点:伝統的な債券市場の上値は限定的だ。そのため、シニア・ローンや、プライベート・クレジットなどの非伝統的な市場に目を向けることを勧める。

市場の注目はFRBやパンデミック不安から決算発表に移るだろう

FRBの金融引き締めペースや新型コロナのオミクロン株の急拡大に対する懸念が高まる中、株式市場は年初から値動きの荒い展開が続いている。ジョンズ・ホプキンス大学の週次データによると、新型コロナウイルスの感染者数は、昨年4月のピーク時の3倍以上のペースで増加しており、従業員が感染して自宅待機を余儀なくされるなど、その影響に言及する企業が増えている。だが我々は依然として、オミクロン株の急速な感染拡大もFRBの金融引き締めも、株価上昇の妨げとはならないとみている。最初に感染が確認された南アフリカなどのデータからは、オミクロン株はきわめて感染力が強いため蔓延するまでの時間が短く、感染の波は短期に終わる可能性が示唆されている。英国やニューヨーク市でも感染状況はピークをつけたようだ。一方、金融引き締め関連に目を向けると、過去、FRBが利上げに転換する前の株式市場のパフォーマンスは好調であった。1983年以降、S&P500種株価指数はFRBが最初の利上げに踏み切る前の3カ月間に平均5.3%上昇している。また先週から始まった米国企業の2021年10-12月期(第4四半期)決算発表は好調で、市場の注目は再びファンダメンタルズに向かうと予想する。第4四半期の経済活動の持ち直しと底堅い消費支出を背景に、企業利益はコンセンサス予想を7ポイント上回り、前年同期比30%近くの増益になると予想している。

要点:力強い世界経済成長に備えたポジションを引き続き推奨する。こうした状況下では、ユーロ圏や日本の株式など景気敏感市場の上値が大きいとみている。

2022年はエネルギー株が好調の見通し

今年の各国株式市場はまちまちなスタートを切ったが、原油価格は50%上昇した昨年に続いて今年も約10%上げている。エネルギー株は昨年35%上昇したコモディティに対して出遅れており、今年は追いつく余地があるといえる。足元の原油価格は1バレル当たり85米ドル近辺で推移しているのに対して、エネルギー・セクターはいまだに1バレル当たり60~65米ドルを織り込んでいる。今年の世界の石油需要は2019年の水準を上回る勢いである一方、OPECプラス(石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成)の生産余力は低下しており、ブレント原油は今年1バレル80~90米ドルで推移することが予想される。利回りを見いだすのが難しい中、S&P500種企業とユーロ・ストックス50企業の平均配当利回りがそれぞれ1.7%と2.4%であるのに対して、エネルギー・セクターの配当利回りは6%と非常に高い。脱化石燃料の流れを見据えた戦略は重要であるが、石油・ガス需要も2030年代までは堅調に拡大するものとみている。一方、市場は石油・ガスの大幅な需要減少を織り込んでいる模様であることから、エネルギー株はきわめて割安に見える。

要点:世界経済の持続的な回復と高まるエネルギー需要を背景に、原油・ガスのみならず幅広いコモディティ市場で事業展開する企業について強気の見方を維持する。

深読み

2022年年初の5つの質問

米連邦準備理事会(FRB)の引き締めペースやオミクロン株の感染急拡大をめぐる懸念が高まる中、金融市場は変動の激しいスタートを切っている。以下はよく聞かれる5つの質問と我々の回答である。

1. FRBの金融引き締めによって株式市場の上昇局面は終わるのか?

米国の金融政策については、最初の利上げが2022年3月に実施され、年内の利上げは計3回(各25ベーシスポイント)と予想している。年後半にはバランスシートの縮小に着手する可能性もある。FRBは従来の想定よりも速いペースで金融政策の正常化を進める方向性を示唆している。だが、我々は、正常化が進んでも企業利益の見通しが悪化するとはみていない。企業利益は堅調な経済成長、力強い個人消費、依然容易な資金調達によって下支えされている。2022年の米国の経済成長率は引き続きトレンドを上回る水準で推移すると見込む。またS&P500種株価指数構成企業の利益成長率は2022年が12%、2023年が9%と予想する。過去の事例を振り返ってみても、FRBの引き締めサイクルの開始によって株式市場のパフォーマンスが悪化することはなかった。1983年以降、S&P500種株価指数はFRBが最初の利上げを実施する前の3カ月間に平均で5.3%上昇し、利上げ後の6カ月間でもさらに5.3%上昇している。

2.   インフレの高止まりは続くのか?

12月の米消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は7.0%となり、1982年以来の高水準に達した。データにより、自動車など一部セクターの供給制約が続いていることが明らかとなった。新車の供給が滞る中、中古車の価格はパンデミックの発生以来53%上昇した。インフレ率は当面は高止まりの状態が続くものと見込まれる。新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最多の水準が続き、労働力不足に拍車をかけ、正常な経済環境への移行を遅らせている。しかし、総合インフレ率は1-3月期にピークをつけ、年末には2%まで沈静化すると予想する。経済成長率が正常化に向かうにつれて、需要の急拡大も落ち着き始めるとみている。サプライチェーンの問題が解消すれば、中古車など価格高騰が著しい一部の物価が明確に低下し、インフレ沈静化に寄与するものと考える。また、エネルギー価格が安定化し、労働市場の需給ギャップが解消することで、賃金上昇圧力が弱まると予想する。

3.  オミクロン株は株式市場の上昇を損なうか?

我々は株式市場の上昇が損なわれるとはみていない。これまでに入手されたデータによると、オミクロン株が感染の主流となる動きが強まっているが、感染力は強いものの、デルタ株よりも症状が軽いことが示されている。感染者数と重症化率や死亡率との関係は低下傾向にある。感染力が強く、重症者数は絶対ベースで上昇したが、感染の波は短くなる可能性がある。感染率は、南アフリカ、英国など最初に感染が確認された国ではピークを打った。株式市場は、第1波を除き、感染拡大の局面でも上昇した。第1波(2020年2月上旬~同年4月)到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が-13.4%、米国株式市場が-11.3%とマイナスになった。しかし、2020年6月の第2波到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が+6.6%、米国株式市場が+9.4%となり、プラスリターンに転じた。2021年5月のデルタ株の波の到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が+7.8%、米国株式市場が+10.1%となった。

4.  テクノロジー株は買えるのか?

ナスダック総合指数は11月に最高値をつけたが、その後7.4%低下している。利上げ懸念がグロース株のバリュエーションの重石となった。FANG+指数は当該期間に9%下落した。テクノロジー・セクターは利上げによりさらに5~10%下押しされる可能性があるとみているが、世界の同セクターの今年の利益成長率予想は約15%であることを踏まえてこれを考慮する必要があると考える。投資家には以下の投資行動をとることを勧める。6つのテクノロジー産業(半導体、ハードウェア、デジタル・メディア、eコマース、ソフトウェア、サービス)は、グローバル株式市場の時価総額の3分の1を占める。エクスポージャーが同ベンチマークよりも高い投資家は、エクスポージャーを減らし、エネルギー、金融など景気敏感株を代わりに組み入れることを勧める。エクスポージャーが同ベンチマークと同水準にある投資家は、超大型株や半導体株など極めて高いリターンを示したセグメントへの集中リスクを回避するために入れ替えを行うこと、中小型株や人工知能(AI)、ビッグデータ、サイバーセキュリティの「ABC技術」に投資をすることを勧める。エクスポージャーが同ベンチマークよりも低い投資家は、足元の市場の調整局面を利用して、大きく売られた質の高いテクノロジー銘柄に徐々に買いを入れることを勧める。

5.  中国株は底打ちしたか?

MSCI中国指数は2021年2月に過去最高値を付けた後、政府によるIT大手や不動産業界への規制強化、エネルギー不足、景気減速などが影響し、年末まで下落傾向を辿った。だが、2022年に入るとMSCI中国指数は年初以降1.7%上昇し、FRBの利上げ観測と欧米でのオミクロン株感染拡大の影響で下落したMSCIワールド指数(-1.8%)とS&P500種株価指数(-2.2%)をアウトパフォームした。先週には同指数は2.9%上昇した。ニューエコノミー・セクターのバリュエーションは、2021年2月のピーク以降大きく下落した。企業が新規制の遵守に取り組む中、当面は高いボラティリティ(変動率)が続く可能性があるが、発表された新政策の影響は、大半が市場価格にすでに織り込まれたと考える。インフラ投資や脱炭素を促進する施策など、政策面での追い風も期待できる。また、サイバーセキュリティやスマート製造(工場)への企業投資も拡大が見込まれる。コロナ抑制策の緩和に伴い、特に年後半には消費の伸びが上向くとみている。以上を踏まえ、中国株式市場の2022年のリターンは10%台中盤を予想する。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年1月17日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年1月19日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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