House View Weekly

2021年の振り返りと2022年の見通し

昨年の市場についての主な見解と、昨年終盤の市場に大きな影響を及ぼした新型コロナ変異株と米連邦準備理事会の金融政策が今年どのように市場に影響を及ぼすか見通しを述べる。

今週の要点

FRBがタカ派姿勢を強める中でも債券にはまだ投資機会あり

2021年12月14~15日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が5日に公表された。議事要旨が相場の材料となることは少ないが、今回は例外であった。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ時期が投資家の想定よりも早まる可能性が明確に示されたからだ。今回特に注目されたのが、「高まるインフレ圧力に対処する」必要性が指摘されたことだ。その後発表された11月の個人消費支出(PCE)価格指数は、前年同月比で+5.7%と約40年ぶりの伸びを示した。FRBがインフレ指標として重視するPCEが高い伸びを示したことで、投資家の早期利上げ懸念が一段と高まる可能性がある。また、一部の政策担当者は、米国経済がFRBの最大雇用目標を達成するまでそう遠くないとの見方を示した。12月の非農業部門雇用者数は予想を下回ったものの、失業率は0.3ポイント低下して、新型コロナ感染拡大前につけた50年ぶりの低水準をわずかに上回る3.9%まで低下した。こうした環境下、足元では早ければ今年3月にも利上げが行われる可能性がある。その後年内は6月と9月の2回、2023年と2024年はそれぞれ2回の利上げが行われると我々は予想しており、よって米国債は推奨していない。米国10年国債の利回りは先週、2021年末比で約24ベーシスポイント(bp)高い1.77%に上昇した。とはいえ、利上げ局面で有利な変動クーポン債券(シニア・ローンを含む)にはまだ投資妙味があると考える。

要点:FRBは2022年の金融緩和政策の引き締めに向けて足場を整えているが、過度な引き締めとならないよう引き続き警戒するだろう。国債利回りと社債のクレジット・スプレッドが過去の水準から見て低いことから、プライベート・クレジット、債券のアクティブ戦略、高配当株など、非伝統的な市場での利回り追求に投資妙味があるとみている。

オミクロン株もFRBも、株価上昇の歯止めとはならず

株式市場はこのところ、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大よりもFRBの金融引き締めに反応している。世界の感染者数は2021年のピーク時を75%ほど上回る記録的な高さにあるが、感染者数と病床使用率や死亡率との関係が低下傾向にあることを踏まえれば、市場のこうした反応は頷ける。だが、オミクロン株もFRBのタカ派姿勢も、経済成長を弱めたり株価上昇に歯止めをかけたりすることはないと我々は考える。昨年夏からFRBが徐々にタカ派姿勢を強めているにもかかわらず、株式市場は堅調に推移し続けている。また過去を振り返ってみると、利上げに転換する前の数カ月間は株価のパフォーマンスが堅調に推移していることがわかる。1983年以降、S&P500種株価指数はFRBが最初の利上げに踏み切る前の3カ月間に平均5.3%上昇している。また、旺盛な消費支出や資本調達の容易な環境という追い風を受けて平均以上の経済成長率が続いている中で、FRBの金融政策の正常化が企業利益の見通しに影を落とすとは思えない。とはいえ、先週は株価が下落した。これは2022年に株式市場のボラティリティ(株価の変動幅)が高まるという我々の見通しに沿った動きであり、今後はFRBプット(FRBが金融緩和を繰り出して相場下落を支えること)による下支えも薄れるだろう。よって、地域と資産クラスの両面で分散を強化し、景気循環株だけでなく景気の動向に左右されにくいディフェンシブ株も取り入れることを勧める。

要点FRBの議事要旨はタカ派姿勢が強まったが、株価は今後も上昇し、また潜在成長率を上回る米国および世界経済成長において景気敏感セクターが相対的な勝ち組になるという我々の基本シナリオは変わらない。ヘルスケア・セクターは、こうした我々のシナリオとディフェンシブなポジションとをバランスよく取り入れる魅力的な手段であると考える。

巨大IT企業以外のテクノロジー銘柄にも注目

米国金利の上昇懸念を受けて、グロース株、とりわけテクノロジー・セクターが大きな打撃を受けている。12月のFOMC議事要旨公表後、S&P500種株価指数の下げが1.9%にとどまる一方、IT銘柄中心のナスダックは3.3%下げている。金利上昇は大半のテクノロジー・セクターに逆風となるが、昨年は巨大IT企業に買いが集中したため(S&P500種株価指数の上昇率の8.8パーセントポイントが巨大IT企業5社によるもので、これは過去平均の倍以上)、テクノロジー・セクター内で投資先を分散させることを勧める。リターンの見通しが最も高いのは、人工知能(AI)、ビッグデータ、サイバーセキュリティに携わる企業だろう。この3つの投資テーマは、オートメーション、データ分析、セキュリティといった、多くの企業が戦略的重点分野とする長期トレンドが後押し要因となる。我々は、この3つの投資テーマの2020~2025年までの売上高成長率を、年平均でテクノロジー・セクター全体(年率1桁台半ばから後半)を上回る10%、1株当たり利益(EPS)成長率を16%と予想する。

要点ここ数年間、米国の巨大IT企業の株価パフォーマンスは好調に推移しており、FANG指数は2020年に103%、2021年は17.5%上昇した。投資家にはリバランスの好機であるとみる。

深読み

2021年の振り返りと2022年の見通し

1月第1週は、昨年終盤の市場リターンに大きな影響を及ぼした新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策について、新たな情報が得られた。以下では、昨年の市場の動きについての主な見解と、2つの要因が今年どのように市場に影響を及ぼすか見通しを述べる。我々は株式市場の新型コロナウイルスに対する耐性が一段と高まるものと考える。また株式市場は、ペースが速いFRBの金融引き締めを乗り越え、上昇傾向を辿ると予想する。

2021年の見解と2022年の見通し

2021年はパンデミックが続きながらも、世界の大半の株式市場はプラスに転じた。米国株式市場のリターンは29%近くとなり、過去最高値をわずかに1%程度下回る水準で1年の取引を終えた。一方、中国などごく少数の市場は前年比で下落して終わった。インフレ率が数十年ぶりの高水準に達しながらも、景気回復と緩和的財政政策・金融政策の継続が株式市場の上昇を後押しした。2021年の市場パフォーマンスについて、いくつか振り返りたい。

1. 株式市場の新型コロナウイルスに対する抵抗力が次第に高まった。

世界の株式市場は、年終盤にオミクロン株出現による不安心理が高まったが、大きく上昇して1年を終えた。繰り返される感染拡大の波にも株式市場はさほど大きな打撃を受けず、パンデミックに高い耐性を示した。第1波(2020年2月上旬~同年4月)到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が-13.4%、米国株式市場が-11.3%とマイナスになった。しかし、2020年6月の第2波到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が+6.6%、米国株式市場が+9.4%となり、プラスリターンに転じた。2021年5月のデルタ株の波到来後3カ月のトータルリターンは、グローバル株式市場が+7.8%、米国株式市場が+10.1%となった。

今後の見通し:これまでと同じように、オミクロン株の市場への影響もこうしたトレンドを辿るものと予想する。オミクロン株の感染が急速に拡大しているが、入手可能なデータによると、ワクチン接種者あるいは既に新型コロナに感染した人がオミクロン株に感染した場合の症状は比較的軽いとされている。我々の基本シナリオでは、市場は徐々にウイルス感染拡大の先を見据え、良好な経済ファンダメンタルズ(基礎的条件)に注目を移すようになるとみている。投資家は、短期的な不安材料が高まる中でも長期的な視点を維持することが重要であり、投資を継続することを勧める。

2. 2021年は株式市場にとって良好な年となったが、一部の市場は低迷した。

世界や米国の株式市場が堅調に推移した一方で、中国株式市場のリターンはマイナスとなった。MSCI中国指数は2月に過去最高値に達した後、政府によるITや不動産業界への規制強化、エネルギー不足、景気減速などが影響し、年末まで下落傾向を辿った。同指数の2021年のリターンは-21.7%となった。

今後の見通し:2022年は地域経済の動向が前半と後半で大きく変わると予想する。年前半は、先進国市場の経済が新興国市場に比べて異例の速さで成長するが、年後半は新興国市場が大きく成長するとみている。中国は足元のコロナ抑制策、エネルギー問題、規制強化の逆風が1-3月期(第1四半期)を通して経済活動の重石になると考える。しかし、第2四半期以降はこうした圧迫要因が後退し、追加の金融緩和策・財政政策も打ち出され、経済活動が活発化するとみている。中国株式市場の2022年のリターンは10%台中盤になると予想する。

3. 物価は上昇したが、利回りは上昇しなかった。

米国のインフレ率が年末に7%近くに達すると予想した者はほとんどいなかった。一方、米国10年国債利回りの年末の水準は1.5%にとどまった。足元の1.77%近辺でも、高インフレ率から想定される利回り水準を依然下回っている。インフレ率の上昇は想定以上に幅広く、かつ長期にわたり続いたが、中古車や衣類など、需要拡大の影響が大きい製品やサービスの一部では、価格の正常化の兆しが見え始めている。2022年は、エネルギー価格が安定化し、労働市場の需給ギャップが解消することで、賃金上昇圧力が弱まると予想する。今後の見通し:2022年は通年でインフレ率が低下すると見込む。平均インフレ率はアジアが2.7%、ユーロ圏が2.2%、米国が4.2%程度と予想する。こうした物価上昇リスクを踏まえ、中央銀行は2022年には金融緩和の縮小を行うと考える。昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が予想以上にタカ派的であったことからも、FRBは他の主要中央銀行に先行して金融政策の引き締めを進めるものと見込まれる。FRBは早ければ3月に利上げを開始し、年内3回実施されると我々はみている。ただし、FRB高官は過度な引き締めによる景気減速リスクは引き続き警戒するだろう。このため、金利と利回りの上昇は緩やかなペースになると予想され、米国10年国債利回りは足元の1.77%から2022年6月には2%程度までの上昇になると見込む。金利収入の拡大を追求するには、米国シニアローン、プライベート・クレジット、債券のアクティブ戦略、高配当株式など、非伝統的な利回り源泉を検討する必要があるだろう。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年1月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年1月12日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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